187・トラック野郎、無双②/アイスデコトラカイザー
モンスターを倒しながらメチャクチャに進んでいたので、現在位置が森の近くの平原というのがわかった。そして、森の中から木をなぎ倒し、巨大なモンスターが現れた。
「で、でけぇ……」
『警告。災害級危険種《剛魔ユーミール》確認』
「へ、やってやる」
敵は人間型のモンスターだ。
皮膚の色は薄い灰色、顔は鬼、全身が鋼の筋肉に覆われ、何より驚いたのは腕が八本ある事だった。
災害級危険種って事は、こいつもベラベラ喋るんだろうか。
『ウガォォォォォォォォォォォーーーーーーッ!!』
「うぉぉぉっ!?」
とんでもない雄叫びに、森の木々に停まっていた鳥形モンスターが一斉に飛び去った。どうやらハンパなく怒ってらっしゃるようで。
「よし、ドライビングバスター・双剣モード。ハイウェイストライガー・待機モード」
『畏まりました』
両刃大剣であるドライビングバスターが半分に割れ片刃の二本剣になり、ハイウェイストライガーはクローモードになり、爪がひっこんだ。
「よっしゃ行くぜーーーーーーッ!!」
俺は双剣構え、全身から怒りを発してるユーミールに突っ込んだ。
双剣は接近戦用の武器、見るからに腕力に自信がありそうなコイツを正面から倒してやる。
「喰らいやがれッ!!」
双剣を交差させ、そのまま胸を切りつける……が。
『………』
「え」
剛魔ユーミールの胸は、傷一つ付かなかった。
分厚いゴムを木の棒で叩き付けたような、そんな感触。
「こ、このっ!!」
『………』
俺はコントローラーのボタンを連打し、双剣のラッシュを叩き込む。
だが、剛魔ユーミールは防御すらしない。腕を広げ胸を張って「もっとやれ」と言わんばかりにニヤニヤしてる。
『警告』
タマの警告が入った瞬間、もう遅かった。
『ハハァァッ!!』
「しまっ」
ユーミールは広げた八本腕を閉じ、デコトラカイザーをガッチリ掴む。
腕を掴まれ、ボディを押さえられ、頭部をガッチリ掴み、ギシギシと握りつぶそうとしていた。
「こ、この、離せッ!!」
ボタンを連打するが離れない。
それだけじゃない。掴まれてる部位は腕・頭・ボディ、六本の腕……じゃあ、残りの二本は?
『ガハハァァァァッ!!』
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
残った二本の腕で、デコトラカイザーの胸部を殴りつける。
車体が揺れ、コックピットが揺れる。
『警告。ダメージ中。すみやかに離れて下さい』
「待て待て、こいつのパワーとんでもねぇぞっ!? 操作が利かないっ!!」
コントローラのアクションコマンドを連打してるが、腕はギシギシ軋むだけで動かない。
『社長。脚部コマンドをお使い下さい』
「そ、そうか……くらえッ!!」
俺は躍起になって武器を振るおうと上半身ばかり動かしていたが、足は動く。
楽しそうにボディを殴るユーミールの股間を、思い切り蹴り上げる。
『グルァッ!?……グアォォォォッ!!』
「うおぉぉぉっ!? お、怒らせてまった!!」
股間蹴りは効いたのか、ユーミールのラッシュが怒りのラッシュに変わる。
ボディには亀裂が入り、細かいパーツもバラバラと落ちる。
『警告。車体ダメージ中。間もなくボディは中破します』
「その前に潰してやるっ!! おりゃりゃりゃりゃりゃーーーーーーッ!!」
ボディを殴るユーミールと、股間を蹴りまくるデコトラカイザー。
ユーミールの股間にはボロ切れが巻かれてるが、イチモツはちゃんとある。つまりタマもあるってことだ……潰してやる。
『グヌゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』
「潰れろーーーーーーッ!!」
俺の渾身の一撃と、ユーミールの拳。
ユーミールのタマが潰れ、デコトラカイザーのボディは同時に中破した。
『ギャオォォォォォォォッ!?』
「く……よし、離れた!!」
ユーミールは股間を押さえ絶叫、ボディの中破したデコトラカイザーはなんとか腕から解放され、距離を取る。
「タマ、経験値を消費して回復。そんで変形だ」
『畏まりました。フォーム選択をお願いします』
「アイツに近付くのは厄介だしパワーもある。ダンプかブルでゴリ押しもいいし、クレーンジャケットでミンチにするのもいい………でもここは、冷凍車……アイスフォームで行くぜ!!」
『畏まりました。経験値消費、デコトラカイザー損傷回復。冷凍車へ変形』
するとデコトラカイザーはトラックに戻り、運転席の内装が変化した。
純白のボディに大型の冷凍コンテナを搭載した、これからの商売に役立つであろう冷凍車に変形する。
『グヌ……ガァォォォォォォッ!!』
ユーミールもどうやらお怒りのようだ。
痛みを恨みに変えたのか、冷凍車を睨み付ける。
「行くぞタマ、デコトラ・フュージュン、アイスフォーム!!」
『了解。変形シークエンス開始』
姿形が似てるせいか、デコトラカイザーと同じようなスタイルへ変わるが、唯一違うのはコンテナの一部が右腕に代わった事だ。そして右手は手ではなく砲身に変わる。
「アイスデコトラカイザーッ!! 運搬開始っ!!」
純白の美しいボディ、スタイリッシュなシルエット、だが右腕だけ巨大な砲身へと変わった。
コイツの特徴は特異性。攻撃力は低いし防御力もユニックデコトラカイザー並。だが、他のフォームにはない特殊武器を搭載している。
『グガアァァァッ!!』
ユーミールは怒りの咆吼を上げ、股間から血を流しながら迫って来た。
「甘いな、『ブリザードバスター』っ!!」
右手の砲身をユーミールに向けると、絶対零度の吹雪が吐き出される。
『グヌ、オォォォォッ!?』
「おらおら、凍り付け!!」
ブリザードバスターの冷気がユーミールと、その背後を氷の世界に変えていく。
だが、全身を凍り付かせながら、ユーミールは少しずつ前進する。
「なら、モードチェンジ!! クラックショット!!」
『ギャァァァァァァッ!?』
吹雪が止み、バスターから氷の塊がガトリングのように発射された。
ユーミールの身体から血が噴き出し、その血も凍り付く。
『ぐ、ォォォォ……』
ユーミールはボロボロの状態で立ち上がるが、凍り付いた地面で足を滑らせた。
「とどめだ、コマンド入力……」
『入力成功。《コキュートスノウヴァ》発動》
バスターを正面に構えると、バスターが変形し、バチバチと紫電が集中する。
「お前の肉、冷凍保存して出荷してやる」
『発射』
そして、絶対零度の純白に輝く極太レーザー光線が発射され、ユーミールは瞬間凍結……そのまま砕け散った。
こうして、災害級危険種《剛魔ユーミール》を討伐した。
強敵を倒し、デコトラカイザーのままタマと会話した。
『お疲れさまでした社長。なかなか素晴らしい操縦でした』
「そりゃどーも。ははは……いや、なんかゲームやってた延長なのか、そんなに怖くなかった」
『恐らく、社長も成長なさってるのでしょう。シミュレーションでの経験、ダンジョンでの命の危機、ミレイナ様の誘拐などの事象が積み重なり、一種の催眠作用を引き起こしている可能性があります』
「催眠って………まぁ、あながち間違っていないかも」
ミレイナが攫われた事でムカついてるのも事実だし、ダンジョンでの経験が俺の精神を成長させたってのも間違ってない。それにシミュレーション……あれのお陰で操縦が上手くなった自信もある。これからは定期的にやろう。
『社長。モンスター反応です』
「またか……こうなったらとことん相手してやる。タマ、安全な位置の検索頼むぞ」
『畏まりました』
ここは人間界と魔界を繋ぐコロンゾン大陸。
人間も魔族も入らない、危険度マックスの魔境。
「タマ、災害級危険種は近くに居るか?」
『検索中…………検索完了。南西一八〇キロ先に反応アリ』
さて、実戦経験を積みまくって強くなるぜ。
ここは俺にとって、絶好の修行場所だ。