186・トラック野郎、無双①/ダンプデコトラカイザー
デッドマン樹海は人間界屈指の魔境だが、タマとトラックなら普通の森と変わらない。むしろ凶悪なモンスターが出ないだけでかなりありがたい。
途中で、この森から出られなくなった冒険者らしき遺骨を弔ったり、意外にも綺麗な泉があったので休憩しながら進むと、ようやく樹海の出口が見えた。
『前方二〇〇メートル先出口となります。その先コロンゾン大陸入口。前方は崖となっておりますのでお気を付け下さい』
「崖?」
確かに、前方から光が差し込んでいる。出口らしいけど崖とは?
とりあえずゆっくり進み、出口辺りで減速し停車した。
「·········う、わぁ」
そこには、広大な大地が広がっていた。
緑豊かな大地、恐ろしく巨大な恐竜みたいな生物が群れで駆け回り、プテラノドンみたいな翼竜が空を駆け回る。
全ての生物が巨体で、小さい生物でもトラック並みの大きさだろう。
『視認出来る生物は全て超危険種モンスターです。更に災害級危険種を感知。こちらの存在に気付かれてはいませんが、コロンゾン大陸に降りれば戦闘は避けられません』
「············」
『社長。覚悟を』
「タマ」
俺はタマが言う前に黙らせる。
不思議と落ち着いていた。恐るべきモンスターが群れを成しているのに、それほど怖いとは感じてない。
「タマ、コロンゾン大陸に入ったらダンプカーに変形。突っ切るぞ」
『畏まりました』
さぁ、弱肉強食の大草原に出発だ。
ダンプカー。
俺が新たに獲得した変形であり、パワー特化のバケモノトラック、そして俺のイメージでは工事現場とかで砂や石ころを運ぶような感じだったが、現物は違った。
確かこれ『オフロードダンプトラック』だよな。
海外とかで使われてそうな、超デカいダンプカー。確か、公道を走る事は出来ないやつだ。
メインカラーはブラックで、男の車って感じがする。
「おらおら退けどけーーーーッ!!」
そんなバケモノダンプカーで、俺はコロンゾン大陸を爆走していた。
トラックよりもデカいし、タイヤの大きさもハンパない。しかもパワーも凄いからデカいトカゲも楽々と弾き飛ばせる。
だが、流石は超危険種と言ったところか。ダンプで巨体なゴリラに体当たりしたら止められ、思い切り威嚇された。
『ガァァァァァッ!!』
「やんのかコラァァァァッ!!」
俺のテンションもちょっとおかしい。
すると、ゴリラの仲間らしきバケモノが、集団で現れた。
『超危険種マウンテンビッグコング確認。数は一〇』
「デコトラ・フュージョン!! ダンプフォーム!!」
タマが言い終わる前に叫んでいた。
何でだろう、今の俺はテンションも相まって好戦的だ。
『了解。ダンプデコトラカイザー。変形シークエンス開始』
車体が持ち上がり、コックピットへ移動する。
大きさはデコトラカイザーよりも大きく、全体的にゴツゴツしてる。そして背中には巨大な荷台を背負っていた。
「ダンプデコトラカイザーっ!! 運搬開始っ!!」
カッコいいポーズを決め、戦闘開始だ。
「先手必勝っ!!」
コントローラを操作し、一番近くにいたゴリラに向かって走り出す。意外な事にスピードはそこそこあった。
『ウホウホウホウホウホッ!!』
「やかましいっ!!」
ドラミングを始めたゴリラに向かい、ダンプデコトラカイザーのパンチをお見舞いする。
「オラァッ!!」
『ウボォッ!?』
ゴリラの顔面にパンチが突き刺さり、もんどり打って転がる。
すると残り九匹のゴリラが全て襲ってきた。
『ウボォォォッ!!』
『グォッグォッグォッグォッ!!』
俺はモニターで確認しながら、コントローラを巧みに操る。
以前ならアナログスティックを思い切り倒し逃げていたが、もうそんな情けない事はしない。
まず、巨大な腕でパンチを繰り出そうとするゴリラを相手に、アナログスティックを僅かに倒してパンチを回避、そのままアクションコマンドを入力して強烈な蹴り上げを食らわせた。
『ブゴォッ!?』
一匹目。
吹っ飛んだゴリラを無視し、背後にいた三匹に向かう。
まず、二匹を交互にパンチで沈め、更に近くにいた一匹の股間を蹴り上げて悶絶させる。これで四匹。
思った通り、このゴリラは格闘戦しか出来ない。ならば圧倒的なパワーでねじ伏せる。
「残り五匹······」
『ウホウホウホウホウホウホ』
ウホウホやかましいが、どうやら連携するらしい。
五匹のゴリラがダンプデコトラカイザーを囲み、ドラミングを始めた。
「だったらこっちは武器を使うぜ。『マンモスバケット』っ!!」
背中にある荷台が外れる。
ダンプデコトラカイザーがその場でジャンプすると、まるでスケボーのように荷台が足元へ、そして上に立つ。
「タマ、必殺技コマンド入力っ!!」
『コマンド入力成功。《バーバリアングライダー》発動』
シミュレーションで何度もやった必殺技。
スケボーのように荷台の上に乗ったダンプデコトラカイザー、
そして荷台に搭載された噴射口が火を吹き、地面を抉りながら滑走した。
「轢き殺すぜぇぇぇーーーーッ!!」
アナログスティックを操作し、残りのゴリラを次々と轢く。
ゴリラは轢かれるとミンチになり、全てのゴリラを討伐した。
「っしゃあっ!!」
『社長。モンスターはまだ無数にいます』
「おーし、ブルフォームに変形。タンクモードで突っ走るぞ」
『了解。ブルデコトラカイザー変形』
車体が揺れ、一瞬でブルフォームへ変形。
そのまま車高が低くなり、上半身はロボ、下半身はキャタピラに変形した。
「ドライビングバスター・ガトリングモード起動」
『了解』
大剣モードのドライビングバスターが変形。
両刃の大剣の中央部分が開き、中からガトリングの銃身が現れる。そして両手で構えて前進した。
『前方。ヴェノムフロッグ確認』
「イチイチ敵の名前を呼ばなくていい、どうせ全部同じだ!!」
『了解』
ガトリングガンを構え、ブルデコトラカイザーは走り出す。
まずは、目の前にいる気持ち悪い巨大カエルを蜂の巣にした。
『パンパカパーン。レベルが』
「全部後回し!!」
現れるモンスターを蜂の巣にしながら進む。
嬉しいのは、弾切れという概念が無いことだ。残弾数を気にすることなく撃ちまくれる。
これってアレだ、無双系のゲームだ。
カエルだけじゃなく、ガトリングを撃ちまくってるおかげかモンスターがワラワラと集まって来た。
どれもこれもハンパじゃない。認めてないわけじゃないが、太陽達が外に出て戦ってもスタミナが持たないだろう。
「へへへ、いいカモだぜっ!! トラックフォーム変形、ドライビングバスター・大剣モード、ハイウェイストライガー・クローモード!!」
無数のモンスターに囲まれ、ガトリングだけじゃ厳しくなってきた。
なので基本形態であるトラックフォームに戻り、使い慣れた大剣と新装備ハイウェイストライガーを装備する。
ハイウェイストライガーは、左腕に装着する籠手と一体型のクローモード、巨大な片刃斧のアックスモード、連射性に優れた拳銃タイプのガンモードに変形する近中距離に優れた万能武器。まずは接近戦で戦おう。
「いっくぞーーーーーーッ!!」
大剣を振り上げ、眼前の敵に切り込んだ。
名前なんかどうでもいい、とにかく目の前にいるモンスターを斬って斬って斬りまくり、左手の爪で裂きまくる。
『ギャオォォォォッ!!』
「おっと、甘いッ!!」
グリズリーを巨大化させたような化け熊が、背後から攻撃してきた。だが俺はそのまま体勢を変えず、背後に向かってキックを繰り出す。
すると化け熊の首にヒット。『ゴギンッ!!』と首の骨がへし折れたようだ。
「おらおらおらぁぁぁぁぁっ!!」
パワーが上がったお陰か、超危険種も容易く両断できる。
すると、コックピット内に警告音が鳴り響いた。
『警告。警告。上空から超々危険種『デモンワイバーン』確認』
「上空か、それなら……ドライビングバスター・キャノンモード、ハイウェイストライガー・ガンモード変形!!」
『畏まりました』
ドライビングバスターキャノンを右手、ハイウェイストライガーガンを左手に持ち、まずは眼前の雑魚集団を撃ちまくる。
「わーっはははははーーーーーーッ!!」
その場で回転しながら撃ちまくり、雑魚集団はバタバタ倒れていく。
砲身を真上に向け、空を飛ぶドラゴンのようなバケモノに弾を浴びせまくると、面白いようにボトボト落ちてきた。
「ハイウェイストライガー・アックスモード!!」
右手でキャノンを撃ちながら、左手の銃を片刃斧に変える。
『ジャァァァァァッ!!』
「ふんがっ!!」
背後に迫っていた大蛇の首を斧で切り落とし、そのまま斧をブーメランのようにぶん投げた。
すると斧はデコトラカイザーのパワーと遠心力で回転し、地上に存在するモンスターを薙ぎ払って飛んで行く。
『警告。警告。災害級危険種を感知。災害級危険種《剛魔ユーミール》を確認』
「いいね、ボスキャラか」
俺はようやくわかった。
そう、俺は格闘ゲームはやや得意、一番得意なのはプライズキャッチャー、レースゲームは気が向けばやり、クイズゲームは不得意。そして、無双系ゲームは熱くなるタイプだった。
シミュレーションで自信を付けた俺は、本来の姿に戻りつつあった。