184・トラック野郎、男の事情
ゼニモウケを出て早二日。
デッドマン樹海までの道のりを急ぎつつ進む。食材は一月分くらいは貯蓄してあるので問題ない、肉や野菜を大量に買い込み冷凍保存してあるからな。それに、気分を変えたいときにはコンビニもあるし、食事に関して飽きることはなさそうだ。
暇ならゲーセンで遊べるし、疲れたら温泉でのんびり。ベッドルームも何部屋か増築したので男女別にぐっすり……というか、未だに俺は運転席上のルーフで寝てるけどな。なんかあの狭さが落ち着くんです。
食事は交代で作ってる。
キリエ、月詠、煌星は上手なので任せられるが、太陽、ウィンク、クリス、コハクは不器用なので手伝いだけ、シャイニーに関してはかなり失敗をやらかすため、問答無用でナシにした。
ちなみに俺は運転手なので料理番は免除、手伝いも無い。
そして現在、助手席に太陽を乗せ、デッドマン樹海まであと二日ほどの距離に来た。これでもかなり飛ばしているので早いほうだ。
でも、高速道路で一〇〇キロ以上飛ばし、数日掛けて移動してるんだ、ゼニモウケからデッドマン樹海までかなりの距離があると見ていい。それこそ東北から九州へ向かうくらいの距離だ。
お茶とせんべいを友に、太陽と雑談をしていた。
「デッドマン樹海か……おっさん、大丈夫なのか?」
「はは、このトラックのナビを見くびるなよ? それと俺もな。それより太陽、お前達は大丈夫なのか? もしかしたら魔王と四天将と戦いになるかも知れないんだぞ」
「はん、おっさんこそオレらを見くびるなよ。おっさん、月詠の力を見ただろ? 月詠は本気だったけど『アクセルトリガー』を使えばコハクさんより強い。更にオレは月詠より強いぜ」
「ほぉ~。やっぱりお前達は規格外だな、頼りになるな」
「へへへ、任せとけって」
「だけど、俺だって強くなったぞ。今度見せてやるから楽しみにしとけ」
「お、おう?」
そろそろ、太陽達にデコトラカイザーを見せてもいいか。
問題は、変形するのに叫ばなきゃならん事だが……うん、仕方ないよね。
「お昼のメシ当番はキリエか」
「だな。へへへ、キリエさんの作る料理は美味いんだよな、ちょっと辛いけど」
「クリスとコハクが手伝うって言ってたな」
「ああ、月詠と煌星とウィンクは何してんだろうな。本でも読んでるかね」
何気なーく太陽が言った言葉に、タマが反応した。
『月詠様、煌星様、ウィンク様の様子を閲覧しますか?』
「なんだよいきなり……」
『現在、三名は汗を流してる最中です。映像を表示しますか?』
「汗? 卓球でもやってんのか?」
「せっかくだし見てみようぜ」
『それでは表示します』
もの凄いイヤな予感がしたが、単純に興味もあった。
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「ふぅ……やっぱり温泉は最高ね」
「はい、しかも絶景……おじ様のスキルは本当に素晴らしいですわね。わたくし達は一般人より遥かに多い魔力を持ってるだけで、このような能力はありませんから」
「温泉ですか……たしか、『湯の楽園都市ポッカポカ』は、天然の温泉が湧いてると聞いたことがあります」
「へぇ、そんな都市があるのね。まだまだ勉強不足だわ」
「この件が落ち着いたら、バカンスがてらみんなで行きません? きっと楽しいですわよ」
「確かに、いいわね」
「はい、楽しみです」
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「………………」
「………………」
何か、以前もこんなことがあったな。
フロントガラスには入浴中の月詠・煌星・ウィンクが映っていた。
月詠が湯船から立ち上がると、カメラはその肢体を下からなぞるように写し、胸をアップで写したあとに火照った顔を写す。煌星やウィンクも同様だった。
「おっさん、オレ……トイレ行ってくる」
「なんかスマン……あとタマ、お前マジで死ね」
『お気に召しませんでしたか?』
「………………」
俺は咄嗟に返事が出来なかった。
トイレから戻った太陽が托鉢僧のような雰囲気だったのは気のせいだろう。
コーラを出してやるとゴクゴク飲んだ。
「っぷは、やっぱ炭酸はウメぇっ!!」
「お昼も近いからほどほどにな」
先ほどの盗撮映像は忘れることにした。
タマのヤツには金輪際風呂場を盗撮しないように言っておいた。まぁその盗撮が無かったら、俺が風呂場で酔いつぶれて倒れた時に助からなかったわけだが……なんか複雑だ。
「はぁ……」
「どうしたんだよ?」
「いや、その……あの、おっさん」
「ん?」
太陽は何故かキョロキョロし、少し小声で言った。
「おっさんはさ、どうやって処理してる?」
「あ?……あー……まぁその、ゼニモウケ内にある大人のお店かなぁ」
何を言いたいか一瞬で理解した。
まぁ男だし、こういう相談は俺にしか出来ないのだろう。ちょっと親身に聞いてやってもいいか、なんて思ってしまった。
「大人のお店………」
「ま、俺はそうしてる」
「じゃあ、ミレイナさん達とは……」
「いや、あいつらとはそういう関係じゃないしな。職場恋愛とかで会社辞めたヤツもいるし……何より、ミレイナ達が俺をそういう対象で見るとは思えないんだよなぁ」
何度も言うが、俺はハーレムを望んでるワケじゃない。
安定した収入、適度な仕事、週休二日、そして可愛い従業員とのふれあいだ。
まず安定した収入はクリアだ。何度か休業してるが再開すればすぐに仕事が入ってくるし、なんだかんだで周辺からも信頼はされている。それにダンジョンでの財宝が腐るほどあるしな。
適度な仕事もクリア。現在、交代で休みを取れるようになった。残念ながら週休二日はまだキツい。
従業員とのふれあいもクリア。週に一度はモツ鍋屋で食事をするし、休業日でみんなの都合が合えば、町のレストランに食事に出かけたりもする。そう、ラブよりライクな関係で一緒に居る。
「でもよ、おっさんがそう思っていても、ミレイナさん達がどう思ってるか知らないだろ? コハクさんとか間違いなくおっさんを愛してると思うぜ。ダンジョンでおっさんとはぐれた時なんてヤバかったからな」
「うーん、コハクはあくまでも『ご主人様』だからな」
「そりゃどうかな。おっさんが思ってる以上に、おっさんは愛されてると思うぜ」
「ははは、そりゃどーも」
やれやれ、ガキがいっちょ前に。
でもまぁ、今現在俺の中でラブはない。みんな大好きだがライクの大好きだからな。
「そういうお前はどうなんだ、何か進展はあったのか?」
「うんにゃ、変わらねーよ。一緒に旅して戦って、最近は色っぽい展開もねーからな。ウィンクの裸を見たのだって今が初めてだぜ」
「あ、そ、そうか……」
俺もバッチリ見てしまったが、特に何も言われなかった。
それからしばらく談笑すると、煌星が俺達を呼びに来た。
道の端にトラックを止め、居住ルームで食事をする。
総勢九人プラス二匹の食事は楽しかったが、ここにミレイナが加わればもっと楽しくなるだろう。
できる事なら、フードフェスタ前にゼニモウケに帰りたいな。