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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第14章・トラック野郎と怒りの決意』
184/273

183・プラチナの煌めき①/ミレイナと獣魔四天将

*****《ミレイナ視点・天魔王城》*****




 時間は戻り、ミレイナが攫われた直後。

 実弟グレミオに拘束され、プライド地域最強の魔術師である実姉ミューレイアの転移魔術でミレイナはプライド地域首都ヒュブリス・天魔王城へ戻ってきた。戻ってしまった。

「さ、ここまで来たら諦めるしかないよ、ミレイナ姉さん」

「…………」

 グレミオはミレイナに肩を寄せ、その美しいプラチナの輝きを放つ髪を弄る。

 その光景を見ながら、ミューレイアは眉を寄せる。

「グレミオ、まずは兄様に報告よ。脱走・・したミレイナを連れ戻したとね」

「はいはい、別にしなくてもいいと思うけどなぁ」

「ダメよ」

「ちぇー、ミレイナ姉さんが帰ってきたのは嬉しいけどさ、兄さんに報告したところでどうなるのさ? だってミレイナ姉さんは『魔王族』に認められてないし、兄さんだって気にしてなかったじゃないか」

「ふん、そんな事はわかってる。でもね……」

「あぐっ!?」

 ミューレイアは、ミレイナの長い髪を掴み引っ張る。

 シュシュが千切れて床に落ちた。

「このプラチナの髪を持つ以上、たとえ認められなくてもこの子は『魔王族』なのよ……」

「ああ、くくく、そういう事ね、あははははっ!!」

 グレミオは、心底可笑しそうに笑う。

 それを見たミューレイアは眉間にしわを寄せ、グレミオを睨み付けた。

「何が可笑しいの……?」

「いやぁ、ミューレイア姉さん、ミレイナ姉さんが羨ましいんでしょ?」

「…………なに?」

 クックックとグレミオは笑い、邪悪な笑みを浮かべる。

 それはまるで、実の姉を嘲笑するかのような醜い笑みだった。

「ボク知ってるんだよねぇ……ミューレイア姉さんが、ゼルルシオン兄さんを愛してるってこと。要はさ、ミレイナ姉さんをダシにして、多忙な兄さんに会う口実が欲しいだけでしょ?」

「………」

 ザワリと、ミューレイアからドス黒い魔力が溢れる。

 殺気が充満し、通路の窓に亀裂が入る。だがグレミオは止まらない。

「そして何より許せないのが……ミレイナ姉さんの髪」

「………え?」

 髪を掴まれたミレイナは、思わず姉を見た。

「ボクやミューレイア姉さんも魔王族としての白金色の髪を持つけど、ゼルルシオン兄さんほどの美しさは無い……そう、ゼルルシオン兄さんに釣り合うほどの美しいプラチナの髪を持つ、ミレイナ姉さんに嫉妬してるんだよね? だから昔からミューレイア姉さんはミレイナ姉さんが気に食わなかったんだ」

 次の瞬間、グレミオを黒い炎が包み込んだ。




 瞬間、ミレイナはグレミオに突き飛ばされて床を転がった。

 グレミオの身体を黒炎が包み込むが、ミレイナは歪んだ笑みを浮かべたままのグレミオを見た。

 そしてグレミオの姿が完全に炎に包まれた瞬間、ミレイナは聞いた。

「ヒドいなミューレイア姉さん、実の弟を焼き殺す気かい?」

 黒炎が弾け、そこには無傷のグレミオが居た。

 ミューレイアは殺気を出したまま全身に魔力を滾らせ、グレミオは小さく息を吐き、仕方ないと言った感じで腰の剣に手を伸ばす。

「止めろ」

 だが、突然割り込んだ声に姉弟の動きはピタッと止まった。

「ここは天魔王ゼルルシオン様の居城、ここで暴れるという事は謀反と見なし拘束せねばならん。たとえお前達がゼルルシオン様の姉弟でもな」

 そこに立って……いや、仁王立ちしていたのは『武人』だった。

 青い髪に龍を思わせる巨大なツノ、全身を覆う鋼の筋肉、龍の皮を使い作られた胴着を着た、二メートルを超える身長の男だ。

「やだなぁブラスタヴァン、ちょっとしたじゃれ合いさ。ネコのケンカのがよっぽど危ういレベルのね」

「ふむ、お前はそう思っていても、姉は違うようだが」

「………」

 ミューレイアは、再び殺気を纏わせ始める。

「ああ~……ホントに面倒だな。ミューレイア姉さんにとってゼルルシオン兄さんの話題は地雷だね」

「グレミオ、ちゃんと謝れ」

「は~い、ミューレイア姉さん、申し訳ありま」

 グレミオがそこまで言いかけた瞬間、グレミオの真上から雷が落ちてきた。

 ミューレイアが詠唱を行わず、一瞬で発動した魔術だった。

「…………」

「…………」

 グレミオの顔が怒りに歪み、ミューレイアの顔は笑みに歪む。

 一触即発の空気を押さえたのは、またしても別の乱入者だった。

「はいはいおしまいおしまい、なーにやってんのさ」

 白い肌に短めの白髪、真っ赤な瞳を持つ女。頭頂部には白い猫のような耳がピンと立ち、臀部の辺りからは白と黒の模様の尻尾が生えている。年齢は一〇代後半ほど、子供っぽい笑みを浮かべた少女。

「今度はパイラオフか、じゃあアルマーチェもいるのかな?」

「あのお嬢ちゃんなら部屋で寝てるよ。とにかく、こんなところでやめなよ、グレミオもミューレイアもさ、ほらほら」

 パイラオフはトラ耳とトラしっぽをピコピコ動かしながら、グレミオとミューレイアの間に割って入る。

 パイラオフのフワッとした雰囲気に、ようやく二人は殺気を収める。

「グレミオ、これからはつまらない事を言わないようになさい………命が惜しければね」

「はーい」

 ミューレイアは、ミレイナの傍まで来ると冷たい目でミレイナを見下ろす。

「立ちなさい、兄様に報告するわ」

「は、はい……」

 ミレイナは立ち上がると、ミューレイアの後に続き歩き出す。

 その後ろにはグレミオが続き、パイラオフとブラスタヴァンは見送った。

 三人の姿が消えた後、パイラオフは言う。

「まーったく、歪んだ姉弟だねぇ」

「言うな、あれはもうどうにもならん」

「だよねー、それにあの……ミレイナだっけ? 確か脱走したとか?」

「そうだ。宝物庫の転移魔道具を起動させ、人間界に転移したらしい」

「ふーん……」

「正確には、グレミオに襲われて宝物庫に逃げ込み、逃げるために発動させたらしいがな」

「ははぁ、あのお坊ちゃん、血の繋がった姉を肉欲の対象にしてるのかぁ。歪んだ性欲から逃げ出したお嬢ちゃん……可哀想だねぇ」

「ああ、どのみち『魔王族』とは認められていなかったんだ。わざわざ探し出さなくともよかった気もするが……」

「どうせお坊ちゃんの命令だったんじゃない? 諜報員が見つけ出したらしいじゃん?」

「そうだな……」

 ふと、会話が途切れた。

 するとブラスタヴァンは歩き出し、その後をパイラオフが続く。

「ま、見つかったんならそれでいいか。どーせまたメイドか、今度こそお坊ちゃんの性欲の捌け口だろうしね」

「………」

 ブラスタヴァンは、何も言わなかった。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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