181・トラック野郎、ハイスコア
シミュレーションで特訓をしていると、買い物へ出掛けた太陽達が帰ってきた。トラックの時計を見るともう夕方近い、そういえばかなり腹減った。
シミュレーションを中断し、みんなを出迎える。
「よぉおっさん、買い物は済んだぜ」
「コンビニ商品ばかりじゃ身体に悪いですからね。新鮮な野菜やお肉を買ってきたので、冷蔵庫へ入れますね」
太陽と月詠が大量の食材や肉を運んで来た。待てよ、せっかくだし試してみるか?
俺はイヤホンに手を当て、タマに確認する。
「タマ、冷凍車の荷台に入れても問題ないか?」
『肯定。ただし食材をとりだす場合は冷凍車になる必要があります』
十分だ。冷蔵庫よりも広いし、肉や野菜を保存しておくなら冷凍車がピッタリだ。
俺は大量の荷物を運ぶみんなと一緒に、ガレージへ向かう。
「タマ、冷凍車に変形」
『畏まりました』
銀色のボディのトラックが、純白のボディの冷凍車へ変わる。
デザインこそトラックに酷似してる。だが冷凍車は広く内側は銀色に輝いている。電源を入れてないから冷えてないが、スイッチを入れればマイナス三〇度まで冷えるようだ。
運転席はトラックと変わらない。強いて言えば荷台の温度管理をするパネルが搭載されたくらいだ。
「よし、ここに積んでくれ。ここに入れておけば冷えたまま置いておける」
「れ、冷凍車ですか」
「おっさん、オレらよりチートくせぇな」
「おじ様、さすがですわね」
日本人の三人は驚いていたが、異世界組はよくわかっていない。まぁあとでゆっくり説明するか。
ひょんな事から冷凍車を手に入れたが、こいつは今後も大いに役立つだろう。それにダンプもショベルカーもクレーン車もあるし、運送業だけじゃなくて工事現場でも活躍出来そうだ。やらんけどな。
ちなみに、冷凍車に食材を入れたままトラックフォームに戻っても、食材は冷凍されたままなので安心だ。
「社長、みなさん、食事の支度をしますので、しばしお待ち下さい」
「あ、あたしも手伝います」
「僭越ながら、わたくしも」
食事はキリエ、月詠、煌星が担当する。
「じゃあアタシは食事前にシャワーで汗を流そうかしらね」
「わたしも一緒に入る」
シャイニーは風呂掃除がてら入浴、そしてコハクはしろ丸を小脇に抱え、一緒に入るようだ。
「じゃ、オレらはどうする? メシも風呂掃除も人数多いと邪魔になるしな」
「では、武具の手入れと旅支度をしましょう。買い出した物を整理するのはどうでしょうか?」
「あ、私も手伝うー」
太陽、ウィンク、クリスは武器の手入れと旅支度。
『さーて、ワイはこのビールと焼き鳥で一杯やりましょ。うひひ、人間の作るビールは美味いでんなぁ』
カイムには缶ビールと焼き鳥をあげた。するとこの世界にはない缶ビールに興奮し涙を流して礼を言った。まぁカイムは放っておくか。今更だけど鳥肉って共食いじゃないよね?
さて、俺はどうするかね?
結局、俺は食事の手伝いをした。
皿を並べたりコップに麦茶を注いだり、ありきたりな仕事だ。
そして風呂上がりのシャイニーとコハクが出てきた辺りで夕食となった。ちなみにシャイニーとコハクは髪を下ろしてるので雰囲気が違う。しかも湯上がり姿プラス薄着のシャツとパンツ姿なので色っぽい。コラコラ太陽、気持ちはわかるがガン見するなよ、うひひ。
「ご主人様、どうしたの?」
「見ちゃダメよコハク、男どもから不埒な視線を感じるわ」
すんません、ごめんなさい。
でもよ、責任はお前らにもあるぞ? だって色っぽいからね。
夕食と後片付けが終わり、交代で風呂に入った。
あとは寝るだけだが、俺は運転席に戻る。
「社長、どちらへ? 何かあるのですか?」
「ああ、今日中に玄武王をノーダメージで倒すからよ」
「はぁ? 何言ってんのアンタ?」
キリエとシャイニーが首を傾げるが、俺はサムズアップで答える。すると足元には風呂に入って更にフワフワのしろ丸がいた。
『なうなう、なうなうー』
「よし、お前も来るか?」
『うなーお』
俺はしろ丸を抱えると、運転席へ向かった。
俺の夜は、まだ終わらないぜ。
それから出発までの二日、デコトラカイザーの操縦シミュレーションに時間を費やした。
これまでに戦った超危険種や玄武王、オセロトルやフレーズヴェルグといった強敵を相手に、俺の操縦で倒す。
ぶっちゃけ、倒す事は出来るが被弾がハンパない。
そこで工夫したのが、ドライビングバスターとハイウェイストライガーのコンボだ。
今やドライビングバスターの凡庸性は変形するよりも効率がいい。近中遠距離全てに対応したナイスウェポン、何で俺は今までこれを使わなかったのだろう、マジで力押しのアホじゃねーか。
そして、新たな変形である『ダンプデコトラカイザー』と『アイスデコトラカイザー』、そしてブルフォームの強化形態である『ブルデコトラカイザー・ショベルジャケット』の強さも理解出来た。
だからこそ、今だからこそ言える。
「俺、最強かも」
戦闘以外でトラックは仕事道具くらいにしか考えていなかった。あと、楽しく便利な不思議空間ってとこか。
だからこそ、戦闘に経験値を振り強化したトラックは最強だった。トラックの武装よりもデコトラカイザーに経験値を全部使ったのは大正解だな。
そして明日にはコロンゾン大陸へ向けて出発するが、俺はトラックの運転席でシミュレーションを行っていた。
「よし、いける·······っ、よし!!」
現在、玄武王との模擬戦闘中。
俺はコントローラーを巧みに動かし、デコトラカイザーを操っていた。
こいつの行動パターンは殆ど解析した。さらに現在ノーダメージ······いける。
「よし······よしっ!!」
ドライビングバスターを振りかぶり、玄武王を両断した。
ホイッスルが鳴り響き戦闘終了の音楽が流れ、モニターは通常の景色に切り替わる。
『玄武王ノーダメージ討伐。スコア更新』
「うおっしゃぁぁぁっ!!」
シミュレーションを初めて三日、やっと玄武王をノーダメージで倒せた。
『おめでとうございます。玄武王バサルテス・ノーダメージクリア達成。シミュレーションレベルハードが開放されました』
「レベルハード?」
『レベルハードは敵モンスターのスペックが従来の五倍になります。ノーダメージクリアでさらなるレベルが開放されます』
「·········あのさ、疑問に思ったけど、これってシミュレーションなんだよな? なんかハイスコアとかレベルとか、ゲームしてる気分になるんだけど」
画面の右上にはスコアが表示され、倒したタイムや食らったダメージなんかも表示されてる。まるで格闘ゲームをやってるようだ。
『格闘型シミュレーションゲームです』
「やっぱそうかい······まぁいいけどよ」
こいつ、認めやがった。
まぁいい。俺の操縦技術も上がってるし、文句はない。
全てはミレイナを助けるためだ、なんだっていい。
翌日、この日はコロンゾン大陸へ向けて出発する日だ。
朝食を終えて一息付いていると、ドアベルが鳴った。
「はいよー」
いつもは真っ先にミレイナが出るが、ここは俺が出る。
するとそこに居たのは、赤毛の小さな少女だった。
「あれ、アレクシエルじゃないか。どうした?」
「今日から工事に入るから」
「ああ、お前のラボか······今日!? 早くね!?」
「とにかく広ければいいし、こだわりはないわ。重要なのは設備で建物じゃないしね。それと、今日が出発でしょ?」
アレクシエルの背後から、リーンベルさんが現れる。
「アレクシエル博士がお見送りに行くと言いましたので、こうして挨拶に伺いました」
「ちょ、んなわけないでしょ!? その、ラボの敷地の下見のついでよ!! へんな勘違いすんなっ!!」
「いっでぇっ!? 蹴るなこいつ!!」
「んぎゃっ!?」
俺はアレクシエルの頭をガシガシと撫でる。
全く、ホントにへんなヤツだな。
「触んなこのヘンタイ!! 全く、乙女の髪に気安くおっさんが·······とにかく、あんたにはまだまだ用事があるんだから、さっさと行って帰ってきなさいよ、いいわね」
「はいはい、わーったよ」
「ふん······そ、それと、その、気を付けなさいね」
「·········」
なんだコイツ、ツンデレか?
顔を赤くして腕を組みそっぽ向く姿に、思わず可愛いと思ってしまった。
「なるべく早く帰ってくるよ、フードフェスタも近いし、それに、お前やリーンベルさんに、ミレイナを紹介したいしな」
「ん、まぁ待ってるわ。それと、勇者パーティーの奴らに言っておいて、武具が壊れたら直してあげるってね」
そう言って、アレクシエルは去って行った。
リーンベルさんはお辞儀をすると、その後を追う。
「······やれやれ」
きっと、アレクシエルなりの激励なんだろうな。
俺はその後ろ姿が見えなくなるまで見送り、二階へ戻って行った。