18・トラック野郎、スカウトする
ユニック車の前に、シャイニーとミレイナがいた。
正確には、シャイニーの腕を掴んで離さないミレイナの姿だけどね。というか君たちスゲー目立ってるよ。
「離してよっ‼ アタシは、アタシは······」
「ダメですっ‼ 今離したら······シャイニーは1人ぼっちになっちゃいますっ‼」
「それでいいのよっ‼ アタシなんてもう、冒険者じゃないんだから、1人で生きてくんだからぁっ‼」
うーん、どうしたモンか。漫画やラノベなら偉そうなこと垂れ流して説得するんだろうけど、俺にはそんなこと出来ない。むしろ、そんな言葉1つですぐに心が変わるほど俺の言葉に重みなんてない。とはいえほっとくのもなぁ······ムズい問題だ。
「コウタさんっ‼ シャイニーを止めて下さいっ‼」
「は、はい」
まぁ、可愛いミレイナちゃんに言われたら止めざるを得ない。まぁここは1つ、冒険者をクビになったシャイニーをスカウトしますかね。これは運命だ‼ なーんてね。
「······悪かったわね。報酬、貰えなくて」
「しょうがねーよ。まぁ素材料だけでも5000万だ。それで十分だろ」
「······そうね。じゃあ、さよなら」
「シャイニーっ‼ 待って下さいっ‼」
「ミレイナ、あんたのご飯、とても美味しかったわ······バイバイ」
「シャイニー······」
「ちょっと待てよ、相談があるんだ」
「······何よ」
「あのさ、冒険者をクビになったってことは、今はフリーなんだよな」
「······そうだけど」
「じゃあさ、俺の会社で働かないか? まだ俺とミレイナしかいないし、人手が足りないんだよ。給料は暫く出せないけど、ポッキーなら出してやる。しかも朝昼晩3食付きだぜ。休みは要相談、有給や昇給もあり、どうだ?」
「·········何言ってるかわかんないけど、スカウト?」
「そうだな。お前は強いみたいだし、護衛兼従業員ってことで」
「·········」
「シャイニー······お願いします」
悩んでる悩んでる。いろいろ言ったけど、こんな美少女の従業員を逃してたまるか。実はスカウト出来ないか考えてたんだよね。
「ま、まぁ······どうしてもって言うなら、別にいいわ。どうせやりたいこともないし······うん」
「シャイニーっ‼」
「わわっ⁉ ちょっとミレイナっ⁉」
「よーし決まり。じゃあ商人ギルドに行くか」
「······ええ」
「はいっ‼」
よっしゃ、2人目の従業員シャイニーブルーをゲットしたぜ。
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それから俺たちは商人ギルドへ向かい、ドラゴンを査定してもらうことに。
シャイニーはまだ落ち込んでる。悪いけど俺には慰めなんて出来ない。なのでここはお菓子作戦で行く。
「タマ、ポッキー全種類くれ」
『畏まりました·········購入完了』
「うぴゃあっ⁉ な、何よっ⁉」
窓を開けて景色を眺めてるシャイニーの胸元に、大きなビニール袋が飛び込んで来た。中身はポッキー。チョコにイチゴに抹茶、ツブツブやぶっといチョコなど様々だ。
「まぁ気を落とすな。お前が冒険者でどれほど頑張ったのかは知らないけど、こんなこともあるさ。俺だってバイトをクビになったことあるしな」
「·········」
「今回は特別だ。それ食ったら頼むぞ、俺もミレイナもわからないことだらけだし、お前の冒険者の知識が必要になるかも知れないからな」
まぁ、ミレイナってか俺だけどな。
戦闘ではトラック頼りだし、万が一の戦力としてシャイニーはありがたい。どんくらい強いのかは知らんけど。
「とりあえずお前は·········平社員兼護衛で」
「はぁ⁉ 何よそれ‼」
「俺は社長、ミレイナは社長秘書。だったらお前は平社員だろ?」
「な、何でよ‼ アタシは副社長でしょーがっ‼」
「ダメ。それはこれからの働き次第だな」
「あ、あんた······っ‼」
「ほら、ポッキーでも食え。甘いの好きだろ?」
「うん。大好きー♪······って違う‼」
ブツブツ言いつつも、シャイニーはポッキーの箱を取り出して開ける。そして一本を摘んでコリコリ食べ始めた。
「············ありがと、コウタ」
え、何だって?······なーんてな。
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商人ギルドにユニック車を乗り付け、俺たちはギルド内へ。
流石に情報が入ってるらしく、すぐに対応してくれた。
「えー······『ヴェノムドラゴン』の素材買い取りですね。それではこちらへ」
「あ、アタシは外でドラゴンの降ろし作業を見てるから。ミレイナ、後はよろしくね」
「わかりました、シャイニー」
そう言ってシャイニーは外へ。俺とミレイナは別室に案内された。豪華な来客用の部屋だ。
「これから解体をして素材を取り出し、その後各素材に値段を付けて金額をお知らせします。それまでこの部屋で御寛ぎ下さい」
どうやら俺たちは「いい客」らしい。
シャイニー曰く、ドラゴンの素材なんて滅多に入る事はない。討伐依頼が出ても、素材のために綺麗な状態で仕留めようなど不可能に近く、大抵の部位は使えそうにないそうだ。
まぁ首ちょんぱしただけだしな。血は流れちゃったけど腹の部分に少しは溜まってるだろうし、外殻や骨なんかは傷んでない。それこそ肉も。
「お、お茶菓子もある。いただきまーす」
「……コウタさん」
「ん?」
「あの、ありがとうございます。シャイニーのこと……」
「ああ、いいって。どのみち従業員は欲しかったし、シャイニーは強そうだから、いざって時に頼りになるしな」
「それでも……ありがとうございます」
「お、おう」
やっべ可愛い。にっこりミレイナマジ天使。
取りあえず、始めてもないのに従業員を増やすのもアレだし、当面は3人でいるか。
運送会社なんて異世界じゃ通用するか分からんしな。いたずらに風呂敷を広げないでおこう。
そう思い、俺はお茶菓子のクッキーをかじった。
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それから1時間。シャイニーがギルド職員と一緒に戻ってきた。
シャイニーは俺の隣に座り、さっそくクッキーに手を伸ばす。ギルド職員は対面に座り、手に持っていた紙の束をテーブルに置き、反対の手に持ってたアタッシュケースみたいな箱を床に置いた。
「それでは査定の結果をお伝えします。まず、外殻ですが……損傷も殆どなくキレイな物でした。そして牙、こちらも全部揃ってますので高値が付きます。血液は僅かな量が腹部に溜まっていただけでしたが……仕方ないですね。内臓も肉も骨も全て損傷なくいい状態です。そして最も重要な【龍核】も立派な物がございました。以上の結果から、総額7300万コインでお引き取りさせて頂きますが……よろしいですか?」
「な、ななせん!? あれ?」
おいおい、5000万じゃなかったのかよ。嬉しいけど、2000万の誤差はかなりデカいぞ。なんでこんな結果に?
『それは【龍核】の存在です。【龍核】はドラゴン系モンスターの体内に存在する鉱石で、この鉱石を使った武具は特殊な効果を持つと言われています。今回のヴェノムドラゴンの核はそれだけの価値があったのでしょう』
と、耳に付けたイヤホンからタマの声が聞こえてきた。ナルホドね。こりゃ儲けたぜ。サンキューヴェノムドラゴン。
「え、えと、お願いします」
「畏まりました。それではこちらをお納め下さい」
すると、足下に置いていたアタッシュケースみたいな箱を、テーブルの上に。
「お、おぉぉ……」
その中は、札束がぎっしりだった。
まさか異世界でこんな札束を見るコトになるとは。しかも事前に準備してたところがプロっぽい。
どうやらケースごとくれるみたいなので、遠慮なく貰っておく。
さらに、ここで建築会社のアテも聞いておこう。
「ありがとうございます。実によい取引でした」
「ど、どうも。あの……お願いが」
「何でしょうか?」
「えーと、この町で腕利きの建築会社を教えてほしいんですけど……」
「……なるほど。畏まりました、少々お待ち下さい」
そう言ってギルド職員は出て行った。
「ふふふ……来た来た、お次は事務所の設立だ」
「はい。その次は……」
「ああ、開業だ」
「運び屋ねぇ、儲かるのかしら」
「儲けは二の次、取りあえず生活出来るくらいの儲けがあればいい。忙しいのはイヤだしな」
取りあえず、開業の準備もしないとな。
建物が完成する間に、机やら椅子やらオフィス用品を揃えて……ヤバい、なんか楽しくなってきた。
会社は二階建てにして、トラック用のガレージも作りたい。一階がオフィス、二階が居住区……考えることは山積みだ。
「よーし。今夜はみんなで会議を行います」
「何よいきなり」
「会議ですか?」
「ああ。仕事についてのな」
みんなの会社だしな。ちゃーんと話し合わないと。