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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第14章・トラック野郎と怒りの決意』
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178・トラック野郎、勇者の申し出

 勇者太陽は目を輝かせ宣言した。

「おっさん、オレもミレイナさん救出隊に加わるぜ。へへへ、魔王が七人居るのは誤算だけどよ、全員オレが倒せば問題ねぇ。それにおっさんのトラックならコロンゾン大陸とやらを進めそうだし、おっさんがやる気になってるなら便乗して行くのもいい」

 完全に打算的な考えだった。

 俺としては戦力が増えるのは非常にありがたい。こいつの強さは玄武王なんかより遥かに強いしな。

「このバカ!! 少しは考えてモノを言うようになったと思えば……」

「な、なんだよ月詠。お前は反対なのか?」

「………そりゃミレイナさんが攫われたのは許せないし、助けたい気持ちもある。でもね、それとこれとは話が別よ。コロンゾン大陸に向かうのは賛成できない」

「なんでだよ、ミレイナさんを救わないと」

 すると、太陽が言い切る前に煌星が言う。

「お忘れですか太陽くん、『六王獣』はまだ一体残っていますよ?」

「あ……」

 そういえば、六匹の災害級危険種がまだ残っていた。

 ○海蛇サーペンソティア・討伐。

 ○豹帝オセロトル・討伐。

 ○虹孔雀フレーズヴェルグ・討伐。

 ○臥狼ヴァルナガンド・生存、というかしろ丸。

 ○夜翔カイム・生存。

 んで、最後の一匹である『咬鮫シャークラー』とやらがどこかの海で泳いでるらしい。そんな危険なサメを放っておいて魔界に出かけるのは確かに不味い。

「あんた、興味本位で魔界に行きたいだけじゃないでしょうね……」

「そんなわけあるか!! オレはミレイナさんを心配して」

「その前に人間界の心配でしょ!! こんな言い方したくないけど、六王獣を放っておけばそれ以上の被害が出るかも知れないのよ」

「ぐ……だ、だけど」

「タイヨウ……」

「タイヨウ殿……」

 月詠の言うことは正しい。

 ミレイナを助けに行くのだって俺達の完全な都合だし、人々のために戦う勇者パーティーが、危険を冒す必要は無い。まずは人間界の平和を守ってから魔界に向かい魔王討伐するべきだ。

「太陽、月詠の言う通りだ。お前はまず人間界の平和を守ってくれ」

「で、でもよおっさん……おっさん達だけじゃ」

「ありがとな、太陽」

 俺は太陽の肩に手を置く。

 太陽は納得していないようだが、それ以上何も言わなかった。

「コウタさん………ごめんなさい」

「おじ様、申し訳ありません……」

 月詠も煌星もミレイナを助けに行きたい気持ちはあるんだろう。その表情を見れば分かる、ホントは太陽と同じ意見なのに、自分たちが勇者パーティーであるからこそ行くことが出来ないと悟っている。本当によくできた子供達だ。

『あ、あの~』

「ん……どうしたカイム」

『い、いやその、実はシャークラーさんなんですけど』

 カイムは俺の肩に止まると、太陽達に向けて言う。

『シャークラーさん、実はもう居ないんですよ』

「は?………な、なんで?」

『いや~実はワイ、他の眷属の方と親しくして、いざという時に助けてもらおうと思うて情報収集がてら接触したんですわ。シャークラーさんとサーペンソティアさん』

 こいつ、以外と用意周到だな。

 無理矢理眷属にされて逃げられない以上、逃げ道だけでも用意しておこうってか。

『サーペンソティアさんは怖いしワイを食おうとしたからムリでしたが、シャークラーさんはエエ御方でしたわ。何でも魔界の海より人間界の海のほうが澄んでて綺麗だって言っとりました、そんで人間界の海を巡る旅に出るから眷属辞めるって言って消息不明です』

「自由すぎるだろ、お前と言いしろ丸といいそのシャークラーといい、六匹中三匹が眷属辞めるってどんだけだよ」

『あはは……ちなみにシャークラーさん、人間界の海さえ汚さなければ、人間に危害は加えないって仰ってましたで』

 太陽達は何とも言えない表情になっていた。

 肩透かしを食らったような、不意打ちでも喰らったかのような表情だ。

「えーと、なんだっけ月詠」

「………もういい、好きにしたら?」

「あ、あはは……太陽くん、どうするんですか?」

「やっぱりタイヨウってすごいねー」

「はい。戦わずして災害級危険種を全て討伐するとは、これが勇者なのですね!!」

 クリスとウィンクは勘違いしてるが放っておこう。

「ええと、協力してくれるのか?」

「ああ、いいよなみんな!!」

「ま、いいわ。オレサンジョウ王国に帰還予定だったけど、六王獣の危険が去った今ならむしろ、コロンゾン大陸の調査に行くのがベストな選択ね」

「ふふ、月詠ちゃん、素直にミレイナさんを助けに行くって言えばいいのに」

「ま、ツクヨは私達の中で一番素直じゃないしー」

「魔王の地、そして救出……くくく、腕が鳴りますね」

 よし、これで戦力は増強された。

 そう言えば、何か忘れてるような………あ。

「あのさー、話は終わったかしら?」

 つまらなそうに頬杖をつくアレクシエルに、全員が注目した。




 そういえば、こいつがいたんだっけ。

 今初めて気が付いたのか、シャイニーが怪訝な視線を送る。

「コウタ、この子だれよ?」

「ええと、スゲーダロで会った勇者パーティーの武具の開発者。なんか付いてきた」

「ちょ、人をノラネコみたいに言わないでくれる? それとそこの蒼いの、あたしを『この子』呼ばわりしないでよね」

「な、誰が蒼いのよこのガキ!!」

「あぁん!? 誰がガキよ誰が!!」

「アンタに決まってんでしょ? 低い身長に薄っぺらな胸、子供っぽい顔に仕草……は、どう見ても子供じゃない」

「その言葉そっくり返すわ。アンタだって平たい胸にガキっぽい受け答えしてるじゃない、あたしから見てあたしに勝ってるのは無駄に重ねた年齢だけじゃない? あなたいくつよ、お・ば・さ・ん!!」

「ンだとこの赤毛チビ!!」

「なによこの蒼毛貧乳ババァ!!」

 シャイニーとアレクシエルはおでこをぶつけて互いを威嚇していた。まるでノラネコ同士のケンカ……いや、これは。

「なるほど、同族嫌悪というヤツですね。髪と瞳の色は違いますけどそっくりです」

「「あぁん!!」」

 キリエの的確なツッコミに二人はハモった。

 ああもう、とにかく話を進めよう。こいつら面倒くさい。

「ニナ、腕のいい建築士を紹介してくれないか?」

「構わんが……何故だ?」

「ああ、事後承諾で申し訳ないんだが、アレクシエルに土地の一部を売ることにした。そこに住まい兼ラボを建築するんだと」

「はぁ!? な、何よそれ聞いてない!!」

「私は構いません。それにこの土地の名義は社長ですし、どのように使おうと社長の自由ですしね」

「むぐ、まぁそうだけど……そもそも、この赤毛はなんで付いてきたのよ」

「誰が赤毛だこの蒼毛、あたしを怒らせるとどうなるか知りたいようね……リーンベル」

「はい、アレクシエル博士」

 いつの間にかシャイニーの背後にリーンベルさんが立ち、短いナイフをシャイニーの首に当てた。

「…………」

「覚えておきなさい、あたしを舐めると痛い目に遭うわよ」

「へぇ……」

 ニナはリーンベルさんを見て目を見開く。

 ずっといたのに、今初めて存在に気が付いたようだ。

「あのさ、一つ教えてあげる」

「なによ?」

「アタシ、売られたケンカは買うわ。それが子供でも大人でもね」

 首筋にナイフを突き付けられたシャイニーはニヤリと笑った。




「『鎧身』」




 そして、シャイニーを中心に吹雪が舞う。

 部屋の中は冷たい空気で満たされ、テーブルの上に置いてあったお茶が一瞬で凍り付いた。

「な……」

「お、おいシャイニー、なんでお前が」

 驚くアレクシエルと俺、そして勇者パーティー達。

 そこに居たのは、蒼色の女性的な鎧を身に纏い、優雅に腰掛けるシャイニーだった。

 鎧に包まれた手で軽くナイフを摘んだ瞬間、リーンベルさんはナイフから手を離し距離を取った。

「へぇ、やるじゃん。もう少し遅かったら腕まで凍らせて砕いてやったのに」

 すると今度はウィンクが立ち上がる。

「お止め下さい姉上!! 全員凍死してしまいます!!」

「あ、そっか」

 シャイニーの鎧は解除され、動けないでいるアレクシエルに冷たく言い放つ。

「まず一つ、ケンカを売るなら自分で売りなさい。二つ、アタシは売られたケンカは買うし誰が相手でも全力でぶちのめす。三つ、今のはちょっとやり過ぎたけど、悪いのはあんたとアイツだからね」

「…………」

 アイツというのはリーンベルさん……というか寒い。やりすぎだっつの。

 だが俺は気が付いた、アレクシエルの視線はシャイニーの双剣に釘付けになっている事に。というか俺も初めて見たけど、なんか剣が新しくなってね?

「なによそれ………あたし、知らない」

「は? なによ」

「その剣、その武具、あたしが作った武具じゃない、なんでまた、なんで……ちょ、見せて!!」

「わわっ、ちょ、コラ触んな!!」

「見せて見せて!! 何よそれ聞いてない!! 双剣タイプの武具なんて過去の勇者パーティーの武具でも作られた記録なんて無いわ!! それにその精錬されたデザインに材質、高貴で気品が感じられる美しさ……ウソよ、あたし以外でそんなの造れる人間がいるなんて、しかも鎧身ですって!?」

「こ、コラくっつくな!! なによコイツ、ちょ、コウタ!! なんとかしなさいよ!!」

「え、俺?」

「アンタが連れてきたんでしょ!!」

 アレクシエルはシャイニーに正面からくっつき、背中の双剣を取ろうとバタバタしてる。

 なんか和む光景だ、赤と蒼の髪が乱れて美しい……なーんてね。

「あー……メシの支度でもするか」

「では、お手伝いします」

「こら、無視すんなーっ!!」

「見せて見せて見せて見せてっ!!」

 シャイニーはアレクシエルの頭を押さえて引き剥がそうとしてるが、アレクシエルの力に徐々に負けてるのがわかった。なんか平和だし放っておこう。

「やはりお前は『紫』か。ずいぶん長く行方不明と聞いていたが、こんな所で会うとはな」

「うふふ、噂に名高い『蒼』の方に会えるとは光栄です」

 あ、リーンベルさん、いつの間にかニナと談笑してた。まぁこっちも放っておくか。

 コハクはいつの間にかしろ丸を抱いて寝てるし、太陽達もまだポカンとしてる。

 シャイニーの鎧の事とかいろいろ聞きたいが、とりあえずメシを食ってからにしよう。

「ミレイナ、あ……」

 俺は思わずミレイナの名を呼んでしまった。

 それを見たキリエは、悲しげに微笑んだ。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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