177・トラック野郎、情報を得る
俺はカイムの頭を人差し指でグリグリする。
「おい、起きろ」
『んんん~……ふぁぁ、よく寝た。おはようさん、兄さん』
俺の手のひらで羽をバタバタさせると、気持ちよさそうに首を回す。
すると、カイムは申し訳なさそうに翼を擦る。
『兄さん兄さん、申し訳ないけどエールでもないっすか? 実はハラも減ってんねん』
「おま、酒飲むのかよ。そのメタボっ腹は酒のせいか」
『いやぁははは、ワイにとって酒は命の水で……って、なんや? もしかしてワイ、注目されとる?』
勇者パーティー、アガツマ運送社員、アレクシエルとリーンベルさんに注目され、カイムはようやく気が付いた。
するとカイムの存在を知らないシャイニーとキリエが聞く。
「ちょ、コウタ、こいつ何よ?」
「ふむ、どうも喋ってるような……」
俺は、カイムとの出会いを簡潔に説明した。
もちろん、ダンジョンでの俺の勇姿やしろ丸の雄々しき姿も格好良く説明する。
するとシャイニーは言う。
「なるほど、つまり裏切りね」
『ちょ、姐さんヒドいわ~。ワイは裏切りなんかしてへんで? 解放されたんや』
「ふーむ、しろ丸よりはフカフカではないですね。でもこれはこれで気持ちいいです」
キリエは手を伸ばし、俺の手のひらにいるカイムをウリウリとなでる。
さて、紹介も終わったし話を進めよう。
「カイム、お前に聞きたいことがある。報酬はあとでやるから答えてくれ」
『んふふ、お任せ下さい。ワイに調べられん事はないで!』
頼りになるフクロウだぜ。
というか調べるんじゃ無いけどね。
「聞きたいのはミレイナの居場所だ」
『ミレイナ? うーん名前だけじゃなぁ』
「じゃあ、『天魔王ゼルルシオン』の居場所はどこだ? ミレイナはたぶんそこにいる」
『へ? ど、どういう事でっか?』
「ミレイナは、天魔王ゼルルシオンの実の妹なんだ」
俺は手のひらフクロウにミレイナとの出会いから事情を再度説明する。こいつ寝てたしな。
話を聞いたカイムは、翼を交差して腕組みのような姿勢になった。
『なーるほど。隠し子がいるって情報はありましたが、まさか人間界に来てるとは』
「知ってるのか?」
『ええ、その妹はん……ミレイナはんは、天魔王が支配する『プライド地域』の王都『ヒュブリス』でしょうな。まず間違いあらへん』
「ヒュブリス? それにプライド地域って?」
『ああ、人間の皆さんは知らんのか。だったらワイがわかりやすく説明しましょ』
カイムは紙とペンを希望したので用意してやると、ペンを咥えて器用に図を書き始めた。
オレサンジョウ王国にはない情報らしく、太陽を押しのけ月詠がテーブルに身を乗り出す。
『まず、人間界から魔族の住む大陸である『魔界』へ渡るには、最悪の危険地帯である『コロンゾン大陸』を横断せないけません。ここは人間はおろか魔族ですら立ち寄らない、入ったらほぼ最後の死の魔境ですねん。ワイの知る限り、正面から堂々と横断に成功したのは、過去に魔王討伐のために魔界を訪れ勇者パーティーだけでんな』
カイムは紙の右端に円を描き『人間界』と書き、真ん中に円を描き『コロンゾン大陸』と書いた。そして左端に大きく円を描き『魔界』と記し、線を引いて七等分した。
『んで、魔界は大きく分けて七つの地域に分けられるんや。それぞれの地域を七人の魔王……『魔界七覇王』と呼ばれる『魔王族』の方々が支配していらっしゃる』
驚く俺達の心の声を、月詠が代弁した。
「ちょ、待って!! 魔王は一人じゃないの!?」
『ああ、やっぱ人間の方はそう思っとりましたか。過去の勇者が討伐したのは『天』を司る魔王や、今の『天魔王』はその息子や』
「まさか、そんな……」
月詠だけじゃない、勇者パーティー達は愕然としてる。
そりゃそうだ、倒すべき魔王は一人どころか七人もいたんだからな。こう考えると情報って大事だと実感する。
『言っときますが、魔王様の強さは破格でっせ。勇者はんがどんだけ強いのか知らへんが、過去の勇者は勝つことが出来へんかったからな』
「……何を言ってるの? 今あなた、『天』を討伐したって』
『言い方が悪かったわ。正確には『天魔王』は勇者パーティーを見逃したんや。だが、天魔王はその時の戦いの傷が元で死んでしまった。それを知った勇者は自分たちが討伐したように見せかけ、人間界へ帰って報告したんやな』
それは、衝撃の事実だった。
過去の勇者パーティー達は魔王から逃げ出していた。
『おっと、話が逸れましたわ。ええと、コロンゾン大陸を超えた先にある『プライド地域』の先に、『ヒュブリス』はあります。ミレイナはんが天魔王ゼルルシオン様の妹だとしたら、まず間違いなくそこへ連れて行かれますわ』
「……わかった。お前、案内出来るか?」
『出来ますが…………まさか兄さん、行くんでっか?』
「ああ。ミレイナを助けに行く」
『………じょ、冗談でしょ? こ、コロンゾン大陸を抜けるつもりでっか!? 今言ったじゃないですか、あそこは魔族も近寄らない魔境だって!! そ、それにミレイナはんも家に帰っただけかも』
「だったら、こんなメモ残していくか?」
俺はキッチンペーパーをカイムの目の前に差し出す。
悪いが、今回の俺はマジだ。
社員を守れない社長ほど価値の無い存在は無い。ここでミレイナを見捨てたら、俺は自分が許せない。それにそんな情けない社長の下に、シャイニーもキリエもコハクも付きたくないだろう。
俺は唖然としてる太陽達に向けて告げる。
「太陽、悪いがカイムを借りていく」
「お、おっさん……マジ、なのか?」
「ああ、悪いがマジだ。今回の俺はビビりじゃないぜ」
俺は勇者パーティー達を見回し、愛すべき社員達に声を掛ける。
「シャイニー、キリエ、コハク。俺はミレイナを助けに行く、お前達はどうする?」
「バーカ、行くに決まってんでしょ。アタシに舐めたマネしたヤツをぶちのめしてやるわ」
「私もです。ミレイナは可愛い妹のような存在、助けに行くのは当然です。私の全力を持って戦います」
「わたし、悪いやつ殴る。ミレイナぜったい助ける!!」
『なうなうなうっ!』
こうして俺達アガツマ運送会社は、ミレイナ救出に向かう。
当然ながら、反対された。
「ま、待って下さいコウタさん、ミレイナさんが魔族というのは理解出来ましたが、本当に助けに行くんですか!?」
「ああ。悪いな月詠、止めても無駄だぞ」
「で、でも……ま、魔王は一人じゃないし、ミレイナさんが魔王の妹なら、遭遇する可能性はかなり高い……その、こんな言い方はあれですが」
「大丈夫、俺は死なないよ。トラックもあるし、タマもみんなもいるし」
俺は決めた。
ポイントを全て使い、デコトラカイザーを強化する。そして獲得可能な変形を全て手に入れ、万全の体制でコロンゾン大陸とやらを進むとな。
俺達の決意の固さを知ったのか、それともまだ混乱してるのか……月詠は頭を抱えてしまった。
そんな月詠を煌星が支え、クリスはぽけーっとしてる。ウィンクは未だに落ち込んでいた。
「よし、案内は頼むぞカイム」
『ままま、マジでっか……いやでも、兄さんのあの力なら……』
俺はカイムをウリウリと撫で、傍観者になっていたニナに言う。
「ニナ、会社はしばらく休業する。手伝ってくれてありがとな」
「あ、ああ……その、私は」
「いいって、それよりこの事は他言しないでくれ」
「……わかった」
ニナの話では、フードフェスタの準備配達は落ち着いてきたらしく、休業しても問題はなさそうだ。
まぁ、忙しくてもそうじゃなくても、ミレイナを助けに行くのは決定だがな。
すると、いきなり太陽が立ち上がる。
「おっさん、オレも行くぜ」
「え……」
「ちょ、太陽!?」
勇者タイヨウの笑みは、本当の太陽のように輝いていた。