174・トラック野郎、スゲーダロへ帰還
*****《コウタ視点》*****
「………というワケで、こいつは悪い奴じゃない………たぶん」
『ちょ、兄さん!?』
俺は太陽達を居住ルームに案内し、カイムについて説明した。
カイムはチビデブフクロウの姿のまま、テーブルの上で寝てるしろ丸の頭の上に居る。なんか可愛いな。
反応は、様々だった。
「ふーん、まぁいいんじゃね?」
「……安易に信用するのは危険よ。あたしはまだ信用出来ない」
「うーん、難しいですわね。でもこの御方、フワフワして可愛いですわ」
「私は信じるー、だって可愛いモン」
勇者パーティー達は、月詠意外概ね賛成みたいだ。
俺は部屋をウロウロしてるアレクシエルを見る。
「異空間、しかもこんな精巧な造りの部屋……わからない、どういう技術が使われてるのかしら。キッチンに魔導冷蔵庫……水はどこから?」
「おい座れって、お菓子でも食えよ」
「ちょっと黙って、理論を纏めてるから」
ったく、もういいや面倒くさい。放っておこう。
アレクシエルを放置し、壁際に立ってるリーンベルさんに声を掛ける。
「リーンベルさん、よかったらお茶でもどうです?」
「いえ、お構いなく」
うーん、こっちもか。
仕方ない、こっちの二人は放っておいて、カイムについて考えよう。
「おっさん、おっさんは信用するのか?」
「まぁな、喋った感じ悪そうに見えないし、こうして見るとただのチビデブフクロウだしな」
『ちょ、兄さんヒドいわ~、ワイはデブやないで?』
いや、メタボリックな腹してるよ。
俺はカイムの腹をツンツンすると、カイムはくすぐったいのかしろ丸の頭の上でバタバタと羽を暴れさせた。
『うひゃひゃひゃひゃっ、兄さん待って、ワイ腹は弱いんやっ!!』
『なうー』
『あ、も、申し訳ない、ちと迷惑を』
『うなぅっ!!』
『ぎゃぁぁぁぁっ!?』
あ、しろ丸に食われた。
頭から食われて口の中でグニグニと咀嚼され、メタボっ腹から下の身体がバタバタしてる。
その光景を、俺達は何とも言えない表情で眺めていた。すると月詠が言う。
「ま、まぁ……信用は出来ないけど、危険はなさそうね」
「ははは、なんかこいつ面白れーな」
しろ丸はカイムをペッと吐き出すと、またスヤスヤ眠り始めた。
唾液まみれのカイムはヨロヨロ飛び俺の肩へ停まった。おいヨダレ。
『うぅぅ、ヒドい目にあいました……』
「ったく、しろ丸を起こすなよ」
『はぃぃ……』
ここまでの話し合いの結果、カイムは勇者パーティー達が連れて行く事になった。
一度オレサンジョウ王国へ連れて行き、情報源として取引をした後は、勇者パーティー達の仲間として旅に連れて行くそうだ。まぁパーティーにはお馴染みのペット枠みたいなモンかな。
煌星とクリスは可愛いペットが加入して嬉しそうだし、なんだかんだで警戒してる月詠も煌星達が可愛がれば我慢出来ずに撫でまくるだろう。太陽は言わずもがな。
話もまとまったし、スゲーダロへ帰還することにした。
それからスゲーダロへ帰還途中、アレクシエルがかなりうっとうしかった。
助手席に座ったら座ったでオーディオやらスイッチやらをベタベタ触るし、温泉やトイレなど、この世界の技術では作れなさそうな物を徹底的に調べてメモを取っていた。どうやらこれからの研究に生かすらしい。
運転中の俺にも矢継ぎ早に質問してくるから適当に返事をした。タマの存在を知られたら益々うっとうしくなりそうだったので、タマには喋らないように伝えてる。
「うーん、ぜんっぜんわからない。異空間に関しても魔術じゃ説明出来ないし、そもそもあの『げーむ』とかいう魔道具はなんなの? でも、無人のコイン回収設備か……そうね、ポーションや薬草なんかの無人販売設備があれば売れるかも。ギルド前に設置して……」
とまあ、こんな感じでずっとブツブツ喋ってる。
「ふふふ、沸いてきた沸いてきた、あたしの中でインスピレーションが沸いてきたわ」
「………」
やれやれ、一応トラックの事は秘密にしておくように言ったけど、どこまで効果があることやら。
まぁ、勇者パーティーの名前を使って黙るように言ったから大丈夫かな。もし余計な事を喋ったら勇者パーティー達が黙っていない……そう言ったら変なこと言いやがった。
「ま、安心なさい。あたし以外にコイツの価値はわかんないだろうし、そもそもこれから調べる機会は山ほどあるわ」
「はぁ? 悪いけどスゲーダロに寄ったらすぐにゼニモウケに帰るからな」
「そうなの? まぁいいわ、そんなに大変じゃないしね」
スゲーダロへの到着は夜になりそうだし、到着した翌朝には出発する。
勇者パーティー達はゼニモウケまで送り、その後は馬車に乗り換えてオレサンジョウ王国まで帰還する予定だ。
帰ったら仕事に戻らないと。ミレイナ達も頑張ってるだろうしな。
さぁて、さっさとスゲーダロに向かいますかね。
そして深夜近く、スゲーダロに到着した。
助手席のアレクシエルはグースカ寝てるし、居住ルームのみんなも寝てるだろう。とりあえずこんな時間帯にどこの宿屋がやってるとかわからんし、学園でアレクシエルとリーンベルさんを降ろして、学園専用の駐馬場で一泊、朝になったらゼニモウケに帰ろう。
スゲーダロの町中は、酒場以外の建物は真っ暗だ。こうしてトラックを走らせると特別な感じがする。
ナビを頼りに走り、学園に到着した。
「アレクシエル、おいアレクシエル」
「んん~………ふぁ、着いた?」
「ああ、ってリーンベルさん、いつの間に外に……」
助手席の窓を見ると、リーンベルさんがニコニコして立っていた。
アレクシエルは眼を擦って背伸びをすると、ドアを開ける。
「ふぁ……ねぇ、そういえばおっさん、名前は?」
「……コウタだ」
「コウタね。わかったわ。それと、宿はどこ?」
「宿へは行かない、今日はこの駐馬場で夜を明かして明日出発するよ」
「そ、わかったわ。じゃあね」
「おう、元気でな」
アレクシエルは手を上げると出て行った。
全く、最後までお礼の一つもナシか。らしいっちゃらしいな。
「さーて、温泉に入ってビールでも飲むかね」
『警告。飲酒後八時間は運転不可。お気を付け下さい』
「わかってる。運転可能になったら連絡してくれ」
せっかくだし、風呂桶に熱燗でも浮かべて一杯やろうかね。露天風呂は夜景も広がってるし、一度やってみたかったんだよね。
うひひ、せっかくだし自分にご褒美あげますか。
翌日、俺は運転席で反省していた。
温泉での熱燗はヤバい、あれヘタしたら死ぬ。
疲れてる時は止めた方がいい、そのまま眠ると死亡確実だ。というかヤバかった、タマの緊急アラートが無かったら死んでた。
昨夜、俺は熱燗を作りウキウキで温泉へ向かった。
風呂桶に徳利を浮かべ、トラックではあり得ない夜空を眺めながらクイッと熱燗をやっていた。
いい気分になり、鼻歌を歌っていたのは覚えているが、その後は覚えていない。
気が付いたら脱衣所で素っ裸で寝ていた。そして何故かパジャマのままで濡れている太陽。その表情は呆れていたのがよくわかった。
「おっさん、あんた死ぬ寸前だったぜ?」
朦朧とした頭で理解出来たのはこれだけ。
太陽が掛けてくれたのか、股間にバスタオルがのせられ、傍にはしろ丸と泣きそうになってるコハクがいた。
そう、俺は温泉で酔っ払い熟睡してしまった。
タマが緊急アラートで太陽達を起こし、驚いた太陽が助けてくれた。
ちなみに、俺のキャノン砲を見たのは太陽だけらしい………太陽、マジで感謝。
そして現在、俺は居住ルームで頭を下げていた。
「すまん、温泉で熱燗をどうしてもやってみたくて……」
「気にすんなって、定番だしその気持ちわかるぜ。オレも大人になったらやってみよう」
「コウタさん、温泉での熱燗は本当は危険らしいですよ?」
「でも、大事なくて良かったですわ」
「まさかおにーさんが死にかけるなんてね~」
く、勇者パーティー達の視線が生暖かい。
すると、コハクが俺にピッタリくっついてきた。
「ご主人様、危ないことしないで……」
「……ああ、悪かった」
『なうなうー』
しろ丸にも心配掛けたな。
俺は改めて太陽達にお礼を言い、出発のために運転席へ。
『社長。アルコール摂取から九時間経過。運転は可能です』
「わかった。それとタマ、サンキュな」
またタマに助けられたぜ。
シートベルト着用して、エンジンを掛けようとした時だった。
『ちょっと、おーい!!』
「ん?……あれ、アレクシエルじゃん」
運転席のパワーウインドウを、アレクシエルが叩いていた。
窓を開けると腕を組んだ赤髪赤目チビ少女がプリプリ怒る。
「まったく、起きるのが遅い」
「悪いな、なんだ、見送りに来てくれたのか?」
「違う、いいからホラ、後ろ開けなさいよ」
「は?」
「お世話になりますコウタ様」
「え、リーンベルさん? あの、その荷物は?」
アレクシエルとリーンベルさんの近くには、巨大なスーツケースがいくつか置いてあった。どう見ても旅行に出かけるような雰囲気じゃない………ま、まさか。
「コウタ、運送会社やってるんでしょ? あたしも付いていくから。リーンベルもね」
「はぁ!? な、なに言ってんだお前。お前、ここの教授なんだろ?」
「ああ、辞めてきた。教授なんてつまんないし、この乗り物解析してた方が楽しいからね。それに、この乗り物をヒントに、勇者パーティー達の新しい追加装備が作れるかもしれないし」
「マジかよ、ってムリだって、住む場所とかどーすんだ!?」
「建てるわ。あんたの運送会社の敷地の隅っこに、あたしのラボ作らせてね。ああ、お金は払うから」
「ま、待て待て……」
「ちなみに、徹夜で荷造りして辞表叩き付けてきたから、行く当てなんかないから。あんたがあたし達を拾わなきゃ、今日から路上生活なのよ………まさか、こーんな可愛い女の子二人、野宿させるつもりなんて無いわよねぇ?」
「…………」
さて、俺はこの時どんな顔をしてただろう。
ははは……まぁ、仕方ない……のか?
「はぁぁ………」
「ま、よろしくね、コウタ!!」
「よろしくお願いします、コウタ様」
俺はトラックを降りると、荷物搬入用のドアを開けた。