173・トラック野郎、一息入れる
再びトラックへ変形し、いつの間にか林から出てきてるアレクシエルとリーンベルさんの元へ徒歩で向かう。ちなみに肩にはカイムを乗せていた。
「よう、無事か?」
「う、うん。その、ありがとね」
「助けて戴き誠に感謝します。このお礼は後ほど必ず」
二人とも、大した事ないようだ。
リーンベルさんは応急処置したのか、両手に包帯が巻かれてる。すると、未だに股間からホカホカの湯気が出てるアレクシエルが聞いてくる。
「さっそくだけど、あの巨人はなに? 別な乗り物も出て来たわよね? どこで作られたの? 誰が作ったの? ねぇねぇ教えなさいよ。早く」
「こら落ち着け、というかくっつくなよ」
「何よ、あたしみたいな可愛い子がくっつくと不都合なわけ? まぁちょっとくらいならサービスしても······」
「いや、ションベン付くから」
するとアレクシエルは漏らした事を思い出したのか、髪の色と同じくらい真っ赤になりしゃがみこんだ。
「う、ぅぅぅ〜······み、見たでしょ」
「あ、いや、まぁ」
ヤバい、アレクシエルがポロポロ涙を流し始めた。
助けを求めようとリーンベルさんを見る。
「アレクシエル博士、魔導車に着替えがありますので」
「うん······おっさんのバカ」
いや俺のせいかよ?
そして数分後、着替えを終えたアレクシエル達が戻ってきた。
するとアレクシエルは、止めてあるトラックに近付いてペタペタ触る。
「うーん、金属だけどそれだけじゃない。それにこの車輪、グニグニして硬いけど柔軟性もある······操縦方法は魔力?」
「違う、というかよくわからん」
ガソリンじゃなくて空気が燃料だしな。というかそれがホントなのかもわからん。
「やっぱり、あたしのラボで解体してみるしかないわね。これの構造を理解すれば、もっといい発明品を作れるわ」
「は? 解体だと?」
「うん。おっさん、お金払うからこれ譲って」
「ダメ」
「······いくらなら譲ってくれる? あたしの研究費、総額二億コインあるけど」
「いらん。というかこいつは仕事道具だし、そもそも俺以外に動かせない、諦めろ」
「な、なによそれ!! 二億よ二億、あんたみたいなフツーのおっさんがいくら働いても稼げない金額よ!!」
「だからいらねーよ。諦めろ」
「ぐぬぬ、お願い、ちょーだいよーっ!!」
「ダメ」
悪いが、たとえ百億積まれても譲る気はない。
すると、俺とアレクシエルの前にリーンベルさんが割り込んだ。
「博士、私の言った通り、この御方はお金で動くような人ではありません。残念ですが······」
「むぅぅぅぅ〜〜っ、ねぇお願い〜〜、これ譲ってよぉ〜」
「こら、離せ」
アレクシエルは俺の服をグイグイ引っ張る。まるで駄々っ子だな、こんなところは子供らしいぜ。
面倒くさいので、話題を変える。
「ところで、帰りはどうする? 足がないなら送るけど」
「お、気が利くじゃんおっさん、じゃあよろしくね」
「申し訳ありません、お世話になります」
すると、いいタイミングで来た。
『お、兄さん、勇者パーティーが来たで』
「ホントだ。まぁ全部終わったけどな」
「ちょ、なによこのフクロウ、喋ったわよ!?」
さーて、みんなと合流していろいろ説明するか。
「ご主人さまぁーーーっ!!」
「っと、よしよし、心配かけたな」
「にゃうぅ······」
コハクに抱きつかれ、胸に顔を埋めてる。
俺も優しく抱き返し頭をなでてやると、しろ丸が俺とコハクの周りをグルグル回り始めた。
『なうなうなうー』
「しろ丸、お前も無事だったか······良かった」
『うなーお』
コハクから離れ、しろ丸を抱き締める。
フカフカ柔らかなバレーボールを抱きしめてるようで気持ちいい。すると、カイムが恐る恐る聞く。
『に、兄さん、こちらの御方はもしかして······』
『ああ、しろ丸だよ。可愛いだろ?』
『·········』
どうやら声も出ないようだ。
すると今度は太陽達が前に出て······頭を下げた。
「おっさん、すまん!!」
「ごめんなさい、コウタさん」
「申し訳ありません······」
「おにーさん、ゴメン······」
「な、なんだよ一体、どうしたんだ?」
本当に申し訳なさそうに、勇者パーティーが頭を下げる。
「すまねぇ、守るとか偉そうなこと言っときながら、オレらはクソの役にも立たなかった。それに災害級だって殆どしろ丸が倒したみたいだし······」
「あたし達、コウタさんを危険に巻き込んだだけで······本当に、ごめんなさい」
「情けない。倒すべき敵すら倒せず······」
「私なんて復帰戦だったのに〜」
ああ、どうやら災害級はしろ丸が殆ど倒したと思ってるようだ。せっかくだし付け加えておくか。
「災害級のトドメは俺が刺したぞ。しろ丸との戦いで弱ってたし、トラックの武装で片付けられた」
「「「「·········」」」」
うわ、全員落ち込んじゃったよ。
そりゃ災害級の討伐で来たのに、ダンジョンを探索してお宝ゲットしただけだもんな。しかもお宝は俺の······あ、そうだ。
俺は後ろで話を聞いていたアレクシエルに聞く。
「アレクシエル、ダンジョンの最下層でこれを拾ったんだけど」
「ん?······へぇ、これも勇者の武具じゃない。型は古いけど修理と調整で使えそうね」
「じゃあお前にやるよ。俺が持ってても仕方ないしな」
「はぁ? あのね、勇者の武具は国宝級のお宝でもあるのよ? 歴代の『ルーミナス』が勇者専用に鍛え上げた武具は、行方知れずな物が山ほどあるの。そこのグラムガインもその一つで、売れば一気に億万長者、使いこなせば一気に『七色の冒険者』クラスの強さなのよ? ダンジョンの最下層で見つかったのも納得のお宝だわ、それをあげるですって?」
話が長いし、俺はそもそも武器を山ほど持ってる、それにお金ならクリスの異空間にしこたま財宝があるからいらない。
ぶっちゃけ勇者の武具なんて必要ないし、あの人骨さんの持ち物だと思うと手元に置きたくない。
「じゃあ修理してリーンベルさんに使ってもらえよ。『七色の冒険者』が使えばまさに最強じゃねーか」
「む、それもそうね······リーンベル、よかったわね」
「······本当に、よろしいのですか?」
「はい、俺にはこいつがあるんで」
俺はトラックに視線を移すと、リーンベルさんは深く納得したみたいだ。
「ありがとうございます。ふふふ、返せないくらいのご恩をいただいちゃいましたね。必ず、どんな事をしてもお返しします」
「い、いや······ハハ」
くっそ、この人可愛いじゃねーか。
去れ煩悩、消えろ煩悩、『どんな事』という単語をエロく解釈するな、美人眼鏡秘書さんのお礼はきっと屋台のラーメンや焼き肉の奢りだ。
「おっらぁっ!!」
「いっでぇぇっ!? な、なにすんだこの」
「うるさい、デレデレすんな!!」
アレクシエルが俺の脛を蹴りやがった。
するとここで、太陽達が当然の疑問をぶつけてくる。
「ところでおっさん、なんでここにアレクシエル博士が?」
「それとその······そのフクロウは?」
さーて、何から話せばいい事やら。