171・蒼き姉妹の二重奏③/ツインランス・アイスワルツ
*****《シャイニー・ウィンク視点》*****
姉妹の武器はそれぞれ違う。
シャイニーは双剣、ウィンクは長槍、特性もリーチもまるで違う。
戦闘開始と同時に飛び出した二人だが、先手を打ったのは長槍のウィンクだった。
「はぁぁぁぁっ!!」
「っ!!」
槍のリーチを生かした連続突き。
リーチで劣ることを知ってるシャイニーは、正面から受けるのを避け、ダッシュしたまま真横に飛ぶ。
ウィンクは避けられることを当然読んでいた。
「空を満たす水よ集え、『水の弾幕』!!」
「我が力を持って氷結せよ、『氷結壁』!!」
お互いの手の内を知っているかのように、魔術が放たれる。
ウィンクの放った魔術水弾がシャイニーを襲い、シャイニーは氷の壁を作り防御。氷の壁は砕け、水の弾幕は消滅。
「貫け、『水龍星』!!」
「チっ」
ウィンクの姿は上空にあった。
槍の先端を水で包み込み、水の力を利用してジェット噴射のようにシャイニーに向かって飛んで行く。
シャイニーは小さく舌打ちすると、バックステップで現在位置から離れる。
「はぁぁぁぁッ!!」
「おりゃぁぁっ!!」
ウィンクが水の流星となり地面に着弾、地面には大きな亀裂が出来た。
シャイニーはバックステップと同時に前進、ウィンクの着弾の隙を狙い剣を振るう。
「ッ!!」
が、シャイニーは考えた。
まるで狙ってこいと言わんばかりの隙の大きさに、誘われたのだと自覚した。
だが、ウィンクの槍の穂先は地面に突き刺さってる、あれを抜いて攻撃するだけでも時間が掛かる。シャイニーとウィンクの距離なら魔術も間に合わない、体術を使うにしてもシャイニーなら対処出来る。
「シッ!!」
シャイニーの出した答えは、このまま行く。
双剣を振るい、ウィンクの鎧を叩き壊そうとした。
「ふ……」
「なっ」
だが、その攻撃は見事に弾かれ、シャイニーは驚愕した。
ウィンクの手には、新たにもう一本の槍があったのだ。
「しまっ」
「やぁぁぁぁっ!!」
シャイニーは全力で地面を蹴り、横薙ぎに振るわれたもう一本の槍を回避するが、先端がシャイニーの鎧を掠めた。ニナの鎧が無ければ、少なからずダメージを負っていたであろう。
お互いに距離が開き、二本目の槍の正体を見た。
「なるほどね、その武具の正体は『双頭槍』だったのね」
「その通りです。この『海流槍ネプチューン』は、本来二本の短槍で、状況に応じて使い分ける事が可能です。ちなみに私、本来は二槍流なんです」
ウィンクは地面から槍を引き抜き、両手に二本の短槍を持つ。
その姿はまるでシャイニーとそっくりで、思わず笑みがこぼれた。
「普段は一本の槍を使い槍士と見せかけるなんて、やるじゃない」
「いえ、私の奇襲が破られたのはこれで二度目です。タイヨウ殿には躱されましたが、ツクヨ殿は躱すことが出来なったので自信があったのですがね」
ウィンクは二槍を構え、不適に笑う。
それを見たシャイニーは、双剣を構えた。
「じゃあ、アタシの真骨頂を見せてあげる」
「……?」
すると、シャイニーから魔力があふれ出した。
「氷結せよ大地、我が力によって氷の世界と成れ、『氷結世界』!!」
シャイニーを中心に冷気が巻き起こり、周囲が氷結する。
草も木も大地も、何もかも凍り付いた。
「な、これは……」
「アタシ、この魔術が一番得意なの。本来は対象を凍らせる魔術なんだけど、アタシが使うと周辺一帯を氷の世界に変えちゃうのよね」
そして、シャイニーの履くグリーブからエッジが飛び出る。
「さぁて、ツルツルの氷の上で、アンタは踊れるかしら?」
戦いの行方を見守っていたミレイナ達は、周囲の状況に驚いていた。
「さ、寒いです……わわっ、キリエ?」
「まさか、シャイニーの魔術がここまで強力だとは思いませんでした。『水』属性の上位互換である『氷』属性を、こうも的確に操るとは」
寒さで震えてるミレイナを抱きしめながら、キリエは言う。
その質問に、寒さを全く感じさせないニナが返す。
「逆にアイツは『水』属性の魔術が苦手でな、基礎魔術以外は殆ど使えない、だが……氷属性に関しては天賦の才能といえる物を持っていた。この魔術を使うという事は、ウィンクを真の強者と認めたのだろう」
「つまり、本気になったと?」
「ああ、シャイニーブルーは本来、モンスターとの戦いより対人戦闘が得意でな、私の教えと魔術を組み合わせた戦闘スタイルを模索し辿り着いたのがあの技………『氷結世界の蒼い舞姫』だ。あれを使われたら戦闘に特化した特級冒険者が束になっても適わない。あいつの奥の手の一つだ」
「隠し球ですか、流石はシャイニーですね」
「ま、使用条件があるからおいそれとは使えないらしいがな」
「あ、あのキリエ、なぜ胸を揉むのでしょうか……あぅ」
「いえ、温かいので」
キリエのセクハラのおかげか、ミレイナの身体は火照っていた。
「く……っ」
「上手く立てないでしょ? 氷の上で戦った経験なんてないわよね」
ウィンクは転びそうになるのをなんとか堪え、槍を構える。
シャイニーは双剣を構え、地面を滑る。
「な……くぁっ!?」
もの凄いスピードでシャイニーとすれ違い、強烈な斬撃を槍に喰らい、ウィンクは転倒した。
だがシャイニーの猛攻は終わらない、急転換し飛び上がり、空中で回転しながら遠心力で斬りかかる。
「ぐぁっ!?」
「どう、降参する?」
「だ、誰がっ!!」
立ち上がった瞬間に上空から攻撃され、ウィンクは再び転倒する。
シャイニーは追撃せず、ウィンクを見下ろした。
ウィンクの視線はシャイニーの足、足裏のエッジでこの氷の大地を移動してると理解した……が、理解したところでどうにもならない。ウィンクがこの状況でシャイニーに勝つ手段はない。シャイニーのフィールドに巻き込まれた以上、ウィンクに残された手段は一つしかない。
「私は、あなたに勝ちたい」
「………」
「いろいろ思惑はありました、でも……今はそんな事どうでもいい、ただ勝ちたい」
「ふーん、じゃあ……いいわよ」
シャイニーは微笑んだ。
ウィンクはその意味を理解し、勝利を確信した。
これは、承諾の合図だと。
「『鎧身』」
ウィンクの槍が溶け、滝のような水が周囲を包む。
シャイニーは弾き飛ばされ、滝のような水が氷を溶かす。
そして、青い鎧に包まれたウィンクがそこに居た。
「勇者の武具、一度手合わせしたかったのよね……」
「………」
全身鎧のウィンクは、形状変化した突撃槍を構える。
そのプレッシャーはコハクと同等かそれ以上、だがシャイニーは怯まない。
「参ります」
大地が爆発し、ウィンクは一瞬でシャイニーの懐へ。
シャイニーが双剣を交差したのは、ほぼ無意識だった。
「『水流砲』」
洪水のような流れが、シャイニーを吹き飛ばした。
交差した双剣に水の塊がぶつかる感触。
身体が浮き、後方に吹き飛ばされる感触をシャイニーは感じていた。
「ぐぅぅぅぅぅっ!!」
痛みで両腕がねじ切れそうだった。
だが、この腕を解けば水はシャイニーを押しつぶすだろう。
形勢は一気に逆転、あっという間に窮地に立たされた。
だが、シャイニーは笑っていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
妹と名乗る少女ウィンクとの出会いは、少なからず衝撃だった。
ウィンクの存在を隠していた事は不満だったが、理由を聞いて少なからず納得してしまい苦笑した。そして、父と妹がくれた双剣は、とても嬉しかった。
ひょんな事から一緒に食事をし、一緒に風呂に入り過ごしたが、ウィンクの存在はシャイニーの中にすっぽりと収まった。それこそ、本当の妹のように。
そんな妹が、自分と全力で戦っている。
勇者パーティーの一員として各地を回り、シャイニーの強さが知りたいと剣と槍を交えている。
それが嬉しく、全力を出して叩きのめそうとした。
「アタシは、まだやれる……ッ!!」
双剣が、熱くなった。
シャイニーの強い思いに触れたように、徐々に、徐々に水が凍り始めた。
ビシビシと凍り付いていく。まるで、何かが目覚めたように。
「アタシを……ナメんなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!」
双剣に収められた宝玉が光り輝き、水の砲撃が全て凍り付き爆発した。
「く……な、何が……」
ウィンクは、水の砲撃があり得ない結果を引き起こした事に驚愕した。本来ならシャイニーを押し潰し、気を失わせて勝利するつもりだったのだ。
だが、水の砲撃は氷結し爆発……目の前には、霧が掛かっていた。
そして、声が聞こえてきた。
「なーんでこんな事になったか知りたいけど、今はいいわ」
霧の奥から、ゆっくりと誰かが歩いてくる。
「ゴンズ、あのエロジジィ……いい仕事するじゃない」
それは、空のように澄み渡る『蒼』だった。
ウィンクの、ミレイナの、キリエの、ニナは驚愕していた。
「力が漲る……さぁて、続きよ」
シャイニーは、『蒼』い鎧を纏っていた。
女性のような細いシルエット、スカートのような下半身に、上半身はスタイリッシュに纏められ、兜はまるで白鳥のような美しさだった。
それは間違いなく、勇者の武具だった。
『親愛双剣ナルキッス&セイレーン』の、鎧身形態だった。
「ば、バカな……あり得ない、あり得ない!!」
「はいはい、いーから続きよ、まだ終わりじゃないわ」
形状変化した双剣を構え、シャイニーは言う。
戦いは、最終局面に入った。