170・トラック野郎、鬱憤を晴らす
*****《コウタ視点》*****
ダンジョンの最下層から転移した先は、見覚えのある場所だった。ここはダンジョンの入口だよな?
「や、やった、ダンジョン脱出成功だぜ!!」
『やりましたね、兄さん!!』
あ、そういえばカイムを掴んだままだった。
手を離すと、カイムは俺の肩へ着地する。
「ふぅ、あとはしろ丸がアイツを倒してくれる」
『·········』
「ん、どうした?」
『いえ、その······ちぃと気になる事が』
おいおい、せっかくダンジョンから脱出出来たのに、何をいきなり。
『······ワイはこのダンジョンを利用するとき、周囲を徹底的に調べました。そこで見つけたのが転移魔法陣で、ワイは一瞬で最下層まで転移して勇者を待っとったんです』
カイムは方羽で顎を触りながら答える。
『ワイの使った魔法陣は一度きりの裏道みたいなモン······なら、フレーズヴェルグの姐さんはどうやって最下層に?』
カイムの疑問は形となって現れた。
少し離れた上空に、巨大な魔法陣が現れたのである。
「·········」
『·········そっか、姐さん、転移魔術が使えたんやな』
「おい、それってつまり」
『ええ、姐さんの狙いはワイや。あのオオカミはんは無視してこっち来たんやなぁ······』
このチビデブフクロウ、焼き鳥にしてやろうか。
せっかく逃げれたと思ったのに、危機は去ってない。
「ふ、やっぱ最後は主役の出番か」
俺は茂みに隠しておいたトラックの元へ向かった。
トラックは、変わらずそこにあった。
俺は迷わず運転席へ向かうと、椅子の上にインカムが置いてあった。
『お疲れ様です社長。忘れ物の存在には気が付きましたか?』
「タマ〜〜〜、会えて嬉しいぜチキショーっ!!」
『なな、なんやこれ!?』
俺は思わずハンドルに頬ずりする。
軍用ヘルメットと武器を助手席に投げ捨て、エンジンをかける。とりあえずカイムは無視しておく。
「タマ、気がついてると思うけど、敵が現れた」
『確認しました。上空に『虹孔雀フレーズヴェルグ』を確認』
「今日の俺はひと味違うぜ、あんな鳥やっつけてやる」
いろいろ鬱憤も溜まってるし、あの鳥公はしろ丸を傷付けた······万死に値する。
『警告。熱源反応感知。個体数ニ。個体名アレクシエル・ブレン・ルーミナスとリーンベルを確認しました』
「は? な、なんであいつらが?」
『詳細を表示します』
トラックのフロントガラスに表示される。
ボロボロになった車と、ケガをした眼鏡秘書リーンベルさん、そして股間からホカホカの湯気を出し震えてるアレクシエル、そして大口を開けて二人を喰おうとしてる巨大孔雀。
『あ、姐さん、人間を喰うつもりや!!』
「わかってるよ、行くぞ!!」
ギアを入れて発進する。
幸い、視認できるくらい距離は近い。
「タマ、【機銃】展開」
『畏まりした』
ガンコンが現れサイドミラーが変形する。
十秒も走らない内に見えたので、ガンコンを構え撃ちまくる。
「止めろこの、アホ孔雀がっ!!」
背後から撃った弾丸は、孔雀の身体にめり込んだが、貫通はしなかった。ちくしょう、柔らかそうな身体してるくせに。
『痛いじゃない······それにカイム、ホントに人間に付くようねぇ?』
『ヒッ······く、そ、そうや!! わ、ワイは人間を襲う片棒を担ぐ気はあらへん!! わ、ワイは生きるんや!!』
『そう、なら死になさい!!』
よし、孔雀のターゲットがトラックになった。
あとは、コイツをブチのめすだけだ。
「カイム、ここからは俺に任せろ」
『へ? に、兄さん?』
「しろ丸といいお前といい、モンスターでも良い奴はいるんだな」
さて、クライマックスと行くぜ。
紫電を纏い始めた孔雀だが、俺は冷静だった。
もしかして、ダンジョンでの経験が俺を強くしたのかもな。
「行くぞタマ!! デコトラ・フュージョンッ!!」
『変形シークエンス開始。デコトラカイザー起動』
トラックが変形し、バンボディ部分が脚部になり、運転席が上部に移動して狭いコックピットへ。へへ、久しぶりに変形だぜ。
「デコトラカイザー、配送開始っ!!」
カッコいいポーズを決め、人型ロボットへ変形した。
悪いな、この姿になったトラックは無敵だぜ。
『な、何よコレ······気持ち悪い』
「んだとコラ、ドライビングバスターッ!!」
大剣モードで孔雀に斬り掛かるが、孔雀は空を飛び回避する。そしてバチバチと全身が発光した。
「やべっ」
『喰らいなさいっ!!』
俺の背後には、アレクシエル達がいる。
デコトラカイザーはアレクシエル達の乗る車に覆い被さるようにしゃがみ、電撃からガードした。
「おい、大丈夫か!!」
「え、あ、う、うん」
「リーンベルさんは? 動けるのか?」
「えと、気を失ってる。うごけない」
「······よし、動くなよ」
俺はデコトラカイザーで車を抱え、そのままジャンプして茂みに飛び込んだ。まずはこいつらから遠ざけないと。
林の中に車をゆっくり置き、孔雀の元へ戻ろうとした。
「ちょ、おっさん!!」
「なんだよ、今は後に」
「な、何なのよこれ······あたし、こんなの知らない」
「知らなくて当然だろ、また後でな」
アレクシエルには悪いが、孔雀を優先する。
デコトラカイザーのジャンプで林を飛び越えると、孔雀は変わらず空を飛行していた。
『ふふ、お優しいのねぇ、巻き添えにならないように隠すなんて······でも、私の雷撃に距離は関係ないわよ?』
「ドライビングバスター、キャノンモード!!」
こいつはレーザー光線を発射するが、単発での光弾を放つ事も出来る。
コントローラーのアナログスティックでカーソルを移動させ、孔雀に狙いを定め発射ボタンを押す。すると光弾が発射された。
『おっと、うふふ、のろいのろい』
「くっそ、ちょこまかとっ」
だが、光弾は当たらない。
動き回るモンスターに光弾を当てるのが難しい。ちくしょう、やっぱ俺の腕が悪いのか。
『ガァァァッ!!』
「どわぁぁぁっ!?」
孔雀は口から雷を吐き出し、デコトラカイザーに浴びせる。
俺が痺れる事はないが、ダメージは喰らう。
『あーーハハハハッ!! 届かない届かない、こんなんじゃさっきのワンちゃんの方がマシな相手だったわっ!!』
ち、ちくしょう。
ユニックに変形するか? いやでも、ユニックの防御力じゃ俺まで雷ダメージ食らうかも。ブルは論外だし······なら、あれしかないな。
「タマ、クレーンジャケットは砲撃戦闘が得意なんだよな?」
『肯定。クレーンジャケットは超遠距離狙撃形態と中近距離砲撃形態に特化した形態です』
「なら決まり、やるぞ」
『畏まりました』
へへ、特撮ヒーローでもロボット物でも、強化形態はお決まりだよな。
俺はバックステップで距離を取ると、高らかに叫ぶ。
「重機召喚、クレーンジャケット!!」
すると、デコトラカイザーの背後から巨大なクレーン車が現れた。
オールテレーンクレーン車。トラックよりもデカい作業用クレーン車だ。タイヤも多いし装甲も厚い、なによりカッコいいんだよな。
「行くぜ、重機合神!!」
『変形コード確認。重機合神プロセス開始』
オールテレーンクレーン車が立ち上がり、変形が始まる。
デコトラカイザーはユニックへ変わり、機体がクレーンジャケットに合わせて変形する。
まるでオールテレーンクレーン車がユニックデコトラカイザーを包み込むように合体、巨大なロボットが誕生した。
「完成!! ユニックデコトラカイザー・クレーンジャケット!!」
『な、なんですってぇぇぇぇっ!?』
驚いた孔雀は電撃を吐き出し、翼からも雷を落とす。
だが、クレーンジャケットの分厚い装甲は電撃を無効化した。
『ば、馬鹿な······』
「じゃ、こっちの番な。ジャケット展開!!」
背中のクレーンが二つに割れ、両腰からクレーン砲身が現れた。さらに胸や肩、足に内蔵されたミサイルや機銃が孔雀に狙いを定める。
「お前の命、地獄に代引きで送ってやるよ。支払いは閻魔大王宛だ!!」
『全砲門ロックオン。《カラミティブラスター》発射』
ミサイル、機銃、クレーン砲門からの極太レーザー砲が孔雀目掛けて発射された。
『ひ、ヒィヤァァァァァーーっ!!』
孔雀は全力で逃げるが、ミサイルや弾丸、レーザーはあり得ない軌道を描き孔雀を狙う。
「グッバイ······」
着弾、大爆発を起こし孔雀は消滅した。肉片すら残らない、完全な消滅だった。
『や、やったぁぁっ!! すごい、兄さんすごいやん!!』
「ふふ、まーね」
『お疲れ様です社長』
こうして、災害級危険種は討伐されたが、俺は気が付かなかった。
トラックを見上げる一人の少女の存在に。
*****《アレクシエル視点》*****
まるで、夢を見ているようだった。
『デコトラカイザー、配送開始!!』
見たこと、聞いたことない鉄の巨人。
どんな技術を持ってしても、あれだけの巨体を動かすのは不可能、それ以前に乗り物を変形させて人型にする技術なんて聞いたことも見たこともない。それどころか、天才と呼ばれたアレクシエルでも、どんな仕組みか理解出来ない。わからない。
『ドライビングバスターっ!!』
何もない空間から大剣を呼び出した。
異空間をつくりだす魔術はあるが、莫大な魔力を消費する上大した容量もない。魔術の才能に溢れたクリスでさえ旅の荷物を収容する程度の大きさの異空間しか作れない。それをあんな冴えないおっさんが、あり得ないほど巨大な剣を収納するサイズの異空間を作り出したなんて。
『重機召喚、クレーンジャケット!!』
今度は、別の何かが現れた。
アレクシエルが作った魔導車がオモチャに見えるほど精巧な作りであり、しかもわけのわからない変形をして合体までした。
技術、構造、発想······全てがアレクシエルより遥か上。
アレクシエルは、どれほど底辺で胸を張っていたのだろう。
あんな冴えないおっさんが、自分が理解出来ない高みに存在する発明品を操り、あまつさえ自分やリーンベルを助けた。
「·······はは」
アレクシエルは、デコトラカイザーとフレーズヴェルグの戦いを見て歓喜した。
あのトラックを解析すれば、自分はまだまだ高みに行ける。
「それに······」
『大丈夫か?』
ドクンと、アレクシエルの胸が高鳴る。
まるでヒーローのように、助けてくれた。
お姫様が助けを求めると、必ず現れるヒーローのような。
すると気を失っていたリーンベルがアレクシエルの傍へ来た。
「あ、アレクシエル博士······無事ですか?」
「リーンベルっ!! よかったぁ、ケガは平気?」
「なんとか、それより······」
リーンベルの視線はデコトラカイザーへ。
「あれ、おっさんが動かしてるみたい」
「まさか······」
「リーンベル、あたし······決めたわ」
アレクシエルは、決意の眼差しで微笑んだ。