17・トラック野郎、空気
ゼニモウケ王国へと続く街道。そして王国への入口は4つある。俺たちのユニック車は幸運なことにモンスターと遭遇せず帰ってこれた。
すれ違う馬車や冒険者グループが振り返り、大騒ぎするのにも慣れた頃、冒険者ギルドに最も近い東門の検問所にユニック車を進ませる。
「はぁ〜······やっと帰ってこれた」
「ねぇねぇ、この『ぽっきー』ってお菓子もっとちょうだいよ‼」
「あぁもうダメだっての‼ お前1人で何箱食ったよ⁉ 少しはミレイナを見習えっての‼」
「なによこのケチ‼」
「んだとこのシャブちゃんが‼」
「その名前で呼ぶなぁぁぁーーーッ‼」
ユニック車は2人乗りなので、隣にはシャイニーを乗せてる。いや、載せてる。
ミレイナは居住ルームやシャワールームやベッドルームの掃除洗濯をしてる。箒やチリトリが付属してたのはラッキーだった。もしリストに掃除機が入れば即購入しよう。
シャイニーは隣でお菓子を貪り食ってた。甘いのが食べたいって言うからポッキーを出してやったら気に入り、なくなる度にせがんでくる。可愛いけど限度ってモンがある。だからもうダメ。
窓を閉めてるから外の声は聞こえないが、きっと騒ぎ声がするんだろうな。得体の知れない金属の乗り物が、超危険種であるドラゴンを運んでるんだし。
「なぁ、ホントに大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。アタシに任せなさい。アタシの顔を見ればこのドラゴンも納得するはずよ」
「へぇ、さすが最強の冒険者様だね」
「そうでしょ? だからポッキー」
「ダメ」
そして検問所へ。俺たちの番が来た。
何人もの兵士が出てきたけど、窓からシャイニーが顔を出すと驚いていた。
「お疲れ様、超危険種『ヴェノムドラゴン』を討伐して来たわ。これからギルドに向かうから」
「しゃ、シャイニーブルー様⁉ ご無事で······」
「ありがと。報告は私がするから、このまま通るわよ」
「はっ‼ お疲れ様です‼」
顔パスかよ。さすが有名人は違うね。
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冒険者ギルドへ向かう途中、ドラゴンは大いに目立った。
町を歩く人たちは騒ぎ、逃げ惑う。冒険者たちは指さして追いかけてくるし、めちゃくちゃ目立った。くっそ、シートでも被せればよかった。そんなのないけど。
そしてギルドに到着し、ミレイナを呼んで来る。
「じゃあ報告に行きましょ」
「え、俺たちもか?」
「当然よ。ここまで運搬してくれたこともあるし、何よりアタシを助けてくれたんですもの。ギルド長に紹介くらいはするわ」
「ぎ、ギルド長って······先代の『蒼』ですか⁉」
「そうよ。まだ若いのにギルド長なんて職を選んじゃったからね。戦うより人を育てるのが性に合ってるみたい」
「·········それって、男? 女?」
「女よ。歳は······25だったかしら?」
ほほぅ、こりゃ期待できますな。俺の1つ下でギルド長。
こういう異世界モノのお約束だろ、美人の女ギルド長って。こりゃ是非ともお近付きになりたいですな。
そして俺たちはギルドの中へ。シャイニーを先頭にして進む。
「戻ったわよ‼」
シャイニーは蒼髪をなびかせて颯爽とギルド内へ。冒険者たちほぼ全員が注目した。
「『ヴェノムドラゴン』は討伐したわ。ギルド長を呼んでちょうだい」
「······もう来てる」
「あ、ニーラマーナ。ふふん、ドラゴンは討伐したわ。まぁ私1人じゃなくてこの2人の力も借りたけどね」
「·········」
「だから言ったでしょ? 私1人でも十分だって。あぁそうだ、報酬はこの2人にあげてちょうだい。ドラゴンをここまで運んでくれた運搬料としてね」
「·········シャイニーブルー」
「なによ? ふふふ〜、ようやくアタシを」
次の瞬間、ギルド長がシャイニーの頬を引っ叩いた。
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ギルド長はすっげぇ美人だ。シャイニーより深く濃い青髪のショートカットにして、胸元の露出の激しい服を着てる。これはけしからん、じっくり見なければ。足はズボンを履いていたがぴっちりした素材で、それがなんとも艶めかしい。これはアレだ、ミレイナやシャイニーには出せない大人の色香だ。こりゃたまらんぜ。ぐひひ。
「な·········何すんのよっ‼」
「お前は自分が何をしたか理解してるのか?」
「な、何がよ······そりゃ規則違反したのはわかってるけど」
「それもある。だが、ヴェノムドラゴンは超危険種。単体で挑んでも勝ち目は殆どない。むしろ、お前がやられたあとに興奮したヴェノムドラゴンが暴れ、周囲の集落や農村を襲う確率のが遥かに高い」
「そ、それは······でも、私は現に倒したわ‼」
「そうだ。だが可能性は無視できないレベルであった。だからこそ慎重に事を進めて討伐に当たるべきだったのに、お前はそれを無視した。さらにドラゴンを確認したが·········あれは本当にお前が倒したのか?」
「な、何よ······疑ってるの⁉」
「ああ。あの得体の知れない乗り物に載せられたドラゴンの首の切断面を見たが······あれは焼け焦げた痕だ。お前の双剣で切り裂いた傷ではない」
「うぐ······」
ありゃレーザーカッターで切った痕だしね。というか俺とミレイナ空気だなぁ。巨乳ギルド長の視界にすら入ってない感じ。それは周りの冒険者たちも同じだけどな。ザ・空気。
それにしてもこの巨乳ギルド長······怖い。
なんかムチ持って「このブタめ‼ お前はブタなのよ‼」とか言いそうだな。
「方法はわからんがこれだけは言える。あのドラゴンを倒したのはお前ではない」
「なっ······」
「となると、可能性は1つ······そこの2人、いや、男が倒したのだろうな。そちらのお嬢さん······ミレイナでは不可能だからな」
「わ、私を知ってるんですか⁉」
「当然だ。このギルドで登録に来た冒険者を、私は全て把握してる」
あらら、ミレイナが感極まって涙目になってる。そんな顔も可愛いけど今は俺の注目をなんとかしないとね。というか注目すんなよ冒険者たち。
「あの〜······ところで、ドラゴンの素材を換金したいんで、そろそろ失礼します」
「はぁぁっ⁉ ちょっとあんた、この状況で出ていく気っ⁉」
「だ、だって······報酬は貰えなそうだし、後はお前の処罰だろ? 注目されるのヤだし、ここで失礼します」
「あのねっ‼ ここはアタシを弁護する立場でしょーがっ‼ 『シャイニーのおかげで倒せたんです』とか、『ボクは彼女をアシストしただけ、トドメを刺したのは彼女です』とかさぁっ‼」
「えぇ〜······いやお前、毒食らってゲロと血ぃ吐いてたじゃん。しかもウンコまで漏らしてたし」
「な、な、なぁぁぁっ‼」
シャイニーは俺の胸倉を掴んで揺すり始めた。ちょい待て······苦しい。
「これでハッキリしたな。ではシャイニーブルー、ギルド長としてお前に処罰を言い渡す」
「ぐっ······何で」
処罰はあると聞いてたけど、ここまで責められるとは思ってなかったみたいだな。歯を食いしばってプルプル震えてる。なんか可哀相になってきた。
「シャイニーブルー、お前の冒険者資格を永久に剥奪する」
「は?」
それは、とんでもなく重い罰だった。
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「は、はく······だつ?」
「そうだ。ギルド長である私にはその権限がある。お前は態度や行動から一切の反省が見られない。あまつさえ、超危険種であるヴェノムドラゴンを自らが討伐したように見せかけ、不当な報酬を得ようとしていた。よって冒険者として相応しくないと判断し、冒険者の資格を永久剥奪する」
う、うわぁ······思った以上にキツイわこれ。
シャイニーは唖然としてるし、ミレイナも口を押さえて巨乳ギルド長を見つめてる。だけどまぁギルド長の言うことは最もだし、反論しようがないくらい事実だ。
「あ、アタシは······『七色の冒険者』よ?」
「それがどうした。冒険者には変わりないし、『蒼』の候補はいくらでもいる」
「い、今まで······ギルドのために、みんなのために」
「だが、ルールを破ったのはお前だ」
「剥奪って、そんな」
「諦めろ。これは決定だ······おい」
すると、ギルド長の後ろにいた冒険者が、大きいカバンをシャイニーの前に投げた。
「お前の荷物だ。ここの宿泊棟からも出て行って貰うぞ」
「うそ······うそ、よ」
「秩序を乱すのは淘汰される。よく覚えておけ」
それは、ギルド内の冒険者全員に向けた言葉だ。俺でもそのくらいはわかった。
どうしよう。こんな静寂の中で動くと注目される。さすがにシャイニーが可哀相だと思うけど、俺が言ったところでどうにかなるモンじゃないし、そもそもそこまでの義理はない。
「う、うぅぅ······っ‼」
「シャイニーっ‼」
シャイニーが荷物を掴んで出て行った。ミレイナもそれを追って出て行ったし、ここは俺も出るチャンス‼······と思ったら、ギルド長が話しかけて来た。何故に?
「待て、あのドラゴンを倒したのはお前なのか」
「まぁ、そうです」
「そうか、あの未知の乗り物も、お前の物か」
「そうですけど······」
「ふむ、面白い。よかったら」
「あ、結構です。じゃ」
俺はギルドを後にした。
この状況で俺をスカウトするとは、とんでもない図太さだ。
この人の言うことは正しいし、シャイニーが悪いのもわかってる。だけど俺は正しいギルド長より、悪いことをしたシャイニーの方が気になった。
何だろうな、この人は正しいことが全てなんだろう。シャイニーはルールより人や動物たちの命を優先して突っ走った。それが悪いことでも、誰かのために駆け抜けたんだ。
人の決めたルールを逸脱して、それを責めるのは正しい。だけど俺はシャイニーが誰かのために命を掛けて戦ったのを知ってる。だから俺はシャイニーの姿勢を好ましく思う。
それに、全裸も見ちゃったし、責任取らないとな。
さて、シャイニーを追っかけるか。
第二章は20話まで。それまでトラックの出番は薄いです。
第三章から本格的に始まります。