168・蒼き姉妹の二重奏②/シャイニーVSウィンク
「ただいま帰りましたー」
「ただいま戻りました」
「ふぅ、女性らしい買い物など数年ぶりだ······ん?」
シャイニーとウィンクが睨み合っていると、ミレイナ・キリエ・ニナが帰って来た。
当然、皆の視線はウィンクへ向き、ミレイナが驚きつつ質問した。
「あれ、確かウィンクちゃんですよね? そういえば髪も瞳も蒼いですね、もしかしてシャイニーの知り合いですか?」
「うん、妹」
「そうですか、妹ですか·········え?」
「腹違いじゃない、母親が一緒の妹よ。アタシもさっき知ったけどね」
「え······ええぇぇっ!!」
ミレイナは大いに驚き、キリエは物珍しそうに眺め頷き、ニナは全てを察したのか、優しく微笑みウィンクを見つめた。
「せっかくだし、みんなにも説明するから座って。それに、立会人も必要だしね」
「なるほどな、そう言う事か」
シャイニーがニナを見ながら言うと、ニナは頷く。
そして、視線はテーブルの上にある双剣に。
「ほぅ、素晴らしいな」
「でしょ? どうやら、お父さんと妹がアタシのためにプレゼントしてくれたみたい」
「この輝き、失礼ですが、以前の双剣よりも輝いて見えますね」
「アタシもそう思う。まぁ災害級の龍核を使ったみたいだしね」
ミレイナはお茶を淹れに向かい、しばしウィンクを交えて談笑する。
ニナとウィンクは顔見知りであるから当然として、ミレイナやキリエともすぐに馴染んだ。
「そうだ、せっかくだしウィンクちゃんも泊まって下さい。ふふふ、今日のお料理は奮発しますね」
「え、で、ですが」
「ま、いいんじゃない? 荷物はあるの?」
「はい、宿に預けてあります」
「では、後で一緒に取りに行こう。私が付きそう」
どうやら決定事項らしく、ウィンクは苦笑した。
女性五人で夕飯を食べ終わった。
洗い物をしながらミレイナがシャイニーに言う。
「シャイニー、お風呂を沸かしてくれますか?」
「りょーかい、ウィンク、アンタも来なさいよ」
「は、はい」
シャイニーはウィンクを連れて浴室へ。
シャワータンクに魔術で水を入れて魔石に魔力を流してお湯を沸かし、同じ要領で浴槽に水を貯めるのだが、なんとウィンクは魔術を使いお湯を出した。
「へぇ、器用じゃない。なーるほど、『火』と『水』属性の併せ技ね?」
「はい、器用さを身に着けるために習いました。実は複合魔術は得意なんです」
誇らしげなウィンクにシャイニーは微笑みで返すと、恥ずかしくなったウィンクは顔を赤くして目を逸らした。
「よーし、じゃあ一緒に入るわよ」
「え、お、お風呂にですか!?」
「それ以外に何があんのよ。双剣のお礼に背中流してあげる」
「え、えええっ!?」
シャイニーはスルスル服を脱ぐと、いつまでも服を脱がないウィンクに襲いかかり、無理矢理服を脱がした。
「ほら、観念しなさい!!」
「ちょ、ま、待って」
観念したウィンクは服を脱ぎ、シャイニーに連れられ浴室へ。
二人はシャワーを浴び、身体を洗う。
「へぇー、なかなか鍛えられてるわね。どれどれ······」
「ぴゃぁぁぁぁっ!?」
シャイニーは、背後からウィンクの胸を鷲掴みした。
訓練での痛みや苦しみ、ささやかな楽しみである甘いお菓子を口にした感動とは違う何かがウィンクの身体を駆け巡る。
「うーん、アタシの勝ちね」
「う、ぅぅぅ······」
「ちょ、な、泣くことないでしょ!?」
シャイニーは慌ててウィンクから手を離す。まさか泣くとは思わず、さすがのシャイニーも戸惑った。
シャイニーは誤魔化すようにシャワーを出し、シャンプーでウィンクの髪を洗う。
「ほーら、気持ちいいでしょ?」
「うわわ、ちょ、なにこれ」
「流すわよー」
泡を流してタオルで拭い、そのまま湯船へ。
二人で浴槽に入ってもまだ広い。シャイニーは足を伸ばして浴槽の縁に腕をかける。
「あ〜〜〜、いいわね」
「はい······」
ウィンクは、シャイニーの胸元を見た。そこには、自分と同じくやや淋しい山が二つあった。
「ねぇ、お母さんってさ、ムネなかったわよね?」
「あ······たぶん」
「じゃあ、アタシ達はお母さん譲りのムネってことね」
「·······ぷっ、ふふふ、はい」
蒼い姉妹は楽しそうに笑った。
しばし、浴場は静寂に包まれる。
「明日の日中、場所はゼニモウケ郊外の平原で······いい?」
「はい、わかりました」
「言っておくけど、手加減しないわ」
「それは私もです。騎士団で培った技術と魔術、お見せします」
「楽しみね······」
シャイニーは立ち上がり、ウィンクも立ち上がる。そしてシャイニーが差し出した手をウィンクはしっかりと握った。
「私は負けません。勇者パーティーの一員として」
「アタシはアタシが最強だから、絶対に負けない」
二人の『蒼』が、衝突する。
風呂から上がったウィンクはすぐにベッドへ入り、シャイニーはニナに呼ばれ、彼女の自室のドアをノックした。
「ニーラマーナ、来たわよ」
「ああ、入れ」
「悪いけど、用事ならさっさと済ませてね、明日は······え?」
部屋に入るなり文句を言ったシャイニーだが、彼女を黙らせるだけの驚きがあった。
ニナの部屋の中央にテーブルが設置され、その上にはシャイニーが見たことの無い美しい鎧が置いてあった。
「やれやれ、入るなり悪態とはな。実にお前らしい」
「これ······」
「サイズは合ってる。お前にやろう」
とても滑らかで美しい軽鎧だった。前に装備していたハイミスリルの鎧より軽く、デザインも変わっていた。
「これは『アクアミスリル』の鎧だ。深海に生息するアクアリザードの体内で熟成されたミスリル鉱石を原料にしている」
「あ、アクアミスリルって、こんな高級品、どーしたのよ?」
「なに、大昔にお前用に作らせた鎧だ。サイズは微調整してあるから問題ない」
「大昔って、いつのよ?」
「ふ、そんな事はどうでもいい。双剣はあるが鎧がないのでは格好が付かないからな」
「·········その、ありがと」
「ふ······」
戦闘準備は、完了した。
翌日、エブリーに乗ってゼニモウケ郊外へ。
シャイニーが運転しウィンクが助手席へ座り、ミレイナ・キリエ・ニナの三人は後部座席へ座った。
車内は緊張に包まれ、ピリピリとした空気になり、ミレイナは汗をダラダラ流している。
「落ち着けミレイナ、大丈夫だ」
「は······はい」
キリエは涼しい顔でイカ焼きを齧っている。
そして、人気のない広場へ到着した。ここならどんなに騒いでも問題ない。
シャイニーとウィンクは武器を装備する。
ウィンクは着慣れた騎士団の軽鎧に髪をお団子に纏め『海流槍ネプチューン』を装備し、シャイニーはニナから貰ったアクアミスリルの鎧に『親愛双剣ナルキッス&セイレーン』を逆手で構える。
立会人を任せられたニナは、ルールの確認をする。
「ルールは一つ、相手を戦闘不能にしたら勝ちだ。それ以外は何をしても構わん」
「わかりました」
「わかったわ」
「よし······準備はいいな?」
お互いの闘気が高まる。
ウィンクは未だかつて無い強敵に胸を踊らせ、シャイニーはいつも通り全力で相手を叩きのめそうと力を込める。
「始めっ!!」
こうして、蒼き姉妹の戦いが始まった。