167・トラック野郎、モンスターの争いに巻き込まれる
*****《コウタ視点・99階層》*****
翌朝······というか数時間後? 目が覚めたので下の階層へ行く事にした。ドラゴンタイタンは死にかけてるし、こいつが死ねば下の階に行ける。というか行くしかない。
ボスモンスターを倒した階層は、時間経過で消滅してしまうそうだ。次にダンジョンを訪れたパーティーのために変化するのだが、どうもダンジョンの習性らしい。
『ダンジョンとは生物だ。自らの体内でモンスターを生み、財宝を作り、訪れた人間や生物を養分とする······魔族も研究を進めているらしいが、詳しい事はまだわからん』
「へぇ······」
そう言うと、しろ丸は鎌鼬でドラゴンタイタンの首を切断した。おいおい、マジで容赦ないな。
最下層の扉が開かれ、ついに俺達は災害級と対峙する!!·········って、どう考えてもこれって勇者の仕事だよな。なんで付き添いなのに勇者パーティーより早く最下層に到着してるんだろ。
『さて、久しぶりにいい運動が出来そうだ。あの姿は燃費こそいいが、力は殆ど使えんからな。たまにはこうして全力を出さないと鈍ってしまう』
実に頼りになるフカフカだ。
よし、俺は部屋の隅で彫像になろう。気配を消してひたすら隠れよう。
災害級を倒しても、しろ丸がやった事にすればいい。太陽達ならしろ丸をどうこうしないと思うし、この際ちゃんと説明しよう。
階段を下り、最下層へ到着した。
「おぉ······すごいな」
まるで神殿のような豪勢な作りだ。高さも広さも半端ない、それに床はタイルみたいにツルツルだし、壁には壁画みたいなのが描かれてる。
『·······ご主人、いるぞ』
「う、やっぱりか」
意味はないと思うが、念の為カービン銃を装備する。
しろ丸の傍から離れずゆっくり奥へ進むと、いた。
『よぉ来ましたな、勇者さん·········あれ?』
そこに居たのは、真っ黒なフクロウだった。
英単語のティーを模した止まり木に、しろ丸と同じくらい大きいまん丸なモリフクロウが止まっていた。こんな言い方はアレだが、かなり可愛い。
黒いモリフクロウは首を傾げている。
『あ、アンタら誰や? おっかしいな、勇者パーティーが来るはずなんやが······そ、それにそこのオオカミはん、まさかパイラオフさんの眷属やないか?』
『ほう、我を知ってるか······面白い、相手に取って不足はない』
しろ丸は魔力を混ぜたエメラルドグリーンの暴風を纏わせると、牙を剥き出しにして威嚇する。
『ちょちょちょ⁉ 待ちーや、ワイは戦う気なんてあらへん!! 勇者パーティーにお願いがあって呼んだんや!!』
「は? お願い?」
『そ、そうや、それにワイは戦う力なんて持ってへん、やってもマズい鶏肉にしかならへんよ!!』
なんだコイツ、翼をバタバタさせながら怯えてる。
『た、頼んます、もうあんたらでもええ、ワイの話を聞いて下さい!!』
「えー······」
なんだろうこの展開、完全に予想外だ。
*****《勇者タイヨウ視点・86階層》*****
ダンジョンもいよいよ終盤、モンスターも強敵だし迷宮も複雑になってきた。だが、オレ達勇者パーティーの前には何の障害にもならんぜ。
「くんくん······こっち」
コハクさんの野生の勘は神がかってる。迷宮なんて何のその、最短ルートで出口まで導いてくれるし、邪魔な危険種・超危険種モンスターはオレ等で蹴散らす。
最下層で災害級との戦いがあるから力は温存しておく。鎧身やアクセルトリガーは使わない。コハクさんみたいに調整した武具を試してみたい気持ちはあるが、我慢しよう。
「ここのボスモンスターは誰がやる?」
「じゃあオレ」
階層にいるボスモンスターは、交代で倒していた。
オレと月詠とコハクさんがメインで、集団や雑魚が多い時は煌星とクリスも混ぜる。それ以外は各自温存のため、一人でボスモンスターと戦っていた。
おっさんはまだ見つからない、痕跡すらない。
生きているとなれば、これより下の階層か、もしかしたら出口か、または20階層より上か。
とにかく、オレ達に出来る事は急ぐ事だけだ。
*****《コウタ視点・100階層》*****
俺としろ丸は、巨体フクロウの話を聞く事にした。
しろ丸は警戒心マックス、犬歯を剥き出しにしながら唸ってるし、そんなしろ丸を見てフクロウはビビってる。
『グルルルル······』
『ちょ、兄さん兄さん、頼むからこの御方を鎮めて下さいや、これじゃ怖くて話なんて出来ませんわ』
「いや、そんな事を言われても······」
『ふん、貴様を信用しろと? 巫山戯るなよ』
『ひぃぃっ⁉』
でも、流石に可哀想な気がして来た。
しろ丸も居るし、害は無さそうだし、大丈夫だろ。
「しろ丸、少し話を聞いてやろう。だから落ち着けって」
『ぬ······わかった、ご主人がそう言うなら』
『ほっ、た、助かった』
おお、フクロウが胸をなでおろす瞬間を初めて見た。
改めて見ると、この黒いモリフクロウはまん丸としてる。デブってると言っても過言じゃない。でもなんか可愛らしい。
『改めまして、ワイは『夜翔カイム』と申します。朱雀王アルマーチェ様の眷属で、魔界最高の情報屋でもありますねん』
「はぁ、そりゃどうもご丁寧に」
『前置きはいい、サッサと要件を言え······食い殺すぞ』
『ひぃぃっ⁉』
いやだから、イチイチ脅すなよしろ丸。
というか情報屋ねぇ、このデブフクロウが?
デブフクロウことカイムは、おずおずボソボソいう。
『そ、その······ワイ、ワイは、辞めたいねん』
「は?」
『ワイ、アルマーチェ様の眷属、辞めたいねん!!』
俺としろ丸は顔を合わせた。
カイムはバッサバッサと羽ばたきながら言う。
『ワイは元々、夜の空を翔ける情報屋やったんや······でもある日、アルマーチェ様に捕らえられて、半ば無理矢理眷属にされてしもうた。辞めたいけど怖あて辞められんし、逆らったらフレーズヴェルグの姐さんに殺されてまう······せやから従い続けてご機嫌取っとったんやけど、もう限界なんや!!』
カイムはポロポロと泣き出した。
なんか可哀想な気がして来た。
『ワイの仕事は情報収集。集めた情報をフレーズヴェルグの姐さんに渡して、空から人間の国を襲う計画を立ててたんや。でも······ワイはそんなことしとうない、人間世界の情報や文化に興味あるし、この世界のメシは美味いし······もうイヤなんや』
『メシ······』
何か感じたのか、しろ丸がピクリと反応した。
『だからワイは計画を立てた。勇者パーティーをこのダンジョンに誘い出し、ワイを殺して貰う。ここで死ねば死体は吸収されるから確認は出来んはずやしな。そこで情報を集めてこの出来立てホヤホヤダンジョンを利用したんや』
「死ぬって、どういう?」
『勇者パーティーと交渉するつもりや。天魔王様の情報と引き換えに、ワイを殺したと報告して貰う。んでワイは自由を手に入れるって寸法や。まぁ監視は付くやろうけど、アルマーチェ様よかマシやろ、それにワイはこんな事も出来るしな』
すると、カイムの身体が縮んでいく。
まるでしろ丸のように、ビッグサイズから手のひらサイズのちびデブフクロウに変化した。そして俺の目の前でホバリングする。
『どうや、ワイの奥義、大したモンやろ? これはアルマーチェ様もフレーズヴェルグの姐さんも知らん。このサイズならバレる心配もあれへんしな』
「お、おお······」
『·········』
俺はチラリとしろ丸を見たが、しろ丸はそっと目を逸らす。
しろ丸と違い、カイムはちゃんと喋れるみたいだ。
カイムは俺が差し出した手のひらの上に停まる。
『ワイの話はこれで終わりや。頼む、信じて下さい······どうか勇者パーティーが来るまで、ワイを殺さんで下さい』
俺は無意識にカイムを指でウリウリ撫でる。
うん、コイツは悪いヤツじゃない。しろ丸と同じだ。
「しろ丸、いいな」
『······ああ』
しろ丸はそっぽ向いていたが小さく頷く。何やら思う事でもあったのだろうか。
「わかった、お前を信用するよ。勇者パーティーは知り合いだし、俺からも頼んでみるよ」
『ほ、ホンマでっか!? おぉ、おおきに、おおきに!!』
やれやれ、とりあえず一安心かな。
するとカイムは俺の手から浮き上がると、パタパタと部屋の隅へ移動する。そして足で何かを掴み戻ってきた。
『礼と言ってはアレやけど、この部屋にあったお宝あげるわ。ようわからんが部屋の宝箱に入っとったんや』
「······なんだコレ? んん、拳銃か?」
ボロボロの拳銃みたいだった。
リボルバータイプの拳銃だろうか、錆びてボロボロだし亀裂も多いが、特徴からして間違いない。だけど砲身がやけに長くてデカイな。
「何か彫られてる·········ええと、『冥闇銃ダスク・ウィンチェスター』って······おいコレ、勇者の武具じゃねーか!?」
辛うじて読めたが、名前からして間違いない。
たぶん、コハクの武具と同じく古いタイプの武具だ。なんでこんなダンジョンに。
だが、驚いたのも束の間。
『ッ!! 伏せろご主人ッ!!』
暴風が巻き起こり、紫電が炸裂した。
「うぉぉぉぁぁぁっ!?」
『どっひゃぁぁぁっ!?』
俺より情けない声を出しながらカイムは飛ばされ、俺も吹っ飛んだ。
カイムを片手で掴み、爆発の正体を知ろうと前を向いた。
「な、なんだあれ?」
『あ、あ·········』
手の中のカイムは怯えてる。
目の前、正確には空中にそれはいた。
虹のようなキラキラした七色の翼、まるで空飛ぶ孔雀のような美しい鳥が飛んでいる。
『貴方の考えなどお見通しよカイム······ふふ、残念だったわね?』
『ふ、ふ、フレーズヴェルグの、姐さん······』
『アルマーチェ様は貴方を処分していいと仰られたわ。ふふふ、貴方みたいな醜い鳥が眷属なんて、前から気に食わなかったのよ』
現れたのは、もう一体の眷属であるフレーズヴェルグ。
バチバチと紫電がフレーズヴェルグを包むと、エメラルドグリーンの暴風が舞う。
『鳥風情が······ふん、少しは楽しませてくれるのか?』
『あら? 可愛らしいワンちゃんねぇ、ふふふ、じゃれ付きたいのかしら?』
『いや何、腹も空いてきたし、焼き鳥でも食いたいと思ってたところだ。ちょうどいい』
『ふぅん······そうね、カイムの前に貴方から消しちゃおうかしら』
落雷と暴風が炸裂する。
狼と孔雀の、災害級同士の戦いが始まろうとしていた。
「お、おい、ここは安全なのか?」
『とと、とりあえず、あっちの祭壇に避難しましょ!!』
こっちの災害級は役に立たねぇ·······。