164・トラック野郎、恐怖で身体が竦む
*****《コウタ視点・95階層》*****
どうすりゃいい?
このまま藪の中で太陽達が来るのを待つか? いや、さっきのトカゲがまた来たらと考えるとここは危険だ。それに、ヤバいモンスターがトカゲだけとは限らない。もっとヤバいヤツもいるかも知れない。
ここがどこかわからない以上、先に進むべきなのかも。
上へ向かえない以上、下に向かうしかないのか。
「く、くそ······」
ヤバい、足が震えてる。
身体がこの藪から動く事を拒否してるような、怖くて仕方ない。ちくしょー、なんでこんな目に。
すると抱き締めていたしろ丸が、俺の頰をペロペロ舐めた。
『なぅぅ、なぅぅ』
「······はは、慰めてくれるのか?」
『なうなう』
俺はしろ丸を抱き締め、決意する。
こんなところで死んでたまるか。可愛いしろ丸だっているし、俺がしっかりしないといけない。
「しろ丸、下を目指そう。もしかしたらここより安全な場所があるかも、見つけたらそこで太陽達を待とう」
『うなーお』
藪から少し顔を出し、周囲を確認する。
よし、モンスターはいない。今なら行ける。
「しろ丸、下の道まで行けるか?」
『なうっ』
自信たっぷりに鳴き、しろ丸はチョコチョコ歩き出した。
*****《勇者タイヨウ視点・33階層》*****
暴走するコハクさんを追って、33階層までやって来た。
モンスターも確実に強くなってるが、オレ達の······というかコハクさんの敵じゃない。この数時間、ずっと鎧身形態のまま敵を薙ぎ倒し、オレ達はその後を追ってるだけだ。
ここまでは迷宮タイプばかりで、コハクさんの野生の勘でほぼ一直線にゴールまで進んでる。曲がり道や分岐道がかなりあるんだが、コハクさんの進む道を辿ると自然と階層のゴールに出る。マジですげーなあの人、オレ達の仲間に勧誘したいくらいだぜ。
でも、ついにコハクさんの足が止まった。
「·········」
『ククク······』
この階層のボスだ。
見た目はゴブリンだが装備が違う。立派な騎士鎧に剣を装備し、感じるオーラは強者のそれだ。たぶん超危険種くらいの力を持ってるだろう。
「こ、このモンスターは『ゴブリン・ザ・ナイト』よ!! 数あるゴブリンの種族でも最強に近いゴブリン、通称『ゴブリン十二神将』の一体よ!!」
なーんじゃそりゃ。
月詠の解説はありがたいが、説明臭が凄すぎる。
でも、確かに強い。ここまでモンスターを蹴散らしていたコハクさんが立ち止まるくらいだからな。
すると、驚いた事にゴブリンが喋りだした。
『我ガ名ハゴブリン・ザ・ナイト。ゴブリン種最強ノ剣士デア』
「えい」
『クブォォッ⁉』
剣を掲げてポーズを決めたゴブリンに、コハクさんの遠慮ない一撃がヒット。もんどり打って倒れた。
『キ、貴サ·····グオオォッ⁉』
「お喋りしてるヒマない。死ね」
倒れたゴブリンに容赦ない踏み潰し攻撃を仕掛けるコハクさん。確かに喋ってるヒマないけど、ここまで容赦ないのは引く。
コハクさんの下段突きがゴブリンの顔面を捉えた······と思ったら、ゴブリンの野郎は剣でガードした。
『クッ、舐メルナッ!!』
「おっと」
倒れた態勢のまま剣を振り、当たっても鎧に傷一つ付かないだろうがコハクさんは回避した。
ゴブリンは態勢を立て直し、コハクさんに向けて剣を構える。
『イイ気ニナルナ······ココカラハ』
「ちょうどいい、試す」
『ナニ?』
少し落ち着いたのか、コハクさんの動きが変わった。
両手を前に突出すと、篭手の腹部分がガパッと開き、鎖が飛び出した。なんだありゃ⁉
「『縛龍鎖』」
『グォォォォォーーーーッ!?』
鎖はゴブリンに絡みつき、コハクさんは腕力に任せて振り回す。
結界の壁にゴブリンを叩き付けまくる。そして鎖から開放されたゴブリンは壁に激突しゴロゴロ転がった。
だが、コハクさんの攻撃は終わってない。
右篭手の掌をパーにして開くと、ガシャンと丸い穴が開く。それはまるで銃口のように見えた。
「『虎哮咆』」
『グァ······ナ、マ、マテ』
「やだ」
全く遠慮ない魔力の砲撃が放たれた。
砲弾というか衝撃波だ。広範囲の衝撃がゴブリンを再び壁に吹き飛ばす。
「とどめ。これ、グラムガイン最強の技」
そう言うと、コハクさんの鎧がガチャガチャと変形し、生身のコハクさんが現れる。
鎧は巨大な拳に変形し、コハクさんの右手の動きに合わせて指を動かしてる。
「じゃあね」
『··········』
あ、ゴブリンのヤツ諦めたみたいだ。
最後は騎士らしく散るのか。なんか憐れだな。
「『覇王龍虎拳』」
コハクさんが拳を振りかぶって放つと、グラムガインの拳が強烈な魔力を帯びながら砲弾のように発射された。
ゴブリンは一瞬でミンチになり、あり得ない事に物理法則を無視した結界に激突、破壊した。
「う、うそ、あたし達の攻撃でも破壊出来ないはずなのに」
「す、すごいですわね」
月詠と煌星は驚き、クリスは口をあんぐり開けて言葉が出ないようだった。
コハクさんは落ち着いた表情でトコトコオレ達の元へ来ると、ペコリと頭を下げる。
「先走ってごめんなさい」
「え、あ、ああ。その、大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと疲れた」
よく見ると、コハクさんは汗を掻いてるし肩で息をしてる。
ずっと鎧身形態だったし無理もない。おっさんを救いたいがために無茶してたんだ。
「ところで、さっきの······」
「武器? 調整したら使えるようになった。まだまだヒミツ武器はあるよ」
ヒミツ武器って、マジかよ。月詠との対戦では見た事のない武器がまだ隠してあるのか。
「ごめんなさい、ちょっとだけ休む。この先のモンスター、任せていい?」
「あ、ああ。おっさんの捜索も任せて、オレ達の後ろをゆっくり来てくれ」
「うん、ありがとう」
うーん、やっぱこの人可愛いな。
おっさんの事が大好きみたいだけど、愛してるって感じではない気がする。もしかしてオレにもチャンスあり?
「さ、行くわよ」
「お、おお」
何故か月詠に睨まれました。
とにかく、おっさんを捜索しつつ先に進もう。最下層で待ってる災害級といい、面倒な事になっちまったぜ。
新作始めました。
クラス召喚に巻き込まれた教師、外れスキル「修理」で機械少女を修理する
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