161・シスター・オブ・ブルーハーツ③/親愛双剣ナルキッス&セイレーン
書籍第一巻発売中!
ウィンクは、ニナから教えてもらった『ゴンズ武具店』にやって来た。
外観は古めかしいが、どこにでもありそうな普通の武器屋だ。
少しばかり建物を眺めていると、中から数人の若い男女が出て来た。全員ウィンクと同い年くらいだろう、新品の鎧と剣を装備した少年が、意気揚々と叫ぶ。
「よっしゃ、さっそく狩りに行こーぜ!!」
「バカ、私達みたいな初級冒険者は、先輩冒険者と一緒じゃないと危ないわ。まずは薬草採取から」
「そうだな。武器を買って浮かれるのは三流の証だぞ」
「そーそー、地道に、じみ〜ちに行こっ」
「うぐ、わ、わかったよ」
どうやら冒険者なりたての少年少女のようだ。新品の鎧を着た剣士二人に、杖とローブを来た少女二人。微笑ましい光景にウィンクは微笑む。
「冒険者、か······」
ウィンクは、物心ついた頃から騎士団の訓練だった。
男女の区別もなく訓練に明け暮れ、同年代の少年達と寝食を共にし、汗を流した。
ウィンクが十二歳になり、身体つきが女らしくなり始め、胸も膨らみ始めた頃、同年代の騎士訓練生はウィンクを女として見るようになり、息苦しかったのを覚えている。
「騎士団で強さを手に入れたのは間違いない。だが、そこで得られない強さもあった······」
それがウィンクの求めるモノであり、姉のシャイニーブルーが持っているモノだとウィンクは思う。
「とにかく、話を聞いてみるか」
ウィンクは、ゴンズ武具店のドアを開けた。
「いらっしゃい。おや、初めて······いや、ご要件は?」
武器屋の店主の瞳は、ウィンクの目的を見透かすような光を放っていた。一瞬でウィンクが客でないと見抜き、その目的を問いただす。
「はじめまして。私はウィンクブルーと申します」
「礼儀正しいお嬢ちゃんだ。それに、その髪と瞳······シャイニーブルーの知り合い、いや、血縁者か」
「······は、はい」
またもや見抜かれた。
ウィンクは、驚きつつも警戒する。
「ほれほれ、こっちに座らんか。茶ぐらい出すぞ」
「······失礼します」
手招きされ、ウィンクはゴンズの近くにある椅子に座る。
すると、ゴンズがウィンクをジロジロ見ていた。
「······何か?」
「なーるほど、姉妹じゃのう······」
その視線は、あまり膨らんでいない乳房に向けられていた。
ウィンクの視線は鋭くなり、腰に下げてる槍に手を添える。
「冗談じゃよ、じょーだん、やれやれ、短気なところはそっくりじゃの」
「·········」
「わ、悪かった悪かった。ほれ、お茶でも飲まんか」
熱いお茶を出され、ウィンクは表情を変えずに飲む。
身体的な事に不満はなかったが、太陽と出会い絆を育む事で、女性としての自分に魅力があるのか気になり始めた。
やはり、男性は大きな胸が好みなのかと気になり、クリスに質問をしたところ、何故か機嫌を損ねてしまった事は記憶に新しい。
「それで、わしに何か用事かの?」
ゴンズは、パイプをプカプカ吹かしながら言う。煙がウィンクに向かないように気を遣ってるようだ。
「貴方は、姉のシャイニーブルーが冒険者になってからの事をよく知ってるとギルド長から聞きました。どうか教えて戴けませんか」
「ふむ······何故じゃ?」
「それが、私の望む強さに繋がるかも知れないからです」
ウィンクは、これまでの事情を説明した。
アインディーネ、そしてオセロトルの事も、何もかも。
「姉は、私にはない強さを持っている。私は勇者パーティーとして、誰よりも強くならなくてはならない」
「······なーるほどのぅ」
ウィンクは、荷物の中から一本の剣を取り出す。
ボロボロで今にも砕け散りそうな、シャイニーのシュテルンを。
「これは姉の剣です。災害級との戦いでここまでボロボロに」
「·········そうかそうか、よくやったのぅ」
「·········え?」
ゴンズはシュテルンに手を添える。
「こいつはわしが作った剣じゃ。シャイニーブルーのために作った、あいつ専用の剣······くくく、剣は感謝しとる。『壊れるまで使ってくれて、ありがとう』とな」
ゴンズがシュテルンを撫でると、まるでこの瞬間のために生きていたかのように砕け散った。
「シャイニーブルーは慈悲深い少女じゃ。誰にでも優しい、だが許せぬ者には厳しい······まぁ、簡単に言えばバカじゃの」
「ば、バカ?」
「ああ。だが、誰からも愛される。人も、武器も、シャイニーブルーを愛している」
するとゴンズは、ウィンクに向かって手を伸ばす。
「お嬢ちゃん、面白い物を持ってるのぅ······出してくれんか?」
「あ·········はい」
何故か、逆らえなかった。
ウィンクは、父から託された『海蛇サーペンソティア』の龍核と、何かに使えると思い貰った『豹帝オセロトル』の牙を出す。
「なるほど、こいつは······」
「父から託された物と、私が受け取った物です。これで双剣を修理しようと思って」
「·········ふむ、その役目、わしに任せてくれんかのぅ?」
ゴンズはパイプの灰を落とし、ニヤリと笑う。
その笑みを見てウィンクは確信した。この人なら任せられる、と。
「シュテルンとエトワールは役目を果たし眠りに付いた。なら、新しい相棒が必要じゃの。それに······あの龍虎のお嬢ちゃんだけ強くなるのは、面白くないはずじゃ」
「え?」
「むふふ、まぁわしに任せておけ」
ゴンズの笑みは、イタズラ好きの子供のように見えた。
数日後、ウィンクは再びゴンズ武具店にやって来た。
「来たか、完成しとるぞ」
「え·········」
カウンターには、美しい蒼天色の双剣があった。
刀身は透き通るような蒼天色、以前の双剣より洗練されたデザイン、鍔部分に青い宝石が埋め込まれ、柄には人差し指を入れる工夫が施され、ナックルガードも付いていた。
あまりの美しさに、ウィンクは声を忘れた。
「シャイニーブルーのクセや持ち方を考慮し、再設計した双剣じゃ。以前よりも抜群に使いやすくなってるはずじゃぞ」
「く、クセ? 持ち方?」
「ふん、普段のアイツを見てればわかる。それに、昔と比べて身長や体重も変わったからな。これなら満足するはずじゃ」
ゴンズはニヤリと笑い、双剣をケースに仕舞う。
「名付けて、父と妹の贈り物。『親愛双剣ナルキッス&セイレーン』じゃ。うーむ、さすがわし、ナイスセンスじゃの」
ケースを受け取り、ウィンクはコクコク頷く。
するとゴンズは、にっこり笑い言う。
「お嬢ちゃん、シャイニーブルーの事が知りたいなら、簡単な方法があるじゃろう?」
「え······?」
「かっかっか、簡単じゃ、思い切りぶつかればいい。わしの双剣とお嬢ちゃんの槍、きっとええ勝負になると思うぞい?」
「あ······まさか貴方、最初から」
「ふふ、シャイニーブルーのバカさは言葉じゃ伝わらん。思い切りぶつかって来い」
そう、答えは簡単な事だった。
相手の強さを知りたいなら、思い切りぶつかればいい。
それが災害級を、アインディーネを降した姉なら尚更、相手にとって不足はない。
ウィンクは、真面目ゆえ自分が遠回りしている事に、ようやく気が付いた。
「ありがとうございました!!」
一礼し、ゴンズ武具店を飛び出した。
ケースは重い。だが、ウィンクの足取りはとても軽い。
「アガツマ運送会社······」
姉妹は、間もなく再会する。