16・トラック野郎、話を聞きつつ王国へ帰る
「へぇ〜、ヘンな椅子ね。だけどフカフカだわ」
「おい、シートベルトしろ。この紐をこうして······こうだ」
「ふ〜ん、身体を固定するのね」
今更だが、シートベルトを着用しないとエンジンが掛からないし警告が入る。飲酒運転といい厳しいとこは厳しい。クレーンの玉掛けには何も言わなかったのに。
シャイニーブルーは自前の服に着替えた。乾燥も終わり、自慢の青パンツもちゃんと履いてる。装備もキッチリ付けてるし、少しだけ椅子に座りにくそうだった。
「あ、そうだ。俺はコウタだ、よろしくな」
「アタシは『七色の冒険者』の1人、『蒼き双月シャイニーブルー』よ。よろしくね」
「あ、ああ······」
細かいツッコミは止めよう。なんかドヤ顔だしな。
きっとその称号に誇りを持ってるんだろうし、俺がツッコミを入れる場面じゃない。ただ、俺だったら恥ずかしくて名乗れない。例えば俺が日本の高校生だとしたらこんな感じになる。
『俺は《学園四天王》の1人、『闇の狩人吾妻幸太』だ。よろしくな‼』
ヤバい、恥ずかしくて鳥肌立つ。
殆ど初対面の相手に堂々たる姿で称号を名乗るなんて、俺には出来ない。恥ずかしくて死ぬ。ダメだ話題を変えよう。
「あ、あのさ、シャイニーブルーって本名なのか?」
「そうよ?」
あっさり返された。何だこれ、俺の感性がおかしいのかな?
でもミレイナはミレイナだし。話題を変えたのに地雷だった。もういいや、とにかく出発しよう。
『初めましてシャイニーブルー様。私は《デコトラ》に付随する神工知能『タマ』と申します』
「うぴゃあっ⁉ ビクッた〜〜っ‼ なになに、何の声⁉」
「このトラックの声だよ、まぁ仲良くな······ぶふっ」
「うぴゃあっ⁉」って何だよ······こいつ、面白いな。
********************
「へぇ〜、馬車なんかより全然速いわ〜っ」
「おい、あんまり窓から乗り出すなよ。落ちるぞ」
「だってキモチいいんだも〜ん」
なんかコイツ、急に子供っぽくなったな。
シートベルトを限界まで引っ張り、窓を全開にして身を乗り出してる。そんな格好だとパンツが·········パンツが·······っとぉっ⁉
「うぴゃぁぁぁっ⁉ あ、あっぶないわねっ‼」
「す、すまん」
シャイニーブルーのお尻を凝視してたせいか、街道の段差に乗り上げながら走行してしまった。バレることはなかったが、気をつけよう。
「そうだ、ジュースでも飲むか? 昼メシの前だからお菓子はダメだけど、お詫びにな」
「ジュース? いいわね、ちょうだい」
「ちょっと待ってろ、頼むぞタマ」
『畏まりました』
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
【ドライブイン】~いらっしゃいませ~
○経験値ポイント・[27190]
【お酒】
ワンカップ・300ポイント
缶ビール・300ポイント
焼酎・500ポイント
ハイボール・450ポイント
缶チューハイ各種・300ポイント
【おつまみ】
せんべい・200ポイント
酢昆布・150ポイント
さきいか・150ポイント
ポテチ・140ポイント
生ハム・300ポイント
チーズ・250ポイント
サラミ・120ポイント
【その他】
缶コーヒー各種・120ポイント
ジュース各種・120ポイント
お茶各種・120ポイント
栄養ドリンク各種・120ポイント
ガム各種・120ポイント
漫画雑誌各種・240ポイント
新聞各種・200ポイント
パン各種・100ポイント
【お土産】
お饅頭・800ポイント
カステラ・900ポイント
ドーナツ・850ポイント
ギフト煎餅・1200ポイント
各種詰め合わせ・2000ポイント
以下項目未開放
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「お土産·········まぁドライブインだしな」
「なにこれ? ジュースじゃないの?」
「まぁ待て。果物は何が好きだ?」
「全部よ」
「迷いナシかよ。じゃあミックスジュースでいいか。じゃあこれで」
「うぴゃあっ⁉」
俺もコーヒーを選ぶ。するとダッシュボードから袋が飛び出してきた。シャイニーブルーの胸元に飛び込んだ袋は見事にキャッチ。
「その紙パックがお前のな。俺のコーヒーくれ」
「う、うん。ええと······はい」
「さんきゅ。飲み方はわかるか? そのストローを挿して飲むんだ」
「この棒ね······んん? なんか甘いニオイ······い、いただきます」
シャイニーブルーはチューチューとストローを吸う。するとミレイナと同じ反応をして俺にガバッと向き直った。
「なにこれ美味しいっ‼」
「そうだろ? ミレイナも病みつきの味だ」
「うぅ〜ん······クセになりそぉ〜······」
なんかトリップしてる。静かだし放っておこう。
すると後部扉が開き、ミレイナが出て来た。
「コウタさーん、シャイニーブルーさま〜、ご飯ですよ〜」
「ほーい」
「わかった、今行くぜ〜」
少し広い路肩にトラックを止め、ミレイナの待つ居住ルームへ。
********************
「おぉっ‼」
「わぁっ‼」
「お、お口に合えばいいのですが······」
ダイニングテーブルの上には、色とりどり鮮やかな料理が並ぶ。よく焼かれた肉、いい香りが際立つ炒め物、焼きたてのパンに美味しそうなスープ。どれも一流の料理店で並ぶような見た目だ。まぁミレイナのは味も素晴らしい。
「ありがとなミレイナ、美味そうだ」
「い、いえ······えへへ」
可愛い。何だよこのミレイナは、可愛すぎだろ。
さっそく席に座り、食材とミレイナに感謝して食べる。
肉は柔らかくフワフワ。酒にでも漬け込んだのかただ焼いて食べるのと全然違う。スープも美味しい。魚介類が豊富で栄養たっぷりだ。
「美味いっ‼」
「おいしい〜っ‼」
これを不味いと言ったやつは機銃で蜂の巣にしてやる。それくらいのレベルで美味かった。我ながら最高の人材をスカウトしたもんだ。
すっかり平らげ、ミレイナの淹れたお茶で一息つく。するとミレイナがおずおずとシャイニーブルーに切り出した。
「あ、あの、シャイニーブルー様······」
「何? それと言いにくいでしょ? 好きに呼んでいいわよ」
「で、ですが」
「いいの。アタシもミレイナって呼ぶから、好きに呼んで」
「え、ええと······わかりました」
確かに、シャイニーブルーって呼びにくいよな。長いし。
無難なところで『シャイニー』か『ブルー』ってとこか。それか意表を付いて『シャル』とか?
「じゃあ、『シャブちゃん』って呼びますね」
俺の腹筋が破壊された。
********************
「アタシのことはシャイニーでいいわ。それで、何か用?」
「は、はい。その、すみませんでした」
「いいって、それで?」
「ええと······」
ミレイナの視線は俺に向く。俺はミレイナの不意打ちで笑いが止まらず、シャイニーのボディブローを喰らい、なんとか収まった。リバース寸前だったが、ミレイナの料理は絶対に吐き出さん‼
「シャイニーはどうして1人で超危険種を? 確か危険種以上のモンスターは、集団での討伐が義務だったような······」
「あぁそれね。実はギルド長とケンカしちゃったのよ、アタシ1人で行くって言っても聞かないしね、だから最初は集団で依頼を受けるフリして、1人で飛び出してきたのよ」
「え······で、でも、そんなことしたら、ギルドの規約違反で、いくら『七色の冒険者』でも処罰されるんじゃ······」
「あー······まぁ平気よ。それにみんなアタシの強さを知ってるからね、今頃呑気に酒でも飲んでるんじゃない?」
「······う〜ん」
俺は腑に落ちなかった。
コイツのしたことは、はっきり言って裏切りだ。
ルールを破り、ギルド長とやらの信頼を裏切り、あまつさえ死にかけた。こんな飄々としてるけど、これが本心なのだろうか。
「『ヴェノムドラゴン』の吐く毒は、風にのって森や近くの集落に降り注ぐ。もたもたしてたら被害は甚大になる一方よ。それなのに集団戦なんて集めるのや準備に時間が掛かることしてたら、被害はどんどん広がる······だから1人で飛び出したのよ。アタシの処罰と人々や森の生き物たちの命······比べるまでもないでしょ?」
それが本心か。何こいつかっけぇ。
でも、1人じゃ相手に出来ないモンスターに立ち向かうのは無謀過ぎだろ。俺たちが来なかったら死んでたぞ。
「でもまぁ、こうして倒したしな。歓迎してくれるんじゃね?」
「どうかしらね······でも、こんなの乗せて帰ったら、ゼニモウケはきっと大騒ぎよ」
「だよな······」
俺は平穏に運送屋を始めたいだけなんだ。面倒はゴメンだぜ。
とにかく、資金の目処はついたしな。換金したら商人ギルドで腕利きの建築会社を紹介してもらおう。
「さーて王国へ帰りますかね」
土地もあるし、次は建物の建築だぜ‼