157・トラック野郎、完全武装
異世界の配達屋さんは12/4発売です。よろしくお願いします。
*****《コウタ視点》*****
大事なことは、身を守ること。
ダンジョン内にいるモンスターは一般種ばかりだが、ボスクラスになると危険種や超危険種もまれに出てくる。つまり、いくら太陽達が強くても、俺も身を守る武装が必要だ。
「こんな形で役に立つとは……」
現在俺は【武器庫】で装備を整えていた。
目的地のダンジョンに到着し、勇者パーティーはオレサンジョウ王国の諜報員と外で話をしている。その間に俺はダンジョンに潜るための武装を選んでいた。
ちなみに今の俺はパンイチで、この武器庫には防刃シャツがあるのでそれを着込む。
防刃ズボンを履き、グローブと鉄板入りのジャングルブーツを履く。その上にさらに軍隊用の全身プロテクターを装着し、軽くて丈夫なフルフェイスの軍隊用ヘルメットを被る。これだけ装備しても重さはそれほどでもない。
「次は武器だ」
壁に掛けてある銃器を見て、俺は迷わず一丁の銃を手に取る。
「やっぱこれっしょ。老いたヘビも愛用してたし」
M4カービン銃。
ハイダーはCQC対応だがどうでもいい、というかモンスターと格闘戦を繰り広げる予定はない。
ガンベルトに予備のマガジンを入れ、予備武器としてベレッタを装備。さらにナイフも腰に装備しておく。とりあえず武装はこんなもんか。
防刃リュックには替えのマガジンをしこたま入れ、手榴弾と携帯食料と水も入れておく。考えたくはないが最低限の準備はしないとな、トラックに頼れない状況だし。
リュックを背負い、カービン銃を鏡の前で構える。
「おぉ……いいじゃん」
完全な兵士だ。
フルフェイスの軍隊用ヘルメットのおかげで顔が見えないがこれでいい。肌の露出は抑えておく。
俺は隣の射撃場に向かい、カービン銃の試射をする。
もちろんこんな武器を使った事はないし、各部位の名称も知らない。
「映画とかでは肩で……こんな感じか?」
それっぽく構え、安全装置を外し、レバー(ちゃんとした名前はわからん)を引いて初弾を装填、ゴクリとツバを飲み、射撃場の奥に接地してある人型のパネルに狙いを付ける。
スコープが高性能なおかげかよく見える。よーし、撃つぜ。
「うおっ」
意外と肩にくる。しかも狙いは外れた。
まぁいい、とにかく俺の準備は出来た。
「くくく、やってやるぜ」
当初と違い、俺のテンションは上がっていた。
武装や格好のお陰だろうか、なんか強くなった気がする。
完全装備の俺は、ゆっくりとトラックから降りる。すると諜報員と喋っていた太陽達が、同時に振り向いた。
「おう、おっさ……」
「えぇ……」
「まぁ……」
「うわぁ……」
「ご主人様?」
全員驚いてるな。ふふふ、ここであの名台詞を。
「待たせたな」
決まった、こりゃカッコいいだろ。
カービン銃を肩で担ぎ、ヘルメットのバイザーを上げる。
「俺の準備は出来てるぜ、行くなら行こう」
「お、おう……つーか、なんだよその格好」
「完全装備だよ。ちなみに銃は本物だから」
何故かドン引きしてる。
すると、しろ丸を抱えたコハクが傍に来た。
「ご主人様かっこいい。ご主人様も鎧を装備したの?」
「そうだ。というかプロテクターと軍隊用ヘルメットだけどな」
『なうなーう』
しろ丸もカッコいいと言ってくれてる。実にいいセンスだ。
「え、ええと……い、行きましょうか」
こうして、勇者パーティーと一緒にダンジョン内へ。
今回潜るタイプは『総合型ダンジョン』と呼ばれてる。
外観はロープレにでも出てきそうな煉瓦造りで、地下に迷宮が広がってるパターンみたいだ。ちなみにバベルの塔みたいなタワータイプもあるらしい。
「おっさん、最初の階層は雑魚モンスターしか出てこないから安心しろよ」
「おおお、おう」
「コウタさん、大丈夫ですから……」
みんな励ましてくれるが怖いのは怖い。
太陽を先頭に、さっそくダンジョンの中へ。ちなみにトラックは茂みの中に隠しておいた。
煉瓦造りの入口を通ると、さっそくダンジョンらしい通路に出た。
「へー、まんまゲームみてぇなダンジョンだな」
「ねぇねぇタイヨウ、あの燭台のロウソクって誰が灯したの?」
「さーな、でもそういうのは言わない方がいいぜ」
「ふふふ、クリスちゃん、わたくしも気になってるんですよ」
くそ、俺はビビってんのに気楽なもんだ。
「ご主人様ご主人様、あっちからモンスターの気配がするよ」
『うなーお』
「え、さっそく?」
コハクが通路の角を指さすと、いいタイミングでモンスターが現れた。
緑色の肌に棍棒を持った小鬼……ゴブリンだ。
「ききき、来たぞ太陽!!」
「ん? あ、ホントだ……ってゴブリンじゃん。せっかくだしおっさん、その銃の力を見せてくれよ」
なーにを言ってますかコイツは?
というか勇者パーティーの連中、武器を出すどころか警戒や構えすら見せない。しかもコハクまで、完全に俺がカービン銃をぶっ放すパターンじゃねぇか。
『ギャウギャウッ!!』
『アギャーッ!!』
「ひぃぃぃぃっ!?」
こっちに気が付いたゴブリンは、棍棒を構えてダッシュして来た。
太陽達は完全に「おっさんにお任せ」状態、ちくしょうやるしかない!!
「えーと、安全装置、レバー、照準……」
構えると、一〇メートルほどの距離にゴブリンがいた。
こう見えても修羅場は潜ってる。あんなゴブリン如きハチの巣にしてやる。
「く、喰らえーーーーーーッ!」
ボボボボボッと弾丸が発射され、ゴブリンをハチの巣にする。
けっこう外れたが、なんとか倒すことが出来た。
「よ、よ、余裕だぜ……ははは」
「さっすがおっさん、カッケーぜ!!」
褒めてくれてありがとよ。
すると、ゴブリンの死骸は溶けるように石畳に吸い込まれた。
「な、なんだ?」
「ダンジョンで死んだ生物は、ダンジョンの栄養になるそうです。モンスターはもちろん人間も」
「そ、そうなのか……怖っ」
とにかく、初遭遇のダンジョンモンスターは成り行きで着いてきた俺の手で討伐された。なんかおかしくね?