156・トラック野郎、ダンジョンへ
*****《コウタ視点》*****
俺のダンジョン入りが決まり、すぐに出発する事になった。
ダンジョンの位置はスゲーダロからそこそこ離れた位置にあり、トラックでも丸一日はかかる。
なので、今日は町で必要な物資を補給し、すぐにダンジョンへ向けて出発する。そして安全なところで野営をし、翌日からダンジョンを攻略するという予定になった。
なるべく急ぎでという俺の希望なので、無理なスケジュールで申し訳ない。出来ればさっさと終わらせて帰りたいというのが俺の心情だ。
ちなみに、まだアレクシエルの教授室で話をしてる。
「観光したいところだけどよ、おっさんの都合があるなら仕方ねーな」
「ふん、別に見る場所なんてなーんもないわよ。魔導技術が発達してるだけで、観光スポットなんてないからね」
太陽のボヤキにアレクシエルはつまらなそうに返した。
すると月詠が立ち上がる。
「とにかく、行きましょう。災害級は待ってくれないわ」
「よーし、武具の性能を試してやるぜ」
「その前にダンジョンですね。ふふふ、わたくし、実は楽しみですの」
「あ、私もー。ダンジョンなんて物語の世界でしか知らないし、実際に入るのは初めてなの」
「わたし、いっぱいモンスター倒す」
はぁぁ、あっちは盛り上がってるよ。
俺は憂鬱、だって俺までダンジョンに入る事になっちまったし、嫌な予感しかしない。
「ダンジョンの位置はここから馬車で三日ほどの距離よ。ま、せいぜい気を付けなさい。あたしの武具は完璧だから、もし負けたり怪我したりしたら、あんた達がヘボってことね」
なんだこいつ、勇者にケンカ売ってるのか?
太陽達は苦笑しながら部屋を出ると、何故かアレクシエルも付いてきた。
「あの、アレクシエル博士?」
「べ、別に見送りに出るわけじゃないわ。お菓子を買いに行くだけよ」
月詠はクスリと微笑むと、それ以上は何も言わず校舎を出た。
なんだこいつ、もしかして寂しいのかね。
「おっさん、キモい顔でこっち見ないでよ。憲兵隊に連絡するわよ」
「··········」
やっぱこいつ可愛いくねーや。
正門前に到着すると、アレクシエルが太陽達にいろいろ話をしていた。
「いい、災害級危険種を討伐したらまた来なさい。武具のチェックをしてあげる。それと、災害級モンスターの部位があったら持って来て。新しい武具の素材になるからね」
俺はこのスキに駐馬場へトラックを取りに戻る。
運転席に座りエンジンを掛け、アレクシエルと喋ってる太陽達の元へ。
「おーい、乗れよ」
すると、アレクシエルの表情が変わった。
「な、な、な·········なに、これ」
驚愕するアレクシエル。
そりゃそうか、こんな巨大な乗り物なんて見たことないだろうしな。
「ちょ、おっさん、これ、なによ?」
「トラック」
太陽達が乗り込み、しろ丸を抱えたコハクが助手席へ座る。
驚き、目を見開いてるアレクシエルには悪いが、さっさと行かせてもらいますかね。
「じゃーな、また来るからよ」
「ま、待って!! なにこれ、こんなの見たことない!! こんな精巧な作りの乗り物······しかも、こんな巨大な形、動かすだけでも相当な魔力が必要なはず!! おっさん、あんたも勇者なの⁉」
「ちげーよ。こいつのエネルギー魔力じゃない」
「じゃ、じゃあ何よ⁉ 待って、調べさせ」
「じゃーな」
長くなりそうなので出発した。
サイドミラーで確認すると、アレクシエルが追い掛けて······コケた。リーンベルさんに抱き起こされ、手をブンブン振ってる。
「どうしたの? ご主人様」
「いや、あいつも研究者だし、トラックが珍しいのかもな」
さーて、行きたくないけどダンジョンに向かいますか。
町で買い物を済ませ、ダンジョンへ向かう。
助手席には最初コハクが乗っていたが、眠そうにしていたのでベッドルームへ行かせた。すると入れ替わるように月詠がやって来た。
「隣、失礼しますね」
「ああ、ほれ」
『なうなうー』
「わ、しろ丸」
俺の太ももをクッションにしていたしろ丸を渡すと、月詠はしろ丸をフカフカと触りだした。
「ほかの連中は何してる?」
「ええと、太陽は煌星と一緒にゲームして遊んでいます。煌星、ゲームセンターで遊んだ事が無いみたいで。クリスはクレーンゲームでぬいぐるみを獲ろうと躍起になっていました」
「はは、そうか。月詠はここでいいのか?」
「はい。その、煌星の邪魔したくないし、コウタさんにダンジョンの説明もしなきゃと思ったので」
「ダンジョン······」
そういえば、ダンジョンについて何も知らない。
身の危険もあるし、事前情報は必要だな。
「この世界には、ダンジョンと呼ばれる迷宮が無数に存在します。詳しい事はよくわかっていないみたいですけど、ある日突然現れるそうです」
「なんだそりゃ?」
「一説では生物と言われていますね。ダンジョンは大きく分けて四タイプに分かれ、迷宮型、討伐型、財宝型、総合型とあります」
月詠の説明ではこういうことだ。
迷宮型・その名の通り迷宮で、迷宮の一番奥にレアなお宝があるらしい。迷宮にはトラップやモンスターも多く、数あるダンジョンで一番数が多いそうだ。
討伐型・塔のような形をしたダンジョンで、最低でも五階層程度の高さを持つダンジョンだ。特徴としては各階層にいるボスを倒しながら登っていき、最上階のボスを討伐すると財宝にありつけるらしい。腕自慢にはもってこいのダンジョンだが、数は少ないそうだ。
財宝型・ボーナスステージのようなダンジョンで、モンスターも存在せずお宝だけがあるダンジョンだ。特徴としては、財宝を獲得するとダンジョンそのものが消えてしまうらしい。なので、見つけた人は超ラッキーだ。
総合型・上記の全てを兼ね備えたダンジョンで、最下層にはとんでもないお宝が眠ってるらしい。財宝だの伝説の武器だの言われてるが、この世界に存在する総合型ダンジョンは、未だに踏破された事が無いらしい。
「と、こんな感じです。ちなみに今回は総合型ダンジョンです」
「って、一番危険なダンジョンじゃねーか」
ボスモンスターあり、トラップあり、財宝ありのダンジョン。考えただけでも恐ろしい。
「コウタさんの安全はあたし達が守りますのでご安心下さい。なので、コウタさんはダンジョンを楽しんで下さいね」
「お、おぅぅ……」
月詠も勇者パーティーもコハクも、純粋に俺がダンジョンを楽しめると思ってる。というか月詠、俺はマジでトラックがないと一般人なんだって。
こうして、トラックはダンジョンへ向けて進んでいく。
*****《アレクシエル視点》*****
アレクシエル・ブレン・ルーミナス。
一四歳の天才少女であり、産業都市スゲーダロでも最高の頭脳を持つというのは過言ではない。現に、『アルストロメリア魔導総合研究学園』では最高位の『魔導教授』の称号を得ていた。
彼女の功績は並では無い。スゲーダロを走る『魔導走行輪』はアレクシエルが五歳の時に考案・開発した都市内移動用車で、現在はスゲーダロに無くてはならない住人の足となっている。
それ以外にも、画期的な魔道具や設備を開発し、技術者達を唸らせた。
アレクシエルが天才と言われ、名が広まったのは功績だけではない。彼女の家系は代々『聖剣』の技術を継承し、後世に伝えていく役割を担った名家であったのだ。
真偽は不明だが、『聖剣』の技術はアレクシエルの先祖が産みだした技術と言われ、そのルーツはわかっていない。
『聖剣』の技術は特殊な魔術によって継承され、当代の技術者で最も優秀な者が選ばれる。選ばれた技術者が『聖剣の技術』を継承されると、前任は『聖剣』を生み出す魔術が一切使えない。
技術を継承した者は『ルーミナス』と呼ばれ、技術の研磨に一生を賭ける。
アレクシエルの才能は『聖剣』でも発揮された。
武具に属性を付与させ装備者の力に合わせたり、追加装備を作成し戦力の大幅な向上を可能にした。
誰もがアレクシエルの偉業を称えた。聖剣の技術を大幅に進歩させた偉人として、一四歳ながら教授として教鞭を振るっていた。
そんなアレクシエルが、心底興味を引かれた。
急いで教授室に戻ったアレクシエルは、お茶の支度をしていたリーンベルに告げる。
「リーンベル、リーンベル!!」
「アレクシエル教授、どうかしたのですか?」
「馬車を出して、出かけるわよ」
「はぁ……どちらへ?」
「決まってるわ、ダンジョンよ。勇者パーティーを追うわ」
「えぇ!?」
アレクシエルの興味は、トラックにあった。
見たことの無い材質のボディ、金属ではない黒く柔らかい何かが地面と接地して走行し、一般人程度の魔力しかない人間が、実に滑らかな走行スピードで走り去った。
あんな巨大な金属が走った、しかもコウタは言っていた、燃料は魔力ではないと。
「あり得ない、あり得ないわ……わからない」
「あ、アレクシエル教授?」
「気になる……ふふ、このあたしが理解出来ないですって? ふざけんじゃないわよ」
理解出来ない事を理解する。
その為なら、どんな事でもできる。
「確か、『とらっく』とか言ってたわね……待ってなさい」
アレクシエルの驚きは、この程度では終わらなかった。