153・トラック野郎、魔導少女アレクシエル
異世界の配達屋さん第一巻は、12/4発売です。よろしくお願いします!
太陽達はポカンとしていた。そりゃそうだ、どう見ても博士や教授っていうより生徒の一人にしか見えないからな。
「アレクシエル博士、お茶です」
「ん、ありがと」
眼鏡美女が淹れたお茶に砂糖と蜂蜜をたっぷり入れながら、アレクシエルは言う。
「ところであんたら、《勇者武具》の調子はどう? 作って渡しただけだから、その後のことは知らないのよね。オレサンジョウ王国の技師とやらの調整も気になるし、《聖武具展開補助装置》の不具合も確かめたいし」
太陽達はまだ立ち直っていない。
するとアレクシエルの秘書らしい眼鏡女性が、親切に説明をしてくれた。
「勇者様。アレクシエル教授の容姿に驚いている様ですが、この御方は正真正銘、この学園の最高頭脳であり教授であり、勇者様方の武具を開発した張本人です」
「ちょっとリーンベル、この学園じゃなくてスゲーダロ最高のよ。間違えないでよね」
「そうでしたね。ふふ、申し訳ありません」
眼鏡女性は柔らかく微笑むと、アレクシエルに向けて頭を下げた。するとようやく勇者パーティーが現実を受け入れる。
「お、お前が天才魔導技士のアレクシエル博士? オレらより年下だよな?」
「歳は関係ないわ。だってあたし天才だもん」
「失礼ですが、お幾つでしょう?」
「じゅーよん」
「わたくし達より二歳も若いなんて······」
「ちっこいけどスゴいね〜」
「おい、ちっこいって言うな、お前もちっこいだろーが」
アレクシエルは不機嫌になりクリスを睨む。やっぱこいつ人格に問題ありだ。
激甘ハチミツ紅茶を飲み終えたアレクシエルは立ち上がる。
「じゃ、レガリアを全部出して。グロウソレイユ、レーヴァテイン、ミズハノメ、アウローラ、ネプチューン、あたしの傑作達をね」
太陽達は言われた通り武具を外して机の上に。当然だがウィンクの槍はない、代わりにコハクの武具が出された。
「なにこれ? ネプチューンは?」
月詠は、ウィンクの不在とコハクの武具の説明をする。
すると、帰ってきた言葉は信じられないものだった。
「ふーん、あたしの前の前の前くらいの『ルーミナス』が作った化石ね。大した価値もないし調べる意味はないわ」
武具を摘み、つまらなそうに投げ捨てた。
その行動と吐き捨てるような言葉は、コハクの逆鱗に触れた。
「ご主人様、こいつ殺していい?」
本気だった。
突き刺すような殺気が充満し、飲み干した紅茶のカップに亀裂が入る。太陽達も硬直し、俺は恐怖で喋る事が出来なかった。
「ひっ······な、なに怒ってんのよ」
「これ、ご主人様がくれた武器。侮辱するの許さない」
コハクは立ち上がり、アレクシエルを睨む。
ゴキゴキと骨を鳴らした瞬間だった。
「お待ち下さい」
「······」
コハクの手を、眼鏡秘書が掴んでいた。
眼鏡秘書はニコニコしてるが、鳥肌が立つような何かを纏っていた。
「アレクシエル様に手を出すのは許しません。ここは引いてくれませんか?」
「離せ」
なんだよこれ、なんで応接間がバトル会場みたいな雰囲気になってるんだ?
「おや、痛くないのですか?」
「うん、力が弱いから」
「そうですか······」
眼鏡秘書はギリギリとコハクの腕を握る。しかしコハクは痛がる素振りも見せない、そして。
「あなた、邪魔······」
「アレクシエル様、すぐに終わらせます」
その言葉が引き金となり、戦いが始まろうとした。
そして、俺とアレクシエルは同時に叫ぶ。
「や、やめろ、コハク‼」
「や、やめなさい、リーンベル‼」
お互いの主の言葉を聞き、二人の殺気は霧散した。
勇者パーティーは、本気の殺気に動く事が出来ず、ようやく声を出せた俺も汗びっしょりだった。
「ま、まぁその······昔の技術があるからこそ、今のあたしの武具があるわけで、うん」
「ほ、ほらコハク、しろ丸だぞ?」
『なう?』
言い訳っぽいアレクシエルの言葉としろ丸でなんとかコハクの機嫌を取る。
「さ、さぁ、隣の研究室に移動して、武具の調整をするわ。あと、グラムガインも調整してあげる」
重苦しい空気の中、俺達は隣の部屋に移動した。
研究室とやらは、映画やドラマで出てきそうな作りの広い部屋だ。
ベッドみたいな台がいくつか並び、手書きの羊皮紙や本、よく分からない金属の塊や作りかけの道具が散乱してる。
アレクシエルはベッド脇の台に武具を並べてセットすると、研究室内にある仕切りのある小部屋に入る。
小部屋にはスイッチのような物がある台がいくつも並び、アレクシエルはその内の一つに手をかざすと台が発光し、小部屋から床に埋め込まれた光るラインを伝い、台にセットされた武具が幾何学模様の光に包まれた。
そして、アレクシエルの前で、光る画像が表示される。
こりゃあれだ、映画とかで見る空中投影ディスプレイだ。
小部屋は操作室だ、ここから魔力を送り武具をセットした台を起動させてデータを閲覧してるんだ。小部屋には空中投影ディスプレイがいくつも表示されてる。
「ちょっとおっさん、こっち来て」
どう考えても俺だよな。
コハクの手前、オヤジ呼ばわりはやめたらしい。
眼鏡秘書さんに促され小部屋に向かう。
「ねぇ、グラムガインはあんたが買ったのよね?······どこで手に入れたの?」
「ゼニモウケの武器屋だけど」
「ゼニモウケ······おかしいわ、これ、一度破壊されて修理した後がある。武具の修理方法や制作過程は『ルーミナス』にしか伝えられないはずなのに······それに、得体の知れない魔力痕跡がある。しかも修理後の形状がおかしい、まるでこの得体の知れない魔力に呼応して初めて形状を変えるように作り変えられたような······」
なんかブツブツ言ってる。
こうして見るとホントに研究者なんだな。甘い物欲しさに騒いでたガキとは思えんよ。
「ま、いいわ。それよりも、レーヴァテインとグラムガインにガタが来てるわね」
「ああ、あいつら本気で模擬戦やったからな」
「やっぱね······修理もしなきゃ」
アレクシエルは台に魔力を流すと、武具が設置してある台に透明なケースが被せられ、そこにドロドロした液体が注入され始めた。
「詳しく言えないけど、武具の元となった材質よ。あれに浸して魔術信号を送れば武具は完治する」
「へぇ······」
「本来、施術は見せないけど、勇者は特別。どうせ何やってるかなんてわかんないだろーしね」
「ま、確かにな」
太陽達は、壁際に並んで武具の様子をジッと見てる。
コハクもしろ丸を抱き、眼鏡秘書も同じように並んでいた。するとアレクシエルは拡声器を使い太陽達に言う。
「武具のチェックが終わったら、あんたたちの肉体情報をスキャンしてデータを武具に反映させるわ。そうすれば武具のスペックとあんたらの魔力を効率よく安定した出力で出せるようになり、『鎧身』の時間や戦闘力も大幅に上昇するはずよ」
そりゃすげーや。太陽達も大喜びだ。
すると、アレクシエルはさらに告げる。
「自分の武具の脇にあるベッドに寝て。ああ、もちろん裸でね」
「は?」
太陽達は驚くが、コハクは躊躇いなく武具の脇のベッドに進むと、スルスルと服を脱ぎ始めた。
「ここに寝るの?」
「そうよ、すぐに眠くなるから」
素っ裸のコハクはベッドに寝る。すると幾何学模様がコハクを包み、脇にある武具と共鳴を始める。おい太陽、コハクをガン見してんじゃねぇよ。
「ほら、さっさとしなさい」
アレクシエルは少し苛ついた声で言うと、なぜか興奮してる太陽、モジモジしてる月詠と煌星とクリスはベッド傍へ。やばい、ここから出た方がいいな。
「おっさんはアイマスクしてるから気にしないで、さっさと脱いで横になりなさい」
もちろんウソだ。
俺の視線を気にした少女達が服を脱がないので、当たり前のようにウソをついた。
「太陽、こっち見たら殺すからね」
「太陽くん、その、恥ずかしいので······」
「私は見てもいいよ? まだ見てないもんねー」
太陽が前屈みになってる事は気にしないでおこう。
勇者パーティーは服を脱ぎベッドに横になる。ぶふふ、太陽のヤツ元気いっぱいじゃねーか。
太陽のマイサンを見ても、アレクシエルは特に反応しなかった。
「男女の違いなんて生殖機の違いだけでしょ。別にあたしは興味ないわ」
「あ、そうかい」
勇者パーティーの身体はコハクと同じような幾何学模様に包まれた。
「さーて、あとは暫く放置ね」
いつの間にか足元にいたしろ丸を抱き上げ、俺は息を吐いた。