152・トラック野郎、昼寝少女と遭遇
学園の門の傍に来客用受付があり、月詠は持参した書類を受付に提出し用件を説明した。
「オレサンジョウ王国から来ました勇者一行です。アレクシエル博士との面会と武具のメンテナンスを依頼しに来ました」
ピシッとした喋りだ。流石は勇者パーティーの頭脳。
すると受付嬢が書類を確認しながら営業スマイルで告げる。
「確認しました。アレクシエル博士は教授室にいらっしゃいますので、どうぞお進み下さい」
「サンキュー、よっしゃ行こうぜ」
「コラ、先に行かないの」
「あ、タイヨウ待ってー」
「あらあら、皆さん慌てずに」
受付嬢から校舎案内図と来客用のカードを貰うと四人が先に進み、俺とコハクが後に続く。しろ丸は俺の足下をチョコチョコ歩きながら付いてくる。可愛い。
「よし、行こうかコハク、しろ丸」
「うん、ご主人様」
『なうなうー』
受付嬢に一礼して学校の中へ入ると、まるで有名な大学のキャンパスみたいだった。
歩く学生はチャラそうな大学生風もいれば小学生くらいの子供もいるし、威厳のある先生風のお爺ちゃんも重そうな本を片手に歩いてる。
「おー、なーんかこの感じ、懐かしいぜ」
「そうですね、太陽くん」
「タイヨウ、キラボシは学校に通ってたの?」
「ああ、ここよりも小さいけど、雰囲気は似てるな」
太陽の視線は同世代で集まる男子生徒。日本の高校生活を思い出してるのか少し淋しげだ。
俺は社畜生活に染まってるから高校生活なんて覚えてない。高校の友人の顔も名前もおぼろげだし、付き合いのある友人も殆どいない。友達と言えば、会社のドライバー仲間とたまーに飲みに行くくらいだな。
「………」
「ご主人様?」
「いや、何でもない」
淋しいとか言うなよ? 別に俺みたいな社畜はごまんと居るぜ。
案内図を見ると、件の教授室は八階にあるらしい。建物に入り目的地を目指す。
「……なーんか注目されてるぜ」
「多分、あたし達が勇者パーティーだってわかるのよ」
「うえー、ヒソヒソしてるー」
「わたくしは特に気になりませんが……」
確かに、学校内は制服の生徒で溢れてるおかげか、普段着の俺やコハク、装備を固めてる勇者パーティーは注目されてる。しかも何人かの生徒は勇者パーティーの武具に注目してる。
「さっさと向かった方がいいな」
「そーだな」
太陽はあっさり答えると、注目を無視してズンズン進む。
この建物の凄いところは、上階へ登る階段が建物の中央にある螺旋階段というところだ。なかなかいいデザインをしてるね。
そして、気が付いた。
「あれ、しろ丸?」
しろ丸がいない。
俺の後ろをチョコチョコ歩いてたのに、いつの間にか消えていた。
慌てて周囲を探すがいない。おいおい、ヤベぇぞ。
「おっさん、どーした?」
「しろ丸がいない、まさか迷子か?」
勇者パーティーとコハクが周囲を探すが、姿は見当たらない。
「ご主人様、わたし探してくる」
「あー待て、俺が探すからみんなは先に行っててくれ。そう遠くには行ってないだろうし、タマのセンサーならすぐに見つかる」
教授の部屋は螺旋階段の頂上だし、迷うことは無い。
それより、ここには武具の調整に来たんだ。勇者パーティーはもちろん、コハクの武具も見てもらう必要がある。遅刻なんて失礼な事は出来ない。
「でも」
「大丈夫、すぐに行くから」
コハクの頭をポンポン撫でて納得させ、月詠に言う。
「じゃ、コハクを頼むな」
「わかりました。先に行ってます」
俺は引き返し、しろ丸の捜索を開始した。
『探索開始·········完了。しろ丸様の現在地は南西三〇メートル。学園の在校生から食物を貰っています』
「なんだそりゃ······」
イヤホン越しから聞こえるタマの案内で通路を進むと、少し広い休憩スペースに数人の女生徒が集まっていた。
「カワイイ〜」
「ねぇねぇ、すっごいフカフカ〜」
「ほら、クッキーどうぞ」
『なう、なうなう』
いた。女子から撫でられお菓子をもらってる。
尻尾もブンブン振ってるし、かなりご機嫌なようだ。
すると、俺に気付いたしろ丸は、女子の間をすり抜けて俺の足元へ。俺はしろ丸を抱っこすると、フカフカの身体をワシワシとなでまくる。ちょっとしたお仕置きだ。
「まーったく、勝手にいなくなるなっての。心配しただろ?」
『なうー』
どうやら撫でられるのが気持ちいいようだ。これじゃお仕置きになってない。
女子生徒にお礼を言って別れ、太陽達と合流するために来た道を引き返して歩き出した。
「·········ん?」
途中、俺の視線はとある一点に集中した。
そこは、通路沿いにある共有スペース。柔らかそうなソファが並び、飲食も出来るようにテーブルも設置されてる。
人は誰もおらず、通路は俺としろ丸だけ·········ではなかった。
「くか〜〜〜〜〜」
ソファに一人いた。女の子だ。
横長のソファを占領し豪快に眠ってる。服装は黒のシンプルなワンピースにソファにかけてある白衣、足は素足で床には膝下くらいのブーツが脱いで置いてあった。
驚いたのは、少女はとてもキレイな真紅のロングへアで、シャンプーのコマーシャルに出れそうなくらいサラサラだ。
そして、片足を上げて眠ってるおかげで、色っぽいレースの赤いショーツが丸見えだった。おいおい、見た目は一四歳くらいなのに、なんちゅーパンツ履いてやがる。
「くぁ·········んん」
あ、起きた。
すると少女の顔は不機嫌丸出しになる。
「んん······あんた誰よ、何か用?」
「あ、いや」
「ふぁ······ねぇ、なんか甘いのない? アタマぼんやりする」
「甘いの? ええと······あ、チョコならあるぞ」
「ん」
手を差し出した。寄越せってか?
俺は少女の手に小さなチョコの包みを置くと、少女は不機嫌丸出しの顔で言う。
「気が利かないわね〜、フツーは包みを開けて渡すでしょ? っつーかあんた誰よ? 部外者がここで何してんの?」
「······」
こ、この餓鬼、すげームカつく。
落ち着け落ち着け、俺は大人だ。こんな胸もないマナ板少女にキレても仕方ない。
「ん、これ美味しいわね。もっとちょーだい」
「もうない」
「じゃ買ってきなさいよ。ほら早く」
「は?」
「あたしは甘いの食べたいの、買ってきてよ」
「·········」
お、お母さん、この餓鬼は何ですか?
ワガママ少女はブーツを履き、ソファにかけてある白衣を着た。生徒だろうか、ここで何をしてるんだろう。
まぁいい、買いに行くフリして立ち去ろう。さっさと太陽達に合流しないとな。
「お、なにそれ。すっごいカワイイじゃん!!」
少女は俺の足元にいるしろ丸に狙いを定めたが、しろ丸は危険を察知したのか俺の背後に隠れ、そのまま軽快なステップで俺の頭に飛び乗った。
「ちょ、ねぇねぇ貸して貸して!!」
『なう〜〜っ』
「嫌がってるから諦めろ、じゃあな」
面倒くさいので立ち去ろう。
すると、少女は俺の後を付いてくる。
「ねぇその子貸しなさいってば。ちょっと」
「いやよく見ろよ、犬歯剥き出しにして威嚇してるぞ。お前、初対面なのに嫌われてるよ」
『なぅぅぅぅっ』
「な、なによこいつ、このあたしに対して無礼じゃない!!」
しろ丸が初対面の相手をここまで嫌うのも珍しい、というか初めてだな。
「あーもーいーや、ねぇあんた、チョコ買ってきてよ」
「遠慮しとく。用事があるからな」
「はぁ〜? あんた、このあたしの命令に背く気?」
「·········」
ウザいなこのガキ。
真紅の髪を掻き上げ、同じ真紅の瞳をキラキラさせながら少女は言う。
「部外者なら仕方ないわね、いい、あたしは」
「あ、そうだ、チョコはないけどアメならあるぞ」
ポケットからアメを取り出し少女に差し出すと、決めポーズのままで固まった少女はアメをひったくる。その顔は赤く染まっていた。
「あんた、あたしを舐めてるの?」
「いや別に。というか舐めてるのはお前だろ? アメだけに」
な~んちゃって。
すると少女はこの世の終わりみたいな顔で言った。
「死ねクソオヤジ」
「やれしろ丸」
『なうなうなうなうなうっ!!』
「うひゃあぁぁぁっ!!」
おっさんは辛うじて許してるが、クソオヤジは許せん。
頭上のしろ丸を少女の眼前に突き出すと、しろ丸は思い切り鳴いた。
「何すんのよこのオヤジ!!」
「うるさい、オヤジって言うな、俺はまだニ六だ!!」
「は、オヤジをオヤジって言って何が悪いのよ。あたしなんて一四だし〜」
「ふん、ガキじゃねーか」
「んだとコラ!!」
ああもう、こんな子供と言い合いしてる場合じゃない。
面倒くさいので無視して歩き、中央の螺旋階段まで戻ってきた。確か八階の教授室だったな。
「あんた、どこ行くのよ」
「八階」
「ふーん、じゃああたしをおんぶして行きなさい」
「じゃあな」
「ちょ、コラ待て!!」
少女を無視して螺旋階段を上がる。
当然だがけっこうキツい。魔導技術が発達してるなら、エレベーターくらい作ってくれと思う。
「はぁぁぁぁ、はぁぁぁぁ······キツい」
少女もグロッキーだ。若いクセにだらしねーヤツだ。
くそ、俺ってば優しいね。いやマジで仕方ない。
少女の傍でしゃがみ背を向ける。
「ったく、ほら」
「ふん、最初からそうしなさいよ。疲れてる瞬間を狙って優しいアピールなんてしても無駄よ」
「さて、猛烈に階段ダッシュしたい気分になって来た。行くぞしろ丸」
『なうなう』
「ちょ、ウソに決まってんでしょ!!」
少女を背負い階段を登る。
こいつ軽いな、胸もないし、ちゃんとメシ食ってんのかね。
「あんた、胸の感触を楽しんでるでしょ? この変態」
「アホ、無いものをどうやって楽しめってんだ」
「んだとコラーーーッ!!」
「ぐぇあ、首締めるなこらっ⁉」
こうして、なんとか階段を登りきった。
八階まで登ったはいいが、肝心の教授室がわからん。
タマに聞いて案内してもらうか。
「それにしても、エレベーターくらい付けとけよ」
「あん? なにそれ?」
「階段じゃ疲れるだろ? 移動するための乗り物だよ」
「······ふーん」
すると、俺の頭からしろ丸が飛び降り、くんくんとニオイを嗅ぎ出した。
『なうなう、なうなう』
「もしかして、太陽達のところへ案内してくれるのか?」
『なうー』
しろ丸がチョコチョコ歩き出し、その後を追う。
すると、少女も付いてきた。
「······なんだよ?」
「あたしもこっちに用事があんのよ」
もう放っておこう。
しろ丸の後へ付い行くと、大きなドアの前に到着した。
「ここか」
しろ丸を抱っこしてドアをノックする。するとドアが開き、中から若い眼鏡美女が現れた。
「ご用件は?」
「ええと、勇者パーティーの······」
「伺っております。コウタ様ですね」
部屋に案内されると、そこは応接間らしい。勇者パーティーのみんなとコハクがお茶を飲んでいた。
「お、来たかおっさん」
「しろ丸、見つかった。良かった」
しろ丸はコハクの膝に飛び乗ると、ゴロゴロと甘えだした。
眼鏡美女が俺をソファに案内しようとした瞬間だった。
「どけ」
突如、尻を蹴飛ばされた。
「いでっ、な、なんだ?」
「邪魔よ」
そこには、小生意気な真紅の髪と瞳の少女がいた。
少女はズカズカと歩き、勇者パーティーやコハクを無視して応接間の奥にある、一際大きくて豪華な椅子に座った。
「リーンベル、お茶とお菓子」
「はい、畏まりました」
眼鏡美女は一礼し、部屋をでていく。
そして少女は偉そうなポーズを取り、勇者パーティーに向けて言った。
「初めまして勇者パーティーの諸君。あたしはアレクシエル・ブレン・ルーミナス。あなた達の武具の生みの親であり、このスゲーダロ最高の頭脳を持つ天才魔導科学者よ」
嘘だろ、オイ。