151・アガツマ運送会社のお話②/シャイニーとニナ
異世界の配達屋さん、第一巻は12/4発売です。
活動報告に、コウタとミレイナとシャイニーのイラストが載ってますので、ぜひご覧ください‼
*****《アガツマ運送会社》*****
三人の中で最も身長の高いキリエの予備制服をニナに渡し、空き部屋でニナは着替えをする。
着替えを終えたニナの制服姿は、とても似合っていた。
「ニナさん、似合っています」
「ああ、ありがとう」
「やはり、私のサイズでも少し小さいみたいですね」
「む……すまんなキリエ」
キリエの視線は豊満な乳房へ向く。
胸元のボタンは大きく開かれ、胸の谷間がしっかり見えていた。
「けっ」
「シャイニー、嫉妬は見苦しいですよ」
「あぁん!?」
キリエの指摘は地雷だったようで、青筋を浮かべたシャイニーが詰め寄る。
そこにすかさずミレイナが割って入る。
「ま、まぁまぁシャイニー、落ち着いて下さい」
「ミレイナ~っ!! アンタも立派なモン持ってるでしょうが~っ!!」
「ひゃぁぁぁぁっ!?」
シャイニーはミレイナの乳房を両手で鷲づかみ。
男性であるコウタが居ない反動なのか、女性だけのテンションがいつもと違う。
キリエはニコニコしながらミレイナの乳揉みをするシャイニーを眺め、ミレイナはシャイニーから逃れようと身体をよじり、シャイニーは遠慮無くミレイナの胸を揉む。
ニナはこの光景を……楽しそうに笑うシャイニーを見て思う。
「……ふ」
やはりシャイニーは、冒険者時代より今が輝いている。
こうして、女性だけの仕事が始まった。
ミレイナとキリエが受付を始め、シャイニーとニナが受付終わりの荷物を運び、エブリーに積んでいく。
「ニーラマーナ、配達の近い荷物は奥で、最初に回る地区は手前に入れるのよ、効率を考えて」
「ああ、わかった」
ミレイナやキリエはニナとシャイニーの関係を心配していたが、意外にもシャイニーは親切丁寧に教えていた。それもそのはず、意地悪をしてもシャイニーに得は無い、午後も配達がある以上、ニナに仕事を覚えてもらい少しでも戦力として使いたいからだ。
ニナは力もあるので大きく重い荷物も難なく持ち上げる。だが、エブリーの積載能力では一度で配達を終わらせる事は出来ない。
「じゃ、チャッチャと行くわよ。乗って」
「ああ、よろしく頼む」
コハクの指導でシャイニーの運転技術は上がっている。コウタが教えた時とは違い、滑らかに出発した。
会社を出て暫く走り、最初の配達先に到着する。
「いい、今のアンタは冒険者ギルドのギルド長じゃなく、アガツマ運送会社の臨時社員のニーラマーナよ。お客様に対して失礼の無いように、まずはアタシが見本を見せるから」
「よろしくお願いします、先輩」
「む……ま、まぁ見てなさい」
シャイニーは赤くなりそっぽ向き、ニナはこっそり笑う。
荷物を手にシャイニーとニナは配達先の家に向かった。
「こんにちはーっ、アガツマ運送でーすっ!!」
元気いっぱい輝く笑顔でシャイニーは挨拶すると、家の中から常連のおばさんが現れる。
「おはようシャイニーちゃん、おや、そちらの女性は?」
「臨時の社員です、これから一緒に配達に回るんで、ご挨拶を」
「よろしくお願いします」
ニナは丁寧に一礼し、シャイニーは荷物を届けサインを貰う。
エブリーに戻ると、シャイニーはニナを褒めた。
「へぇ、誰にでも偉そうだと思ってたけど、ちゃんと出来るじゃない」
「当たり前だ。正式な以来を受けたのに、会社の評判が落ちたら私の責任になる。依頼を受けた冒険者として、仕事はキチンとやりとげるさ」
「……ふん」
シャイニーはビニール袋から缶コーヒーを取り出すと、ニナに渡す。
ニナは驚いたようにシャイニーを見て受け取った。
「ま、期待してるわ」
「ああ、していろ」
二人の配達は、滞りなく終了した。
午前中の配達を終え、午後の配達の準備を終わらせ食事休憩を取る。
今日は配達も少ないので一度で終わらせられそうだ。
問題もなく配達を終える頃には空がオレンジ色になっていた。帰りはいつも通り夕方近くになるだろう。
エブリーを運転するシャイニーは無言で、ニナも特に喋らなかった。
「………」
「………」
ゼニモウケの帰路、冒険者達とすれ違う。
ボロボロだったり、荷車にモンスターを積んで運んでたり、楽しそうに歌いながら歩くグループと、様々だ。
そんな冒険者達を尻目に、ニナが口を開いた。
「シャイニーブルー」
「………なに?」
「お前は、冒険者に戻りたいと思ったことはあるか?」
「ない」
即答だった。
ニナの方を見向きもしない、問いかけに興味すら持っていなかった。
「お前は、私を恨んでいるか?」
「……恨んじゃいない、でも許してない事はある」
シャイニーは運転しながら話し出した。
「アンタは、アタシを鍛えてくれた。知識と技術を与えてくれた。『七色の冒険者』の称号をアタシに譲ってくれた。おかげで……アンタと出会った五年、アタシはとても強くなった」
「………」
「その点に関しては感謝してる。おかげでアタシの本来の目的も達成できたし、こうして新しい目的のために生きることが出来る。でもね……」
シャイニーは車を止め、初めてニナの方を向く。
「アタシに非があるのは理解してる。でもね……アタシを切り捨てた事は許せない。他の冒険者の秩序の為に、アタシを晒し者にして捨てた事は許さない」
「………そうか、気付いてたか」
「冷静に考えて気が付いたわ、アンタ……あの場で、冒険者達が集まるあの場でアタシを切り捨てたんでしょ?」
「そうだ。最近、冒険者達の秩序が問題になってな、依頼料を巡っての争いや、冒険者同士による依頼の取り合い、そして横取り。『七色の冒険者』であるお前が規則違反を繰り返したおかげで、他の冒険者達が多少の規則違反なら問題ないとタカを括り始めた。何かあるたびにシャイニーブルーはどうした、アイツはいつも規則違反を繰り返してる、偉ければ何をしてもいいのか……とな」
ニナの表情は真面目で真っ直ぐだ。
その表情をシャイニーは正面から受け止める。
「その時だ、ゼニモウケ内に運ばれたヴェノムドラゴンに注目が集まり、お前が倒したと広まったのは。そこでコウタ社長が討伐したヴェノムドラゴンをお前が討伐したように見せかけた細工を指摘して、お前を冒険者の中で最も重い処分である除籍にしたんだ」
「確かに、アレは悪かった……でも、過程はどうであれコウタが協力して倒したモンスターよ。アタシがその場に居た以上、虚偽の報告とは言えない。アンタ、例えアタシが一人で倒したとしても、初めから除籍処分にするつもりだったんでしょ?」
「そうだ、お前を見せしめに冒険者全員の前で処分する事で我々冒険者ギルドの本気を見せつけると共に、問題児であるお前を追放する事で冒険者全員が逃げ場を失った。おかげで以前に比べ冒険者のルール違反は少なくなった」
つまり、生け贄。
ニナが手塩に掛けて育てた弟子より、冒険者達の秩序を優先した。
「アタシは………捨てられるとは、アンタがアタシを捨てるとは思わなかった」
「………そうか」
「でも違った。優先するべきは秩序、アタシはアンタの中でそれ以下の存在だった。そりゃそうよね、アタシ一人と何千人もの冒険者とじゃ重さが違うもんね……」
「………」
「アタシはアンタに捨てられた、それが事実。でもね、何食わぬ顔で話しかけてきたり、ケンカを売るようなそぶりで近づかれるのに腹が立つ。アンタの中では終わってることかもしれないけど、アタシの中じゃ終わってない。アンタはアタシを捨てた」
「で、私はどうすればいいんだ?」
「別に謝って欲しいワケじゃない。何をしても、何をされても、壊れた関係を元に戻そうとは思わない…………アタシを裏切った姉や、家族みたいにね」
「………家族?」
「冒険者として依頼を受けて仕事に来てる以上、突き放したりはしない。でも、アンタとは仲良く出来ないしするつもりも無い。言いたいことはそれだけよ」
「そうか……」
シャイニーはギアを入れ、再びアクセルを踏む。
夕日はすでに沈み、一番星が瞬いていた。
第一巻の表紙は11/22に公開します。
トラックカッコいい······変形後はもっとカッコいい。