150・トラック野郎、産業都市スゲーダロに到着
コハクと月詠の戦闘から数日、タダッピロ大平原を抜け、タケー山道を進んでいた。
この山は道幅も広くモンスターも弱い、それにモンスターの数自体が少ないから新人冒険者が薬草採取に来たり、雑魚モンスター相手に訓練を積んだりする山らしい。
この山を抜ければ、いよいよ産業都市スゲーダロだ。
「おっさん、スゲーダロは技術大国らしいぜ。確か『魔導科学技術』だっけ」
「へぇ……察するに、魔術と技術の融合ってとこか」
「そのとーり、魔術をスイッチに仕掛けを動かしたり、トラックほどじゃねーけど乗り物もあるらしい」
「ほーう」
太陽は助手席でこの辺の解説をしてくれる。
女好きだけど、男同士で話す方がやっぱり気楽だからな。
「その武具が作られたのもスゲーダロだよな」
「おうよ。よくは知らんけど、この『聖剣』の技術は一子相伝の技術らしいぜ。今のスゲーダロの技術者の中でも最高の頭脳を持つアレクシエル博士が作ったんだ」
「一子相伝の技術って、どこぞの格闘技じゃあるまいし」
「だよな。でもアレクシエル博士のすげーところは、聖剣に外付けの追加装備を加えて出力を大幅に上昇させる事に成功したところだとさ。昔の技術だと、コハクさんの鎧みたいに、鎧形態に武器を内蔵させるのが精々らしい。武具そのものに装着者の属性を付与、増幅させる機能とか、魔力を身体能力に変換させる応用で、超高速戦闘を可能にした技術とか……マジですげー人らしいぜ」
「会った事ないのか?」
「まぁね。話に聞いただけ」
山道をゴトゴト揺られながら走り、太陽と他愛ない話をする。
今思うと、第一印象こそ最悪だがこうして話すと気楽に話せる。
太陽はオレサンジョウ王国の次期国王にしてお姫様と婚約し、勇者パーティーの少女達に好かれハーレムを築こうとしてる、チート物にありそうな主人公だ。よく考えたらそんなヤツと普通に話してる俺ってなんだ?
「なぁおっさん、ジュースくれよ」
「はいはい」
まぁ、俺としても話しやすいからな、深く考えなくてもいいか。
それから走ること数日。ようやく到着した。
「これが産業都市スゲーダロか」
「なんか要塞みてーだな」
助手席に座る太陽の意見も的を得ている。
都市全体が高い壁で覆われ、何本も見える煙突からは煙がモクモクと上ってる。そして入口らしき巨大な鋼鉄製の門が、まるで口のように開いていた。
「だ、大丈夫かな……」
「ま、平気だろ。オレ達がいるから堂々と入ろうぜ」
くそ、一〇歳も年下の子供なのに頼りになりやがる。心の中でめっちゃ安堵してる自分がいるよ。
とにかく、トラックは目立つから大人しく進んで行こう。
「あ、おっさんストップ。ちょっと月詠と交換するわ」
「え?」
「いや、オレは難しい交渉や話なんてできねーし、いざ揉め事になったら月詠に任せるからよ」
「………」
前言撤回。
月詠の方が頼りになるわ、適材適所ってヤツだけどな。
太陽は居住ルームに移動すると、入れ替わりで月詠が助手席に座る。手にはしろ丸を抱いていた。
「着いたんですね」
「ああ、申し訳ないが頼む」
「はい。お任せ下さい」
『なうなうー』
しろ丸は月詠の膝上でコロコロ転がる。
今気がついたが、月詠からフワリといい香りがする……どうやら、温泉に入っていたようだ。
「あ、お風呂いただきました。それにしても凄いですね、トラック内にあんな高級旅館にしか無いような温泉があるなんて……さすがチートスキル、羨ましいです」
「ま、神様がくれた物だしな」
温泉にコンビニ、ゲーセン、挙げ句の果てにはロボットに変形するトラックだ。どんな仕組みか知らないが、この世界で二度目の人生を生きる上でこんなに頼りになる物はない。
「ふふ、しろ丸も可愛いですし、魔王を倒したら、コウタさんの会社に就職しようかな」
「ははは、歓迎するよ。でも、月詠はオレサンジョウ王国の王妃になるんじゃないかな?」
「あ……あはは」
おっと、思春期の少女を照れさせてしまった。
さて、さっそくスゲーダロに入りますかね。
月詠のおかげで揉めること無く都市内へ。勇者ってすげー。
「うお……」
「すごいですね……」
俺も月詠も驚いた。
スゲーダロ内は、異世界にしては近代的な町で、道はアスファルトのような材質で舗装され走りやすく、建物は木や煉瓦ではなくコンクリートみたいな材質で出来ている。そして町の至る所にある街灯が周囲を照らしたいた。
周りにある店は見たことが無い看板を下げ、飲食店や宿屋もあるが数が少なく感じる。それに対して武器防具屋は数が多く、道行く人も観光客や住人というよりは作業員みたいな人達が多い。
ぶっちゃけ、工場地帯の中に出来た都市みたいだ。実際に大きな工場みたいな建物もあるし。
「コウタさん、この町の最高研究機関であり、研究者育成機関である『アルストロメリア魔導総合研究学園』へ向かって下さい。アレクシエル博士はそこで教鞭を執ってるそうです」
「長いな……」
「ええと、略称は『魔導学園』です。そこであたし達の武具が作られたみたいですね」
「なるほどな。タマ、ルート案内よろしく」
『畏まりました』
いつも通り、フロントガラスにマップやナビが表示される。
それを見た月詠が苦笑しつつ言った。
「このトラックの技術を見せたら腰を抜かしますね……」
「そうかもな。お前達やミレイナ達にしかトラックの秘密は教えてない、今更だけど他言はするなよ」
「もちろんです。それと、スゲーダロの技術者達にも触れないように伝えます」
「ああ。でもタマがいるから問題ない、ドアはロックされるし防衛機能もあるからな」
『はい。無許可でドアを開けようとしたり、危害を加えるような輩に遭遇した場合、設定された武装による反撃行動を行います』
「今から言っておく、やり過ぎるなよ」
『畏まりました』
不審者に対してミサイルやレーザーを乱射するわけにはいかない。とりあえず機銃や各種ガスを設定しておけばいいか。
「お、見ろよあれ」
「あれは……馬車、いえ、トロッコですか?」
道路には馬車も走ってるが、どう見ても自走してる乗り物があった。
見た目はトロッコに幌が付いてる乗り物で、どうやって操縦してるかは不明だ。
「多分、魔力を使って動かしてるんでしょうね。でも一般人クラスの魔力では大して動かせないと思います。恐らくですけど、このスゲーダロ内だけの乗り物なのかも」
月詠の洞察力は凄いな。ホントに一六歳かよ?
それにしても、やっぱ注目を浴びるな。
「うーん、道行く人が見てる」
「仕方ないですね……」
技術者的にはやっぱ気になるんだろうな。
とにかく、さっさと目的地に行こう。
町を走ること数十分、目的地に到着した。
デカい門の向こうには綺麗な大学みたいな建物がある。若い学生みたいな連中もいるし、門には異世界文字で『アルストロメリア魔導総合研究学園』って書いてある。
よく見るとみんな制服を着てるし、この辺は学校らしいな。
「学校……」
「懐かしいか?」
「………はい、ちょっと」
月詠は淋しそうに微笑む。
一六歳だし、入学してまだ一年も経ってないんだよな。華の高校生活があっさり終わり、異世界を救う勇者なんてやってるんだ、その心境は計り知れない。
「さて、どこに駐めるか……あんまり目立つのは嫌だな」
取りあえず、学園前にある駐馬場に移動し、タマのアナウンスで到着したことを告げた。
コハクの保護者である以上、俺も付いていった方がいいからな。トラックを残すのは不安だが、タマが居るから問題ない。
全員でトラックから降車し、目の前の巨大な学園を眺める。
「で、デカいな……」
「ホントですね。ここで武具が作られたのですね」
「私、初めて来たよー」
「わたしも」
『なうなう』
俺と月詠以外はおのぼりさんみたいな雰囲気になってる。
「よし、さっさと終わらせるか」
「はい、行きましょう」
俺と月詠が歩き出すと、太陽達も後に続く。
さーて、武具を作った偉大な先生に会いに行きますかね。