148・トラック野郎、コハクと月詠
産業都市スゲーダロは、ゼニモウケから大体一週間くらいの距離。というかゼニモウケがこの世界の中心に位置する商業都市だから、どこへ行くのも距離が同じくらいだ。ホントに助かるね、神様どうもありがとう。
助手席にはコハクがいて、さっきまで寝てたが今は起きてオヤツのシュークリームをモグモグ食べている。
ちなみにスゲーダロのルートは、『タダッピロ大平原』を抜けて『タケー山道』を越えた先にある。もう名前にはツッコまない事にした。
現在、タダッピロ大平原へ続く街道を走ってる。なんとか今日中には入口近くまで進む予定だ。
「ご主人様、モンスターがいたら戦わせて」
「ん、でも危な·········いや、コハクなら平気か」
コハクは強い。
並大抵のモンスターは歯が立たないだろう。
「身体が鈍るとご主人様を守れない。任せて」
「わかった、でも危なくなったらすぐ逃げろよ」
「うん」
コハクは笑顔で頷く。やっぱ可愛いな。
ちなみに、太陽達は居住ルームでのんびりしてる。
「あ、そうだ。コンビニやゲーセンの説明しとくか」
待ってるのもヒマだろうし、奢りとはいかないがコンビニで買い物したり、ゲーセンで遊ぶのもいいだろう。
俺は街道脇にトラックを停車させ、居住ルームへ。コハクは再び昼寝を始めた。
「あれ、どうしたおっさん」
「いや、ただ待ってるのもヒマだろ? ちょっと来いよ」
四人は首を傾げ、居住ルーム奥の通路へ案内する。
「お前ら、金は持ってるか?」
「ああ、王国からの支給金があるぜ」
「そっか、なら腹減ったり暇だったらここを好きに使え」
「へ?」
案内した場所はコンビニ。
日本のどこにでもあるような、一般的なコンビニだ。
「な、なんだこれ······夢か?」
「う、うそ······」
「まぁまぁ、何という事でしょう······」
「わぁ、なんかいいニオイするー」
そりゃコンビニおでんだな。さすがクリス、いい嗅覚だ。
俺はお手本でコーヒーとジュースを買う。
「とまぁ、こんな感じだ。さすがに奢ってはやれないけど、好きな物があったら買っていけ」
「うぉぉぉぉーーーっ‼ すっげぇぇぇぇっ‼」
「こ、これがコウタさんのチートスキル······」
四人はさっそくコンビニ内を物色する。
太陽はカゴいっぱいにお菓子を詰め込み、月詠は化粧水や女性が月一でくるアレ用品、煌星も似たようなラインナップで、クリスはおでんや肉まんを買っていた。
「おっさん最強だな!! マジで羨ましいぜ!!」
「ふ、驚くのはまだ早いぜ」
ポテチにかぶりつく太陽を押さえ、同通路内にある別室へ。
「ヒマならここで遊んでいけ、一通りのラインナップはあるからよ」
「うっそだろ······」
「ゲーム、センター?」
「わぁ、わたくし初めて来ましたわ」
「な、なんかキラキラしてやかましいー」
勇者パーティーの反応を楽しみつつ中を案内すると、太陽達はさっそく遊び始めた。
太陽は格闘ゲームで月詠と対戦し、煌星とクリスはクレーンゲームのしろ丸クッションに狙いを定めた。
さて、案内も終わったし運転に戻りますか。
運転席に戻ると、そこは修羅の国だった。
「え、なにこれ」
助手席にはしろ丸を抱きしめて寝てるコハク、そしてフロントガラスの向こう側には、ガラの悪そうな集団。
手には剣だの斧だの持ってるし、フロントガラス前に五人、運転席と助手席側のドアにも五人ほど張り付いてる。
究極に嫌な予感がすると、タマが言った。
『社長。盗賊団に囲まれました。対応をお願いします』
「ととと、盗賊団っ⁉ マジかよ······」
「うぅ〜ん······」
寝ていたコハクが起きるとコシコシと目を擦る。なんか猫みたいで可愛い。じゃなくて、盗賊団だぞ。
「ご主人様、どうしたの?」
「こ、コハク、盗賊団に囲まれてる。落ち着け落ち着け」
「盗賊団? あ、ホントだ」
めっちゃ落ち着いてるね。俺が落ち着けよ。
コハクは軽く伸びをすると、俺に向かって微笑んだ。
「ちょっとやっつける。寝起きにはちょうどいい」
「え」
コハクは、何の迷いもなくドアを開けた。
するとドア前にいた盗賊が倒れ、コハクはあっさりと囲まれる。
盗賊団はコハクの身体を舐め回すように見つめ、何人かは舌なめずりまでしてる。この野郎ども、ふざけやがって。
「くぁ······」
だが、コハクは興味なさそうに欠伸をした。
その態度がナメられてると感じたのか、盗賊達は武器を構える。
「このガキ、ナメんじゃねぇぞ!!」
「たっぷり楽しんだあとは売り飛ばしてやる」
「へへ、いい身体してやがる、おい、あんまり傷付けんなよ」
クソみたいな会話をしながら、盗賊団は徐々にコハクとの距離を詰める。それでもコハクの余裕は変わらなかった。
「ヤッちまえっ!!」
盗賊団のリーダーらしき男の掛け声と同時に、コハクを囲んでいた盗賊団の首から血が吹き出した。
「な、なんだ? テメェ何しやがった!!」
「回転蹴り」
コハクは、円形に詰め寄る盗賊団に対し、グリーブの踵に内蔵されてる『飛竜爪』を展開して回転蹴りを繰り出した。
つまりコハクの間合いに入ったと同時に絶命。容赦ねーな。
あとはもう、コハクのステージだった。
両手の『龍虎爪』で盗賊を切り刻み、膝の『龍杭』で盗賊の顎に膝蹴りを食らわせ、剣を振り上げる盗賊に対し肘の『竜剣』で受け止めカウンターで爪を食らわせた。
「う、うわぁ······」
『素晴らしい戦闘力です』
タマも絶賛してる。こんなの初めてだ。
あっという間に盗賊のリーダーだけになり、リーダーはやぶれかぶれで大斧を振り上げコハクへ突進してきた。
「必殺」
コハクは両踵の『飛竜爪』を展開し、向かってくるリーダーに向けて正面から突進する。
「はっ!!」
そして大ジャンプ。
踵落としのような体制になり、そのままリーダーの背中から心臓を狙い、片足の踵の刃を突き刺した。
「ぐ、ぉぉぉ······」
「やぁっ!!」
そのままリーダーの身体を蹴り回転ジャンプで距離を取ると、盗賊団のリーダーはフラフラとしながら倒れ絶命した。
カミキリムシのバイク乗りみたいなキックだ。まさかリアルで見れるとは。
「必殺・『飛竜心空殺』」
おいおい、コハクのやついつの間にこんな殺人技を。
嬉しそうに助手席に戻り報告する。
「ご主人様ご主人様、全員倒したよ」
「お、おお、すげーな」
「えへへ」
俺は頭を突き出してくるコハクをなでると、コハクは猫みたいにウニャンと鳴いた。
そういやコハク、憲兵隊三〇人殴り倒したんだっけ。盗賊団なんて相手にもならないな。
死体はモンスターが食べるから放っておいていいらしい。厄介事になる前に、この場から離れる事にした。
人生初の盗賊団は、あまりにも不憫だった。
それから特に問題なく『タダッピロ大平原』の入口までやって来た。
今日はここで一泊し、明日から大平原を進む。
ちなみに、食事は月詠と煌星が作ってくれた。なんでも勇者パーティーの食事は交代制で、中でも月詠が料理上手らしい。
食事が終わり、さっきの盗賊団の事を話した。
「マジかよ、悪いおっさん、オレ達遊んでばっかで······」
「気にすんな、コハクが瞬殺したからな」
すると、月詠がコハクを見て聞いた。
「·········あの、コハクさん、コハクさんは格闘家なんですよね?」
「うん」
「······そう、ですか」
「?」
コハクは首を傾げるが、長い付き合いの太陽は月詠が何を言いたいのか瞬時に理解した。
「コハクさん、月詠は是非とも手合わせしたいそうですよ」
「な······ちょ、太陽!!」
「バーカ、何年の付き合いだと思ってんだよ。お前がオレの事をわかるように、オレもお前の顔見れば何考えてるかわかるっての」
「な、ば、バカ!!」
「うぐぇっ⁉」
月詠は真っ赤になり太陽の首を締め、慌てた煌星とクリスが月詠を宥める。するとコハクが言った。
「じゃあ、戦う?」
「え······」
「明日戦おう。でも、わたしは手加減出来ない、やるなら本気で」
「······」
武闘家としての血が騒ぐのか、月詠の目に炎が灯る。
コハクと月詠、どっちが強いのか俺も気になるな。
「そうだな、タダッピロ大平原は広いみたいだし、思い切り戦っても問題ないだろ。せっかくだしやってみたらどうだ?」
俺の一言で、月詠の気持ちは決まったようだ。
「······わかりました。コハクさん、手合わせ願います」
「うん、楽しみ」
というわけで、コハク対月詠の模擬戦が決まった。
場所はタダッピロ大平原、時間はお昼前くらい。
さーて、どっちが強いのかね。