147・アガツマ運送のお話①/臨時新戦力
コウタ達を見送ったミレイナ達。
シャイニーは二度寝、ミレイナとキリエは目を覚ますためにシャワーを浴びようとした。
「キリエ、お先にどうぞ」
「いえ、ミレイナがお先に······いや、一緒なら効率がいいですね。お湯を沸かすのも大変ですし、二人一緒に入りましょう」
「え」
キリエはミレイナの背中を押して風呂場へ向かう。
シャワー用のタンクに魔術で水を入れ、タンク内に入ってる火の魔石に魔力を通す。すると水は適温になり、シャワーの準備は整った。湯船は時間がかかるので朝は用意しない。
「朝の時間は貴重です。早く浴びて朝食の支度を済ませましょう」
「は、はい」
コウタ達に朝食用のサンドイッチは作ったが、ミレイナ達の食べる朝ごはんは用意していない。キリエの言う通り時間は貴重だ、仕事までの時間を考えるなら、効率よく動くべきだ。
ミレイナは観念し、キリエと共に脱衣所で服を脱ぐ。
シャイニーやコハクを含めた四人で温泉に入る事は何度かあったが、キリエと二人きりでシャワーは初めてだったので、ミレイナは少し緊張していた。
「······っ」
ミレイナは、服を脱いだ全裸のキリエを見て息を呑む。
美しい白髪をタオルで纏め、白い裸体を惜しげもなく晒してる。同性だと言うのにミレイナはドキリとした。
大きな胸、くびれた腰、程よい肉付きの太もも、女性として魅力あるスタイルに、ミレイナは己の身体と思わず比較していた。
「ミレイナ、どうしたのですか?」
「ひゃわっ⁉ なな、なんでもないですっ!!」
自分の裸体を見つめ、再びキリエの身体を見たミレイナは、眼前にキリエの微笑みがあり驚いた声を出す。
「ふふ、何を考えてるかわかります。ミレイナもしなやかで美しいですよ······」
「え、あ、あの······ひぅ」
キリエは、ミレイナの胸の中心を指でなぞる。
ミレイナはゾクゾクと身体が震え、真っ赤な顔でプルプル震えた。そしてキリエの手は腹部を越え·······。
「さ、湯を浴びましょうか」
あっさりと離れ、ミレイナの手を掴みシャワーヘッド前に向かって歩き出した。
ミレイナの火照りは、冷水を浴びても戻らなかった。
シャワーを浴び、ミレイナとキリエは朝食の支度を始める。
キリエがスープを作り、ミレイナは卵とベーコンを焼いてサラダを盛り付ける。
すると、ボサボサの蒼髪を掻きながら寝間着のシャイニーが起きてきた。
「おふぁよ〜」
「おはようございます、シャイニー」
「シャイニー、お湯が残ってますので顔を洗って髪を梳かして下さい、だらしないですよ」
「んぁ〜い」
キリエに咎められても文句を言わないのは、寝ぼけてるからである。言われた通りに顔を洗い髪を梳かしていつものポニーテールに括ると、シャイニーは完全に目が覚めた。
リビングに戻ると、いい香りのする朝食が並んでいる。
「さ、いただきましょう」
「んぁ〜、お腹へったわ」
「ふふ、おかわりもありますからね」
ミレイナ達は、三人での朝食を食べ始める。
コウタやコハク、しろ丸のいない朝食は初めてだった。
「そーいえば、コウタが助っ人がどうの言ってたわね」
「ええ、ミレイナ、何か聞いてますか?」
「いえ、何も······」
単純に、コウタは言い忘れていた。
勇者達とのとのモツ鍋パーティーは盛り上がり、多少の酒も入ったので、ニナが手伝いに来る事を完全に伝え忘れていた。
朝食を済ませ、食後のお茶で一服する。
「アタシ達だけってのも新鮮ね」
「確かに、社長が居てこその私達でしたからね。新鮮さもありますけど、私は寂しいです」
「キリエもですか?」
「ふふ、ミレイナは当然ですよね。社長と一番付き合いが長いですから」
「確かにね。そーいえばミレイナ、コウタとはどこで知り合ったの?」
「え······あ」
ミレイナは思い出す。
初めての出会いは、水辺でゴブリンに襲われたところを助けてもらった·········全裸で。
「ミレイナ?」
「どしたの、顔赤いわよ?」
「い、いえ·········内緒です」
シャイニー達の追求を躱していると、一階にあるガレージ脇のドアベルが鳴った。
これはチャンスとミレイナは立ち上がり、急いで一階へ向かう。
「はーい······え、ニナさん?」
「おはようミレイナ」
そこに居たのは、ギルド長のニーラマーナことニナだった。
ニナはいつもの戦闘服ではなく、大人っぽいシャツとスカートを履いていた。
ミレイナにお茶を出され、ニナは不機嫌なシャイニーとなんとなく事情を察したキリエに向かって言う。
「コウタ社長の依頼でな、暫くここで働く事になった。よろしく頼む」
「はぁぁぁぁっ⁉」
シャイニー立ち上がりニナを睨む。
だがニナは鞄から一枚の書類を出し、テーブルの上に置く。
「コウタ社長の依頼書だ。冒険者ギルドに提出された正式な依頼を私が受けた。シャイニーブルー、お前ならわかるだろう?」
「むぐ······確かに、コウタの字ね。それに拇印もある」
「それじゃあ、ニナさんが会社のお手伝いをしてくれるんですか?」
「それは心強いですね」
ミレイナとキリエは嬉しさを隠さず、不機嫌なシャイニーは書類とにらめっこしていた。
「そういう事だ。コウタ社長が戻るまでの間、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします!!」
「さすが社長です。ここまで手を回しておくとは」
「むー······」
話し合いの結果、ニナはシャイニーの補佐として配達に出ることになった。
こうして、臨時職員のニナがアガツマ運送へ加わった。