146・トラック野郎、スゲーダロに出発
さて、勇者パーティーを産業都市スゲーダロまで送ると決まった翌日。当然だが決まった翌日に出発というわけには行かない。
タイミングのいい事に、この日は定休日。
せっかくなので勇者パーティーを加えつつ、みんなで買い物に出掛ける事にした。
「えーと、食材と消耗品と」
「なぁおっさん、昼飯は肉が食いたいぜ‼」
「朝飯すら食ってないだろ······若いのはいいねぇ」
「おっさん、今のマジでオヤジ臭いぞ」
「やかましい」
意外にもゼニモウケは初めてという勇者パーティーのために、観光も兼ねた買い物だ。それに今はフードフェスタが近い事もあり、観光客や冒険者で人が溢れてる。
移動はトラックで、助手席には太陽が座ってる。
まずは朝食かな。この時間帯はカフェよりも露店で買って食べた方が早い。
ゼニモウケ中心近くにある冒険者ギルドの駐馬場にトラックを止め、食べ歩きをするためにみんなで歩く事にした。
「へへへ、なーに食べよっかな〜」
太陽はトラックから降りると、すぐ傍の広場に並ぶ露店に向かって行く。マジで落ち着きないヤツだな。
「あ、こら太陽!!」
「待ってよー」
月詠と、しろ丸を抱えたクリスが後を追い、俺に一礼して煌星が後を追う。その姿を残された俺達は苦笑して見た。
「おっと、早く行かないとな」
「そーね、アンタの奢りだし」
「言っとくけど、奢りは太陽達だけだからな」
シャイニーに釘を刺し、俺達も露店へ向かう。
ウツクシーほどではないが魚介の網焼きに、ホットドッグやケバブといった肉料理、果物のクレープやアップルパイなど、甘かったりしょっぱい匂いがごちゃまぜだ。でも空腹には効くね。
まずは胃に優しい魚介と野菜のスープをチョイスする。
「おっさん、やっぱオヤジくせぇ······」
「やかましい。胃の準備体操だよ」
太陽はホットドッグを右手に、ケバブを左手に持ってる。
「ツクヨさん、キラボシさん、ここのフルーツパイはどうですか? 甘味料を使わない自然な甘さですので、お肌にもいいんですよ」
「なるほど、流石はミレイナさん、お詳しいですね」
「確かに、すごく美味しそうです」
ミレイナは、月詠と煌星にフルーツパイを勧めてた。
まぁ買い物でこの辺りはけっこう来るし、地理もそこそこ詳しくなった。
「キリエねぇキリエねぇ、この赤いのなに?」
「これはレッドペッパーという辛味香辛料ですね。お肉やスープにかけて食べると美味しいですよ」
「相変わらず辛いの好きなんだね······」
あっちの姉妹は相変わらずだ。
血の繋がりなんて関係ない仲良し姉妹にしか見えない。
「もぐもぐ」
「ちょ、コハク······まだ食べるの?」
「うん。お肉おいしい」
「うっぷ、アタシ、もうパス······」
「じゃあ大食い勝負はわたしの勝ち。お会計よろしく」
「ぐぅぅ······」
シャイニーとコハクは何やってんだ。いつの間に大食い勝負なんてしてるんだよ。
コハクの足元にはしろ丸が居て、肉の塊をもぐもぐ食べてる。
「·········」
「ん、どーしたおっさん」
「いや······まさか、異世界から召喚された勇者パーティーと、ここまで縁があるなんてな」
「確かにな、でもよ、オレはおっさん達と知り合えてすっげー嬉しいぜ。いろいろ世話になってるし、これからも仲良くしようぜ」
「·········ふ、そうだな」
よくもまぁ、そんな恥ずかしいセリフを言えたもんだ。
大人には言えない、子供ならではの純粋なセリフ。羨ましくもあり眩しくもある······なーんてな。
さ、朝飯も食ったし買い物へ行くか。
買い物を済ませ、お昼はみんなでカフェレストランで食べた。そして午後はゼニモウケ内をブラブラして、気になった店を覗いたり、小腹が空けば露店で買い食いしたりして過ごした。
今更だが、俺って最年長だよな······まだニ六だし若い自信もあるけど、十代のパワーにはついて行けない。けっこう疲れてきた。
「そろそろ会社に戻るか、夜は俺達行きつけのモツ鍋屋に連れて行ってやるよ」
「モツ鍋⁉ いいねいいね、美味そうだ」
太陽は乗り気だ。というかコイツ食い物の事になると眼を輝かせすぎだろ。ちなみにモツ鍋屋はコハクとしろ丸の歓迎会をやった場所だ。
時間はだいたいお昼を過ぎた午後三時、少し休んでモツ鍋屋に行けばちょうどいい。
勇者パーティーとアガツマ運送従業員達は、全員歩いて帰る事になった。どうやら腹ごなしを兼ねた運動みたい。若いっていいね体力あってさ。
というわけで、俺は一人でトラックの元へ。
冒険者ギルド前に停めたトラックの傍に、冒険者ギルド長のニナがいた。
「ニナ?」
「む、コウタ社長か。この乗り物が止まってたから居ると思ってたのだが、出掛けていたのか」
「悪い、邪魔だったか?」
「そうじゃない、久しぶりだったからつい、な」
そういえば、ホーリーシットから帰ってすぐに仕事を再開したから、ニナと顔を合わせる機会がなかった。
ミレイナやキリエは事務所にいるから挨拶はするが、俺やシャイニー達は外回りだしな。タイミングも合わなかったし、こうして喋るのは久しぶりだ。
「ところで、コウタ社長は一人なのか?」
「まぁな。ミレイナ達は勇者パーティーと一緒に歩いて帰るってさ」
「勇者パーティー? まさか、ゼニモウケに来てるのか?」
「ああ、俺達に依頼があってな。産業都市スゲーダロまで送る予定だ」
「となると、また長期休業なのか?」
「いや、今回は俺とコハクで送っていく。会社にはミレイナとシャイニー、キリエが残るから営業は続けるよ·········あ、そうだ」
俺はここで名案を思い付く。
太陽達からの報酬もあるし、少しくらい出費してもいいだろう。
「ニナ、冒険者ギルドに依頼は出来るか?」
「ああ、依頼料さえ払えば基本的に誰でも依頼は出来る」
「じゃあさ、会社の手伝い募集って出来るか? 期間は一月くらいなんだか·······」
「可能だが、補佐奴隷でも雇えばいいんじゃないか?」
「いや、その······出来ればニナに来て欲しいんだ」
「······私に?」
「ああ。ニナは強いし頼りになるし、ミレイナやキリエも気を許してるし、全く知らない他人より遥かに信用出来るからな」
「······うーむ、冒険者ギルド長の私を雇うと。ふふ、私は高いぞ?」
「え、出来るのか?」
「ああ、ギルド長という役柄だが、私も冒険者だからな。依頼を受ける自由はある。それに、ギルド内の仕事は副ギルド長に任せればいい、ゆくゆくはギルド長の椅子を渡そうと思っていたし、いい機会だ」
「じゃあ······」
「いいだろう、コウタ社長の依頼を受けよう。それにこんな依頼を普通に出してみろ、ミレイナとキリエ狙いの冒険者達による依頼の取り合いに発展するぞ」
「あぁ、そういえばファンなんだっけ」
なおさらニナにしか任せられんな。危険すぎる。
「ではギルド内へ、依頼を出してくれ」
「わかった」
俺は依頼を出すため、ニナと一緒にギルド内へ入った。
翌日の早朝、アガツマ運送の前に全員集合した。
アガツマ運送は今日から仕事なので、お客様が来ない早朝の内に出発するようにしたのだ。それにフードフェスタも近いし、さっさと行ってさっさと帰って来たいしな。
ちなみに、太陽達は遅刻しないように、アガツマ運送の空き部屋に泊まった。
日の登り始めで薄暗く、俺以外の全員が眠そうだ。
歳を重ねるとわかる。目覚し時計がなくても勝手に身体が覚醒してしまう感覚がな。
「それじゃあ行ってくる、なるべく早く戻るからな」
「お気を付けて、それとこれ、朝ごはんのお弁当です」
「おお、ありがとうミレイナ」
訂正、俺とミレイナ以外は眠そうだ。
ミレイナ、朝早くから俺達のために弁当を作ってくれた。しかも俺が食べやすいようにサンドイッチだしよ。ホンマにええ子や。
「ぐー······」
「こらコハク、起きろって」
「ご主人様、ねむいよー」
「全く、トラックで寝てもいいから」
コハクは俺に寄りかかり眠そうにしてる。
太陽達も眠そうだし、さっさと行くか。
「じゃあ、会社は任せたぞミレイナ、キリエ。それと運転には気をつけろよシャイニー」
「はい、お任せ下さい」
「お土産いっぱい買ってきなさいね」
「社長、お気を付けて」
半分寝てる太陽達をトラックに乗せ、コハクを助手席に座らせシートベルトを締める。
俺は運転席に座り、もう一度だけミレイナ達を見た。
「あ、そうだいい忘れてた。後で助っ人が来るから」
「助っ人? 誰よ?」
「ふふ、仲良くしろよ。それじゃあ行ってくる」
俺達はミレイナ、シャイニー、キリエに見送られて産業都市スゲーダロに出発した。
俺はその三人の姿を見て、早めに帰ろうと思った。
だけど、俺は本当に甘かった。
どんな理由があろうとも、三人を連れて行くべきだった。
でも、もう遅かった………遅かったんだ。