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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第12章・トラック野郎と勇者のお礼』
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145・シスター・オブ・ブルーハーツ①/ウィンクの帰郷

 勇者パーティーの一人であるウィンクブルーは、久しぶりの故郷であるウツクシー王国もとい『海の楽園都市ウツクシー』へ帰ってきた。

 馬の手綱を握り、久しぶりの故郷に想いを馳せる。

「変わらないな、潮の香りと人々の笑い声······」

 顔は綻び、自然と笑いが浮かぶ。

 ウィンクは蒼髪をなびかせ、町の中へ進む。

 観光地らしく、冒険者や観光客で溢れていた。

 小腹が空いたので露店にでも寄ろうと考え、ウツクシー名産のカニやホタテを豪快に網焼きしている露店の前に立つ。

「いらっしゃい、焼き立てだよ!!」

「適当に盛り合わせてくれ、それと馬用に食える物があればくれ」

「はいよっ!!」

 店主は葉を何枚も重ねて作った使い捨ての皿にカニやエビ、ホタテなどを盛り付け、馬用に焼いていない野菜をいくつか用意してくれた。

 ウィンクはコインを支払い近くの広場に移動して馬に野菜を与えると、馬は嬉しそうにモグモグ食べた。

 ウィンクも焼き立ての魚介盛り合わせを食べる。まずは焼き立てのホタテに特製ソースを絡めた焼きホタテだ。

「あふ、うん、美味い」

 口の中が火傷しそうなくらい熱いが、ハラハラほぐれるホタテに塩気のあるタレが絡みつき、シンプル故に止められない旨さを感じた。

 エビやカニも同じく、どれも懐かしく素晴らしい味だ。

 騎士団に入りたての頃、まだ小さなウィンクは厳しい訓練をこなしながら、先輩騎士たちに可愛がってもらった。その時よく露店の食べ物を奢ってもらい、感動したのを覚えてる。

 完食し、一息入れる。

「·········ふぅ」

 ウィンクは荷物を漁り、布に包まれたボロボロの刀身と柄を取り出す。

 それは、オセロトルの眼球から摘出した、シャイニーの双剣の片割れであるシュテルン。

 ウィンクは、この剣がどうしてオセロトルの眼から出てきたのか気になった。だが、どう考えても答えは一つ……血の繋がった姉であるシャイニーブルーが、ヒダリの集落を守るために戦ったのだ。

 シャイニーは、ウィンクのような勇者の武具を持っているワケではない。

 シュテルンを見ればわかる通り、何の変哲もないただの剣だ。もちろん素材は素晴らしい物だが、何か特別な能力があるワケでもない。

 ウィンクは考える。

 もし勇者の仲間でないウィンクだったら、災害級危険種に立ち向かえただろうか?

 騎士団時代から愛用していた槍だけで、あの凶悪な豹に立ち向かえただろうか?

「……………ムリ、だ」

 立ち向かえない。

 立ち向かえたとしても、必ず殺される。

 勇者の武具があったからこそ、『鎧身』があったからこそ、『アクセルトリガー』があったからこそ、太陽、月詠、煌星が一緒だったからこそ立ち向かえた。

 ならば、姉には何があったのだろうか。

 姉のことを知れば、ウィンクはもっと強くなれるだろうか。

「私は、姉に向き合わなくてはならない」

 だから、太陽達に無理を言ってこのウツクシーに帰郷した。

 父であり、この都市の市長であるフィルマメントなら、答えをくれるかも知れない。

「私はもっと強くなる、強くならないと……」

 きっと、今の自分では勇者の武具を使っても姉に勝てない。

 勇者パーティーとして、少しでも戦力を手に入れなければならない。そのためには姉を、シャイニーを知り、その強さを手に入れなければならない。

 力量や技術だけではない何かを、ウィンクは欲していた。




 町中に新たに建設された庁舎にウィンクはやって来た。

 ここはウツクシーの地区長達が集まり、会議や報告定例会を行う場所であり、市長フィルマメントの住む家でもあった。

 ちなみにウツクシー城は改修され、宿泊施設や飲食店、土産物屋や過去の王族達の歴史や宝物などが展示してある博物館へ変わった。ウツクシーのメインスポットであり、観光客が大勢集まる娯楽施設である。

 ウィンクは庁舎の受付でフィルマメントに面会希望をすると、驚くほどあっさり面会できた。

 どうやらフィルマメントは、老若男女誰であろうと面会があれば出来るだけ会うようにしてるらしい。

 今日はたまたま時間が空いていたので、すぐに会うことが出来た。

 ウィンクは受付嬢に案内され、応接間へ通される。

「まさかお前とは、久し振りだなウィンクブルー!!」

「きゃっ、ち、父上……お久しぶりです」

 ウィンクはいきなりハグされた。

 驚いて少女のような声を出してしまった事を恥じつつ、ソファに案内される。

 フィルマメント自らお茶を煎れ、ウツクシーで作られた名産品のお菓子やらをたくさん出してくれた。

「改めて久し振りだ。さっそくだが町をどう思う? あぁそうだ、実はウツクシー城を改修してな、新しい観光施設としてオープンしたんだ。時間があれば案内しよう、そうだ今日の宿はどうする?久し振りに一緒に食事でも」

「ち、父上、落ち着いて、落ち着いて下さい」

 フィルマメントは子供のように、新しいウツクシーを説明してくれる。

 ウィンクは戸惑いつつも、新たな生きがいに心躍らせる父を見て嬉しくなった。

「す、すまんすまん。久し振りに会えた娘と話せるのが嬉しくてね。さて、何か用事があるのだろう?」

「はい。用件は……姉についてです」

「姉……シャルル、いやシャイニーブルーの事か……」

「はい。父上、姉はどのような御方だったのでしょうか、些細な事でも知ることが出来れば……」

「ふむ、突然どうしたのだ? こんな言い方は悪いが、お前は姉に興味が無かったはずでは?」

「…………」

 ウィンクは、荷物の中から布に包まれたボロボロのシュテルンを出す。

「む、これは……どこかで」

「姉シャイニーブルーの双剣です。これは、とある災害級危険種の眼球から見つけました」

「何だと?」

 ウィンクは、これまでの事情を話す。

 フィルマメントは落ち着いた表情で、最後まで質問することなく聞いた。

「私は、もっと強くなりたい……だから、姉の強さを知りたいのです。あのアインディーネを降し、災害級危険種と渡り合った姉を」

「……わかった」

 フィルマメントは、知る限りのシャイニー情報を話す。

「シャイニーブルーは、小さい頃は落ち着きのない少女でね。作法や習い事の時間になると城を抜け出して海に泳ぎに出かけるようなヤンチャな姫だった」

「……信じられません。王族に生まれながら、その職務を放棄するとは」

「ははは、君の存在を知らせなかったのも、シャイニーブルーの影響を恐れたからだね。姉に引っ張られ、姉妹仲良く海で遊ぶ姿、今となってはみてみたいけどね」

「父上……」

「シャイニーブルーは活発で姉妹想いのいい子だった。だからこそ姉であるプルシアンに上手く利用されてしまったんだろうね……」

 フィルマメントは悲しげな表情になる。

「父上、私は騎士団に入ったことに後悔はありません。それだけは間違えないで下さい」

「ああ、ありがとう。シャイニーブルーは姉妹想いの優しい子、それがボクの知ってるシャイニーブルーだ。彼女の強さを知りたいなら、幼少期より冒険者になってからだね」

「やはりそうですか……」

「それよりも、本人に直接聞けばいいじゃないか。血の繋がった姉妹なんだし、シャイニーブルーは喜ぶと思うよ?」

「いえ、それはまだ早いです。私が姉に正体を明かすのは、対等な存在になったとき……私は、姉に勝負を挑みたいと考えています」

「やれやれ、堅いねぇ……誰に似たんだか」

 きっとフィルマメントではない、ウィンクはそう思った。




 その後も昔懐かしい話で盛り上がり、気が付けば夕方になっていた。

 フィルマメントの強引な誘いで愛人と子供達と夕食を共にした。そして翌日は親子で町を観光し、気が付くとウィンクは本来の目的から離れ、父と子の時間を楽しんでいた。

 それから数日後、ウィンクは次の目的地であるゼニモウケに向かうことにする。

「父上、お世話になりました」

「おいおい、嫁に行くわけでもあるまいし、その言い方は……あれ?」

「……っ」

 嫁、という単語が出た瞬間、ウィンクの顔が赤くなる。

 三〇人以上のハーレムを築いたフィルマメントは瞬時に看破した。

「ああそうか、タイヨウくんなら安心だな」

「ち、ちちうえ、その……」

「ははは、済まない」

「く……では、失礼します!!」

 ウィンクはしてやられたと思いつつ馬に乗る。

「おっと、そうだ……これを」

「え?……こ、これは」

 フィルマメントは、布に包まれた宝石をウィンクに手渡した。

 それは、災害級危険種『海蛇サーペンソティア』の龍核だった。

「これはこの都市には必要ない。然るべき場所で、新たな形に生まれ変わらせてやってくれ」

「………」

「ああそれと、その双剣の片割れ……修理して渡せば喜ばれるんじゃないかな?」

「父上……」

 つまり、災害級危険種の龍核を使い、新たな双剣を作れと。

 父からもういない娘に送る、最初で最後のプレゼント。その作成と運搬をウィンクは任されたのだ。

 意地っ張りでお堅い妹が姉に会えるチャンスを、二人の父親は作ってくれた。

「ありがとうございます、父上」

「シャイニーブルーに伝えてくれ、またウツクシーに遊びに来てくれってね」

 フィルマメントの微笑みは、娘を想う父の顔だった。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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