135・勇者のお話⑦/豹帝の終わり・超鎧身
オレ達勇者パーティーは、ヒダリの集落に向け飛ばしていた。
こんな時、トラック野郎のおっさんが居ればなぁと考えてしまう。
「こんな時、コウタさんが居ればね……」
「そうですね……」
月詠も煌星も同意見みたいだ。
心が通じ合ってるようで嬉しいね……なんて考えてる場合じゃ無い。
「間に合ってくれよ……」
心からそう願う。
ミギの集落を危険に晒してまで出発してるんだ。もしヒダリの集落が手遅れで、ミギの集落へ戻ったら全滅してたなんて事になれば、勇者パーティーの信用問題……いや、オレ達は立ち直れないかもしれない。
クリスの件で心が弱ってる今、余計な気苦労を抱えれば潰れちまう。
実際、こう見えてオレも月詠も煌星もいっぱいいっぱいだ。抱えるモンや考えることが多すぎてゴチャゴチャしてる。だからミギの集落出発前に月詠と一悶着起こしてしまった。
こんな時、誰よりも冷静なのは煌星だ。
ウィンクも冷静だが、感情が高ぶりやすく激情型であるのは何となくわかっている。なので真に冷静でぶれることが無い煌星は、オレ達勇者パーティーの支えでもあるだろう。
ちくしょう、こんな時こそオレがしっかりしなきゃなのに。
「太陽、どうしたの?」
「いや……なんでもない」
だから、誤魔化すことしか出来なかった。
オレは御者席に移動して、馬を操るウィンクの隣へ座る。
ウィンクは真剣な眼差しで馬を操り、ひたすら速く街道を爆進していた。
「交代する、少し休め」
「いえ、問題ありません。タイヨウ殿は身体を休めて下さい、戦闘が近いですので」
「そりゃお前もだろ」
「いえ、私は……皆様の役に立てませんから」
こいつ、いきなり何を言ってるんだ?
戦闘の役に立てないなんて、オレは考えた事も無い。
「私は、勇者の皆様と比べて矮小な魔力しか持ちませんし、鎧身も短時間しか発動できません……そんなお荷物より、主力であるタイヨウ殿の体力を第一に」
「おい」
「え……うぴゃっ!?」
オレは問答無用でウィンクにデコピンした。
「な、なにを」
「お前、自分がお荷物だってホントに思ってるのか?」
「え……」
「だとしたらオレは、いやオレ達はホントのマヌケ集団だな。自分をお荷物だって思ってる騎士ちゃんを信頼して仲間に入れてる大バカマヌケ集団だ」
ウィンクはハッとしてオレを見つめるが、オレは続ける。
「あのな、お前は強いぞ、自信を持て。お前の冷静に見えて熱くなる性格は嫌いじゃない、むしろ好きだぜ?」
次の瞬間、馬車が大きく揺れた。
オレは慌てて御者椅子の手すりを掴み体勢を整える。
「ちょ、ウィンク!?」
「すすす、すき……わわ、私は、騎士として……」
「おい落ち着け、おい!!」
「はっ……もも、申し訳ありません。その……」
ウィンクは顔を赤くして俯き、オレをチラチラ見る。
あ、もしかしてやっちまったか? フラグ立っちゃったな?
だとしたら……嫁チャンス!! 美少女騎士を嫁に!! オレのハーレム拡張だぜ!!
とまぁ、アホなことは置いといて。
「いいか、お前は強い。だからちゃんと休んでおけ」
「……はい、タイヨウ殿」
オレはウィンクから手綱を受け取り、馬のスピードをアップさせた。
*****《?????》*****
傷を負いすぎた、視界を奪われた。
豹帝オセロトルは、ボロボロの身体を引きずり森の中を歩いていた。
『くそ、ヴァルナガンドめ……』
だが、生きている。
甘ちゃんのヴァルナガンドは、トドメを刺すことは無かった。それどころか、力を使い果たし、再び弱体化してしまったのを確認した。
あの場でとどめを刺せなかったのは仕方が無い。まずは傷を癒やすために身を潜めるか、一度帰還するしかない。魔族の住む魔界の技術なら、失った部位を再生する技術もあるはずだ。
オセロトルは、折れた首を別の骨で補強し、全身を骨で覆ったまま歩く。
潰され、抉られた眼は仕方ない。
嗅覚があれば取りあえず困ることはないと考え、エネルギー補給のためにエサとなる生物を探していた。
『スンスン………見つけた、獲物のニオイ』
オセロトルはニヤリと笑い、ようやくまともな食事が出来る事に安堵する。
この短時間で、眼を失ったハンデを克服しつつあった。
『ヴァルナガンド、そして人間め……待っていろ』
ニオイの元へ走り飛び出す。
馬と数人の人間のニオイがオセロトルの鼻孔をくすぐる。
『ガルルルルルルッ!!』
オセロトルは威嚇をすると、馬が立ち止まったのがわかった。
そして、食事を始めようと大口を開けた瞬間だった。
「なんだコイツ? おい月詠」
「驚いたわね……データにはない姿だけど、コイツが災害級危険種『豹帝オセロトル』ね」
「うーん、負傷してるようですね? 何故でしょうか?」
「構いません、これは好機と考えるべきです」
そんな、のんびりとした声が聞こえてきた。
*****《勇者タイヨウ視点》*****
よくわからんが、オレ達はラッキーだ。
見た感じ、かなりの深手を負っているし、両目なんて潰れて見えていない。よっぽど手強い相手とやり合ったんだろう、ここでオレ達に会うとはトコトン運の無い奴だ。
「月詠、いいだろ?」
「……そうね、今回は許可してあげる。ただし、使うならあたしも使うわ」
「あ、ではわたくしも」
「僭越ながら私も、お付き合いします」
つまり、全員でやる。
いいね、ほんとにいいね。溜まりに溜まったストレスを発散させてもらおうか。
オレは目の前の骨みたいな豹に聞く。
「おい、お前って人間界に放たれた六匹のモンスターでいいんだよな?」
『何だと? 貴様、何者だ?』
「お、喋った、つまり正解って事か」
じゃ、もういいや。
オレ達は武具を構え、魔力を込めて音声認証コードを入力する。
「「「「『鎧身』」」」」
オレは黄金、月詠は赤、煌星は緑、ウィンクは青い鎧を纏う。
この豹には見えていないけど、魔力が増大したのを感じてるはずだ。
『な、なんだこの魔力は……ま、まさか貴様等が玄武王を始末した勇者か!?」
「大正解……負傷してるトコ悪いけど、ここで終わりだ」
ここで問題の一つが片付けられるとは、やっぱラッキーだぜ。
オレ達はそれぞれの色に対応した拳銃型のデバイス、『アクセルトリガー』を出す。
スライドを引くと銃口部分にジョイントが現れ、スライドと連動して鎧の左腰部分にホルダーが現れる。
音声認証コードを入力、腰のホルダージョイントにアクセルトリガーを挿入。
「「「「オーバードライブ・超鎧身」」」」
鎧に複数のラインが走り、一部分が展開する。
仮面の一部分に、カウントダウンが表示されていた。
「行くぞ!!」
結論から言う、豹を倒すのに五秒も掛からなかった。
アクセルトリガーの真の力は、超高速戦闘にある。
魔力を燃料に鎧のアシスト機能を全解放する。超高速戦闘は肉体・魔力・脳に多大な負担を掛けるため、オレ達ですら長時間の使用は出来ない。
現状で、オレが一六秒、月詠が一四秒、煌星が一七秒、ウィンクが四秒しか使えない。それ以上の時間が経過すると、鎧の安全装置が作動して強制解除され、ぶっ倒れてしまう。
なので、サクッと終わらせることにした。
「行くぞ!!」
オレの合図で飛び出したのはウィンク。
ウィンクは『海流槍ネプチューン』を振り回し、強靱な骨で覆われた足をあっさり切断。
次に飛び出した月詠は、両拳にマグマを纏わせ超高速で豹の全身を殴打……ドロッドロの黒焦げに。
さらにダメ押しで煌星の矢。鎧の一部を矢に変化させ、数百の矢をほぼ同時に放つ。すると黒焦げの全身に矢が刺さり、なんともまぁ酷い有様となった。
そして最後、オレの聖剣が首を切断した。
この間二秒、痛みも感じるヒマがないくらい一瞬の出来事だった。
『あ?………あぁ?』
ゴロゴロと首が転がり、豹は口をパクパクさせてる。
見えないってのは残酷だよね、ちょっと憐れになってしまった。
「ぐぅ……あぁぁ」
「おい、大丈夫か?」
「は、はい……申し訳ありません」
鎧を解除したウィンクは蹲る、発動したのは二秒だが、四秒しか発動できないウィンクにとっては強烈な負担になったはず。
「ほれ、大丈夫か?」
「あ……」
ウィンクに手をさしのべると、頬を赤く染めてオレを見てる。
あれ、もしかしてもしかして?
「さ、こいつを討伐した証を探すわよ。たぶん、体内に【核】があるはずよ」
「おわっ!?」
「ぴゃっ!?」
月詠がウィンクを引っ張り上げ、黒焦げの身体の解体を始めた。
「ふふっ」
煌星は、何故か嬉しそうに微笑んだ。
オセロトルは、薄れゆく意識の中で思った。
この強さは、パイラオフに……魔王四天王に匹敵する。そう思った瞬間、意識が途切れた。
首から切断され、頭部だけとなったオセロトルの前に、蒼い髪の少女が近づいてきた。
「これ、まさか……」
少女は、オセロトルの潰れた眼球に手を伸ばすと、指で何かを摘まみ引っ張る。
ジュルジュルと水っぽい音と共に引き出されたのは、蒼い透明なボロボロの刀身。
「まさか……」
それは、自分と同じ蒼い髪の少女が使っていた剣ではないか?
何故、災害級危険種の眼球から、ボロボロの状態で出てきたのか?
「………っ!!」
ウィンクはハッとして、身体を解体する月詠達の元へ。
内臓を掻き分け、心臓付近に見つかった【核】らしき宝石を眺める太陽達を尻目に、ウィンクはオセロトルの胃袋を探し見た。
「………」
だが、溶けかけの人骨があるだけで肉片は無い。
もし食われたのなら、傷の具合から見てもそう時間は経っていないことは明白……つまり、食われたのではなく、戦って勝利したと言うことになる。
「旅の運送屋……護衛」
まさか、災害級危険種に手傷を負わせたのは……血の繋がる姉なのだろうか。
「おし、予定変更。ホーリーシットに帰還しようぜ」
「そうね」
「お腹も空きましたし、近くの村で補給をしてささやかな祝勝会をしませんか?」
「お、いいね、なぁウィンク?」
「え、あ……はい、そうですね」
ウィンクは、興味の無かった姉シャイニーに強い興味を持った。