132・トラック野郎、待機
聖王国を出発して数日、俺とミレイナは再び国境へやって来た。
考える事はいろいろある、だけど今はやるべき事をしっかりとやろう。それがシャイニーやコハク、キリエのためになるのなら。
助手席に座るミレイナは、全く変わらなかった。
「早く全部終わらせて、仕事を再開しなきゃですね」
「······だな」
ミレイナは、誰よりも仲間を信じてる。
シャイニーとコハクとしろ丸が災害級相手に勝つと信じてるし、キリエが聖王を言いくるめて軍を撤退させる事も信じてる。
ミレイナが見ているのは、運送屋としての日常なのだ。
だったら、こんなくだらないイベントはさっさと終わらせるに限る。
俺達の現在位置は、国境から数キロ離れた森の中。タマに確認して貰ったが、この位置ならモンスターも居ないし、遠距離攻撃を行ってもバレる心配はないらしい。
キリエの予想通りなら、クリスを使って先制攻撃を行い、戦車を総動員して国境沿いに展開してるオーマイゴッド軍を殲滅する作戦に出るはずだと言っていた。
俺の仕事は、キリエの合図で二〇〇台の戦車を破壊すること。もちろん人的被害は出さない。タマ曰く、動力源である『龍核』を破壊すれば、ただの鉄の塊になるとか。
まずは、トラックの強化をしよう。
「タマ、【車体換装】を頼む」
『畏まりました』
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【車体換装】
[トラックフォーム][ユニックフォーム][ブルフォーム]
【換装一覧】
[ダンプフォーム][ショベルカー][クレーン車]
[??????][??????][??????]
《次期開放・レベル80》
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確か、遠距離砲撃形態はクレーン車だよな?
「よし、クレーン車を取得してくれ」
『畏まりました。クレーン車を取得しました。パンパカパンーン。ユニックデコトラカイザーの換装形態、《ユニックデコトラカイザー・クレーンジャケット》を取得しました。説明を聞きますか?』
「頼む」
『畏まりました。《ユニックデコトラカイザー・クレーンジャケット》は、ユニックフォームの索敵探知能力を最大限活かす形態です。武装は中長距離狙撃砲塔・《クレーンティラトーレ》がメイン武装となります。《クレーンティラトーレ》は実弾・ビームの切り替えが可能で、状況に応じて様々な弾丸を選択し放つ事が可能な万能狙撃砲塔となっています』
相変わらずチートな性能だ。強化すればするほどバケモノトラックになっていく。それに、今回は敵と直接対決する必要はないみたいだし、性能強化はとくにいらないかな。
あとはキリエの合図を待つだけだ。それはつまり、戦争開始の合図でもあるんだよな。
ミレイナと二人きりなんてホントに久しぶりだよな。
最後に二人きりになったのは、確か奴隷商館に出掛けたときか。
「あの、コウタさん」
「ん、ああ、どうした?」
「コウタさんがいた世界には、戦争ってありますか?」
いきなりの質問だな。
戦争、戦争ねぇ······それこそ日本に住んでいた頃は戦争なんて言葉事態縁のない生活だ。
「俺の住んでた地域では無いな」
「そうですか······」
「ん?」
なんだろう、ミレイナが辛そうにしてる。
ここは社長として、社員の不安を取り除いてやるべきだろうか。
「安心しろミレイナ、どんな敵が来ようと俺が倒してやるからさ」
もちろんデコトラカイザーで。
生身の俺は一般人なので期待しないで下さいね。
「はい、ありがとうございます」
ミレイナはにっこりと微笑む。だけどまだ不安なのか、ポツポツと語りだした。
「私が住んでいた魔王城は安全でしたけど、他の部族間では小さな小競り合いが毎日起きていました。戦争と言うには規模が小さいですけど、毎日どこかで必ず争いが起きていました」
「部族の争い?」
「はい。大昔は魔族内で大きな戦争があったんです。何百とある部族の一つが力を誇示するために別の部族に戦いを仕掛け、それらが拡大して戦争に発展しました。そしてその頂点に立ったのが『魔王族』で、その下に魔亀、魔龍、魔虎、魔鳥族が勝ち残り、生き残った魔族を束ねて新たな都市を作り上げたんです」
「へぇ、魔族にそんな歴史があったのか」
「ええ、遥か昔のお話ですけどね。伝承では初代魔王を討伐した異世界の勇者は、戦争で疲弊した魔王を不意打ちで討伐したと記されています。その頃の初代魔王は絶対的な力を持っていましたが、魔族を束ねる事に精一杯で、戦争での傷も癒えぬまま民たちを統治していたらしく、過労死寸前だったと伝えられています。なので勇者は魔族の間では最低最悪の卑怯者として嫌わていますね」
うーん、確かに卑怯だ。
それに、なんで異世界の勇者は魔王を討伐しようとしていたんだ? 魔族間の戦争なら人間に危害を加えたわけでもないだろうに。実に不思議だな。
「今は昔と違いますが、小さな小競り合い程度なら毎日起きています。だから私······怖いです。小さな火種が大きな熾火に変わるんじゃないかって」
「ミレイナ······」
確かに、争いの理由なんて下らない事から始まる。
冷蔵庫のプリン一つで殴り合いの喧嘩にもなるし、テレビのチャンネルをどれにするかで離婚問題になる事だってある。
でも、始まればいつか終わりが来る。
つまり、始まらなければ終わりも来ない。だったら戦争なんて起こさせない事が重要だ。
キリエの作戦通り、俺は全戦車を撃ち抜く。
戦車さえ動かなければ、人的被害はグッと下がるはずだ。
「よしミレイナ、まだ時間が掛かりそうだし、メシの支度を頼む」
「······はい」
腹が減っては戦はできぬ、その為に必要なのはミレイナのあったかご飯だ。
「タマ、監視は頼むぞ」
『畏まりました』
俺とミレイナは、居住ルームへ入って行く。
それから、数日が経過した。
暇なので遊戯ルームにパチンコ筐体を設置する事を真剣に悩んでいると、ついに来た。
『多数の生命反応確認。キリエ様の生命反応確認しました』
「来たか」
ついに来た。
つまり、開戦の時が来たって事だ。
勇者パーティーは災害級を倒したのだろうか? キリエの推測だと、進軍は勇者パーティーが災害級を討伐後だと予想していたが。
まぁいい、まずは俺の仕事をするだけ·········ん?
「·········何だ、あれ?」