126・トラック野郎、聖王国へ
聖王国の新型戦車を見つけた俺たちは、急ぎ聖王国ホーリーシットへ向かう。
だが、どんなに急いでもハラは減る。
新型戦車から離れ、街道に合流した地点で今日は野営をすることにした。
街道沿いの木の下にトラックを駐車させて居住ルームへ、するとずっと昼寝をしていたクリスが椅子に座って俯いていた。
「く、クリス?」
「おにーさん……私、こんな時に寝てばかりで……ごめんなさい」
「クリス、食欲・性欲・睡眠欲は人間の本能です。それは仕方がありません」
「でもキリエ姉ぇ……シャイニーさんとコハクさんが集落に残って戦うのに、私はグースカ寝てて……」
「いいのです。貴女は勇者パーティーに送られる積荷なのですから、ここは私達に任せて下さい。それに、勇者パーティーと合流したら、再び集落に戻って加勢をして貰わなくてはなりませんので」
「……うん。わかった」
どうやら、ずっと寝ていた事を気にしてるようだ。
いろいろ考えてるみたいだけど、ここは姉のキリエに任せよう。
「さ、できましたよー」
「お、来た来た」
ミレイナがパスタを盛り付けた皿を器用に四枚運んでいる。
俺は二枚受け取り、ダイニングテーブルに並べる。
「さ、とにかくメシだメシ。食べようぜ」
「はい。今日はシーフードパスタを作ってみました」
「わぉ、おいしそー」
「流石はミレイナですね」
シャイニー・コハク・しろ丸のいない夕食は、少しだけ淋しかった。
食事が終わり、災害級危険種の情報をクリスと共有する。
「赤い豹……やっぱり情報通りかぁ」
「勇者パーティーは知ってたんですね?」
つまり、太陽達は討伐に向けて動いているのは間違いないって事だ。
デコトラカイザーでは相性の悪い敵だ。今回は太陽達に任せられそうだ。
「それとクリス、勇者パーティーと合流した後、聖王グレゴリオに謁見しましょう」
「え!? ど、どうして?」
驚くクリスに、キリエは先ほど見た最新式戦車の説明をする。
「恐らくですが、オーマイゴットとホーリーシットの戦争は避けられません。ですが、『聖女』であり『聖王』の可能性がある貴女なら止められるかもしれません」
「で、でも……ヘタに私が出て行ったら、捕まっちゃうかも……」
「大丈夫。勇者タイヨウがいます。彼ならたとえオレサンジョウ王国を敵に回してでも貴女を守るでしょう」
「あ……」
それはそれでどうかと思うが。
それに、太陽はともかく月詠がどう出るか。
「クリス、勇者パーティーに戻る以上、戦争は止めなくてはいけません。それが出来るのは『聖女』であり『聖王』の可能性を持つ貴女だけ……」
「………」
「貴女も知ってると思いますが、ナタナエル大司祭は間違いなく戦争に参加します。あの方はホーリーシットを憎んでいましたから」
「うん、私……あの人嫌い」
うーん、なんか複雑になってきた。
ともかく、これまでの流れをまとめてここらで整理するか。
まず、俺たちの目的はクリスを勇者パーティーに返還する。
そして『ヒダリの集落』を襲うかもしれない災害級危険種の討伐だ。
デコトラカイザーでは相性が悪く一方的にボコられたが、勇者パーティーの装備なら倒せるという事で、集落の護衛にシャイニーとコハクとしろ丸を置いて勇者パーティーを連れて来ることになった。
ここで問題発生。
ホーリーシットの国境に、異世界の戦車が二〇〇台配備されてるのを発見。
どうやらオーマイゴットとホーリーシットの戦争は避けられない。なので勇者パーティー合流後、災害級危険種を討伐して聖王国ホーリーシットの王様に謁見してクリスに頼んでもらい、戦車を引くように頼む。
問題はクリスが『聖王』の後継者の可能性があるので、ヘタに行くと捕まる可能性がある。
だが、こんな言い方はアレだが……戦争の原因であるクリスの言葉じゃないとダメだろう。
神聖王国オーマイゴッドの『聖女』クリス。
聖王国ホーリーシットの『聖王』クリス。
戦争の引き金でもあるクリスは、この戦争を止める権利がある……おいおい、16歳の少女が背負うには重すぎるだろ。
というか、ぶっちゃけどっちなんだ?
「と、こんなところか」
「さすが社長、状況整理にかけて右に出る者は居ませんね」
「それって褒めてるのか?」
とにかく、まずは勇者パーティー合流だ。
そしてマッハであの赤い豹を倒そう。
するとミレイナがキリエに聞く。
「あの、災害級危険種を倒す前に戦争が始まる可能性は……」
「恐らくそれはないでしょう。破格の力を持つ勇者パーティーが戦争に巻き込まれでもしたら、自衛のために戦争に介入する口実になります。玄武王を倒したと言われる勇者パーティーが暴れる事を、オーマイゴットとホーリーシットはよく思わないはずです」
「じゃあ、あの戦車は」
「はい。勇者パーティーが帰還するまでは動かない……恐らく、オーマイゴットへの牽制の意味もあるのでしょうね」
「じゃあ時間はあるな。とはいえ急がない理由にはならないけど」
とりあえず、少しだけ安心した。
トラックはかなり速度を出している。
道幅は整備されて広く、人通りも殆ど無い。なので高速道路を走るように速度を上げて聖王国ホーリーシットを目指す。
こうしてる間にもシャイニー達は危険に晒されている。こんな下らないことでシャイニーやコハクを失うわけにはいかない。
そしてついに、見えてきた。
「お、見えてきたか」
「あれが『聖王国ホーリーシット』なんですね……」
隣に座るミレイナも初めて見たようだ。
長く続く街道の終着点に、大きな国が見えてきた。
「まずは、太陽達がどこにいるか探さないと。タマ、探せるか?」
『聖王国内でしたら探知は可能です』
「よし、じゃあ入国したらスキャンしてくれ」
『畏まりました』
タマはマジで頼りになるな、捜し物があれば全部任せよう。
そして、ついに聖王国ホーリーシットへ到着した。
そして、問題が発生する。
「···········」
俺は悩んでいた。
隣にいるミレイナは、酷く困惑していた。
「こ、コウタさん······」
ああもう、泣きそうな顔でこっち見るなよ。俺も泣きたくなるだろうが。
とは言え、このままじゃ不味いな。
「どうする?」
「え、ええと······やはり、出ていくしか」
「うーん、でもなぁ」
場所は聖王国の検問。
そう、トラックは検問の兵士たちに完全包囲されていた。
今まで、ゼニモウケやモリバッカ、オーマイゴッドやウツクシーと、いろいろな国を回って見てきた。
不審な目で見られる事は何度かあったが、そのたびに「これはスゲーダロの新作なんですよ」と言って誤魔化して来たが、今回はそれが通じずに、何を言っても聞き入れてくれなかった。
それもそのはず。だってあんなスゲーダロ製戦車を作るような国と繋がってるんだ、お互いの秘密情報とかのやり取りだってあるはず、こっちのその場凌ぎの嘘なんて通じるはずがない。
マズいな、こっちは太陽達の居場所を知りたいだけなのに。
すると、何故かトラックの後部ドアが開いた。
「やめて‼」
そう叫んだのは、薄い金色の髪をなびかせる黒服シスター。
何故ここで出てきたのか、まさかずっと寝ていた事を気にしていたのか。
ミレイナは口元を押さえ、俺は血の気が引いた。
ここでクリスが出てきたら、もしクリスに気が付かれたら。
嫌な予感だけは、嫌なくらい的中する。
「貴女はまさか······」
「おい、武器を収めろ」
「間違いない、この御方は······」
ヤバい、検問の兵士たちが騒ぎ始めた。
頭を抱えようとしたが、それどころじゃなくなる。
「こ、コウタさん······あれ」
「え······」
ミレイナが外を指差し、その先を追う。
するとそこには、白いシスター服を着たキリエがいた。
クリスと並び立つ姿は、どこまでも凛々しく見える。
「控えなさい」
凛とした美声が響く。
それだけで、検問の兵士たちは圧倒されていた。
「この御方は、次期聖王であるクリスティアヌス様である。我々は聖王グレゴリウスに謁見を希望する」
もう、わけがわからなかった。