124・トラック野郎、勝てない
しろ丸が、この赤い豹の弟。
意味がわからん、だってしろ丸はこんなに可愛いし、目の前の凶悪な赤豹とは似ても似つかない。
でも、この豹が俺に嘘を付く理由もない。
すると赤豹は聞いてもないのに楽しそうに語りだす。
『教えてやろう。ヴァルナガンドはオレの命令を無視し、人間を喰らう事が出来なかった。だからこのオレ自ら処刑してやったのよ』
「え······マジで?」
『さらに情けない事に······人間を守るためにオレに襲い掛かったのだ。昔から甘い出来損ないと思っていたがここまでだったとは、我が弟ながら情けない』
『なうなうっ‼ なうなうっ‼』
しろ丸は画面越しの赤豹に向かって吠えている。
どうやらこの赤豹の話は真実みたいだ。つまりそれって、しろ丸も災害級危険種って事なのか?
『さて、話は終わりだ。これから近くの集落で食事にするのでな······ここで終わりだ』
「く·······」
不味い、赤豹は終わらせるつもりだ。
ダメージは少ないがこっちの攻撃が全然当たらない。タマの言う通り脚にダメージがあるならいずれは動けなくなるだろうけど、そのチャンスがあるまで向こうは待ってくれない。
それに『牙飛ばし』以外にも強力な攻撃があるとしたらヤバい。
『少しは楽しめたぞ人間、ヴァルナガンドと共に散れ』
「ちょちょ、ちょっと待った、待った‼」
赤豹は大口を開ける。
そして、デコトラカイザーのセンサーでも捉えられないくらいのスピードで縦横無尽に駆け回る。
いや、センサーには反応してるが俺の技量じゃなにも出来ない。
「おいおいおいヤベーって‼」
『警告。攻撃回避困難。防御体制での待機を推奨します』
「待機って、この体育座りかよ⁉」
デコトラカイザーは身体を丸めるように体育座りをする。
情けない姿だが方法はない、とにかく生き残る事を優先する。
『無駄だ‼ 貴様の位置は把握した、この《牙突槍》で突き刺してくれるわ‼』
そんな声が聞こえる。
そしてセンサーカメラは見た。赤豹の口から長い牙が突撃槍のように突き出しているのを。
位置を把握した、つまりあの槍でコックピットを突き刺す·········うっそーん。
『死ねっ‼』
「うわぁぁぁぁぁっ⁉」
俺は迫りくる恐怖から叫んでしまった。
コントローラーを握ったまま目を瞑る。
『なうーーーーーっ‼』
『何ィィィッ⁉』
だから見ていなかった。
しろ丸が叫んだ瞬間デコトラカイザーを『風』が包み込み、鎌鼬が赤豹を斬り刻んだ瞬間を。
『社長、好機です。アクションボタンを』
「え?」
俺は無意識に赤ボタンを押す。
するとデコトラカイザーが立ち上がり、右拳を振り上げた。
『ブッガァァッ⁉』
「あ、当たった」
振り上げた拳はなぜかデコトラカイザーの真上にいた赤豹の顔面に命中した。
赤豹はそのまま地面に叩き付けられゴロゴロ転がる。
「な、何が起きたんだ?」
『説明します。デコトラカイザーの真上から豹帝オセロトルが飛来。しろ丸様の起こした風と鎌鼬が豹帝オセロトルの動きを乱し、その瞬間にデコトラカイザーの拳が命中しました』
「おお、マジかよ?」
『なうなうっ』
俺はしろ丸を抱っこしてモフモフする。
「よくわからんけどありがとうな、しろ丸」
『うなーお』
しろ丸は尻尾をフリフリしてる。
どうやら助けられたみたいだな。
『グ······お、オノレ人間、ヴァルナガンドッ‼』
すると、寝転んでいた赤豹が起き上がる。
鎌鼬によって身体は刻まれ、口からは血が流れてる。
めっちゃ怒ってる。それはもうかなり。
『グゥ······覚えていろ‼』
そう言って、赤豹は姿を消した。
とりあえず、危機は去った。
ポイントを使用して車体を修復し、俺は居住ルームへ入る。
やはりと言うか案の定と言うか、ミレイナとシャイニーとキリエとコハク神妙な表情をしていた。
ちなみにクリスはソファで昼寝してる。呑気なもんだ。
「あの、コウタさん······あのモンスター、しろ丸の事を」
ミレイナが緊張気味に言う。やはりこっちで見てたのか。
と言うことは全部知ってるんだな。
「ああ······説明する」
これまでの情報を整理する。
まず、しろ丸はあの災害級の赤豹の弟。つまりしろ丸も災害級モンスターである可能性がある。
そして、しろ丸は人間を守るために兄である赤豹に襲い掛かった。
するとコハクが何かに気が付いたように言う。
「そういえば、しろ丸と初めて出会った場所は血塗れの集落だった。もしかしてあの集落を守るために戦ったのかも」
「血塗れ? どういうことよ?」
「集落、誰もいなかった。建物はボロボロに崩れて、まるで巨大なモンスターが争ったみたいだった」
「まさか、人間は······」
「たぶん、あの赤豹に食べられたのかも」
コハクは淡々と言う。
事情はなんとなくわかったが、これからどうするか。
「待てよ? そういえばあいつ、近くの集落で食事にするとか言ってたよな?」
「まさか、人間を食べるんじゃ······」
シャイニーが青い顔で言う。
俺は慌ててタマに確認した。
「た、タマ‼ 近くに集落はあるか⁉」
『現在地より最短距離の集落は『ヒダリの集落』があります。更にその先に不特定多数の大型熱源を探知』
「は? 何だよそれ」
『詳細不明。接近し情報取得を推奨します』
くそ、クリスを勇者パーティーに送るだけなのに面倒な事になった。
面倒事が嫌いな俺も、集落を放って先に進むなんて出来ない。
戦う力がある以上、罪のない人を放って行くなんて出来ないぜ。
デコトラカイザーなら相性が悪いけど戦える。
よし、こうなりゃやってやる。俺だってたまにはやるぜ。
「よし、集落へ行こう。あの豹を迎え撃つぞ」
俺の決意、見せてやる。
するとシャイニーとコハクが言い出した。
「集落へ行くのは大賛成。でもアンタが戦うのは反対」
「うん、ご主人様はクリスを勇者パーティーに届けてあげて」
「······は?」
「あの豹はアタシとコハクで抑えるから、アンタはクリスを勇者パーティーに届けて、ついでにここまで連れてきて」
えーと、何言ってんだシャイニーは?
コハクもやる気だし、どういう事?
シャイニーは言う。
「中のモニターで見てたけど、アンタの操縦じゃあの豹は捉えられない、ぶっちゃけ最悪の相性よ。でもアタシとコハクならついて行ける」
「小回りの効くわたしとシャイニーなら、連携して戦える。倒せるかはわからないけど、時間は稼げる」
「その間にアンタはクリスを勇者パーティーに届けて、ついでにここまで連れて来なさい。癪だけど勇者パーティーの装備ならあの豹と戦える。アタシとコハクで脚の一本くらいはもぎ取って、あとは勇者に任せるわ」
「いやでも、危険過ぎだろ⁉」
「そ、そうですよシャイニー、コハク‼」
「·········」
「キリエ、お前からも何か」
「いえ、ここはシャイニーとコハクに任せるべきかと」
「はぁ⁉」
俺とミレイナの反対をよそに、キリエは賛成した。
「社長、二人を信じましょう。我々は最速で勇者を迎えに行くべきです」
「へぇ、アンタがそんな事を言うとはね」
「はい。シャイニーとコハクを信じてますから」
「······そ、そう」
シャイニーが顔を赤くしてそっぽ向く。
俺はミレイナを見た。
「······信じる、ですか」
「おいミレイナ、まさか」
「わかりました。ここはシャイニー達に任せましょう、コウタさん」
「·········」
やっぱそうなるのね。
でも、あの赤豹を倒せるか倒せないかで言えば、倒せない可能性が高い。
デコトラカイザーは完全なマニュアル操作、俺が反応できない速度で動き回られたらなす術がない。
でも、シャイニーとコハクなら反応出来る。
俺に出来るのは、勇者パーティーを連れてくる事だけ。
「······わかった。二人を信じよう」
『なう‼』
「ん?」
『なう、なうなうっ‼』
「そうか、お前も残るのか」
『うなっ‼』
俺はしろ丸を抱きかかえ、シャイニーに渡す。
こうして、俺達はパーティーを分断した。
俺、ミレイナ、キリエ、クリスの勇者パーティー合流チーム。
シャイニー、コハク、しろ丸の赤豹迎え撃ちチーム。
よくわからん大型熱源ってものあるし、考える事が多すぎる。
「よし、集落へ行こう」
とにかく、ヒダリの集落へ急ごう。