123・トラック野郎、苦戦する
『なうーっ‼』
「おい、落ち着けしろ丸っ‼」
『うなーっ‼』
俺はしろ丸を持ち上げると、しろ丸は短い足をバタバタさせて暴れる。身体が小さいから大した事はないが、これはどう見ても目の前の赤いモンスターが関係してる。
助手席に二人で座るミレイナとコハクは警戒していた。
「こ、コウタさん、あのモンスターはもしかして」
「ああ、喋ったよな?」
頭部が消失したゴリラの向こう側にいる巨大な赤い豹。
全身が返り血を浴びたかのような真紅の毛並み、ギョロギョロとした金色の瞳。見ただけでヤバいモンスターとわかる。
赤い豹はトラックを睨みつけると、口をパカッと開けた。
『警告』
「え?」
タマが何か言う前に、フロントガラスに何かが突き刺さる。
割れこそしなかったが、視界がひび割れに染まった。
それだけじゃない、真っ赤な豹は姿を消していた。
「ななな、なんだこれ⁉」
「ご主人様、上だよっ‼」
コハクが叫ぶが、俺はパニックになっていた。
トラックを走らせる事を忘れ、何故かトラックの天井を眺めていた。
すると、車体が揺れてギシギシと軋む音が響く。
「どっわぁぁっ⁉」
「きゃぁぁぁっ⁉」
「ご主人様っ、わたし戦う‼」
「ちょ、待った‼」
コハクが外に出ようとするのを止めるため、俺は運転席ドアのドアロックを操作して出れないようにした。
「ちょ、何が起きてんのよ‼」
「社長、ミレイナ、コハク、無事ですか‼」
後部からシャイニーとキリエの心配する声が聞こえる。
落ち着け、あの赤い豹は敵だ。
多分、トラックの荷台の上に乗って暴れてるんだろう。
「タマ、こいつは何なんだよ⁉」
『識別確認。災害級危険種『豹帝オセロトル』と確認しました』
「さ、災害級だと⁉」
『トラックフォームでは不利です。直ちに変形を』
「わ、わかった」
『うなーっ‼』
暴れるしろ丸を抱えたまま俺は叫ぶ。
「デコトラ・フュージョンッ‼」
「きゃあっ‼」
「わわっ‼」
「え、ちょっ‼」
「あら?」
助手席のミレイナとキリエが座席ごと後部へスライドし、シャイニーとキリエが巻き込まれるように姿を消した。
『ぬうっ‼』
聴き慣れない声が聞こえ、赤い豹がトラックから弾かれる。
視界が高くなり、お馴染みのコックピットへ移動した。
「デコトラカイザーっ‼ 配送開始っ‼」
カッコいいポーズを決めて変形完了。
俺は目の前の赤い豹をようやく観察できた。
『ほう、鉄の巨人か······人間は面白い物を作るな』
「そりゃどうも。あのー、何か御用で?」
『ふ、ただの狩りだ。それにこのニオイ、ヴァルナガンドがそこに居るな?』
「は? ヴァルナガンド?」
聴き慣れない単語だ。
生憎ですが俺にはさっぱりわかりません。
『なうぅぅぅっ‼』
「っと、こらしろ丸、落ち着け」
『うなぁぁぁっ‼』
俺は太腿でしろ丸を挟み動きを封じ、コントローラーを持つ。
災害級とのバトルは二度目。とは言ってもガチなバトルは初めてだな。
『この先の集落を襲う前に腹ごしらえをしようと思ったが、まさかお前に会えるとはな。あの時確かに殺した筈だが何故生きてる?』
さっきからこの赤い豹は何を言ってるんだ?
太腿で挟まれたしろ丸はパタパタ暴れてるが動けないみたいだ。フワフワとした感触が気持ちいい。
『まぁよい。狩りの続きと行こうか‼』
『警戒』
「うぉっ⁉」
再び何かが発射されデコトラカイザーのボディに突き刺さる。
口を開けたと思ったら散弾銃のように何かが発射された。
『射出されたのは《牙》です。どうやら敵は何度も歯を生やす事が可能なようです』
「なんだよそれサメかよ⁉」
それよりも不味いのは、このスピードだ。
縦横無尽に周囲を動き回り散弾銃のような牙を飛ばしてくる。
『警告。人間の動体視力を上回る速度での攻撃です。社長の動体視力では攻撃を当てる事は困難』
「じゃあどうすんだよっ‼」
ボディには牙が何本も突き刺さり、ダメージこそ少ないが確実にボディが削られている。
動きの遅いブルでは対処出来ないし、耐久力が弱いユニックでは更に対処出来ない。
「あ‼ 追尾ミサイルは⁉」
『障害物が多数。使用は不可能』
「くっそ、とりあえずドライビングバスターっ‼」
『了解。ドライビングバスター召喚』
虚空から現れたドライビングバスターを握り、俺はメチャクチャに剣を振り回す。
「おりゃりゃりゃりゃりゃっ‼」
『馬鹿め、無駄だっ‼』
「どっわぁぁっ⁉」
背後から赤い豹が体当たり。バランスが崩れて前に倒れてしまった。
完全におちょくられてる、というか姿がまるで見えない。
デコトラカイザーの弱点、つまり操縦士である俺のスペック以上のスピードで翻弄されている。
「くそ、まずいな」
『社長。提案があります』
「よし来た‼」
タマの提案に外れはない。
実に頼りになる相棒である。
『敵を分析した結果、右後足に深い傷跡がありました。恐らくこれ程の速度を維持したまま戦闘を続けるのには限界があります』
「えーと、つまり?」
『このまま攻撃を耐え続け動きが鈍った瞬間を狙うのです』
「え、じゃあそれまではサンドバッグ?」
『はい』
「はぃぃ? どわぁぁっ⁉」
デコトラカイザーの車体が揺れてまた倒れてしまった。
『ハハハハハッ!! どうしたどうした!!』
「このやろっ!!」
剣を振り回すが当たらない。
体勢を立て直して耐えるしかないようだ。
「ぐぬぬ……」
『ふん、硬いだけの木偶の坊め。この程度では準備運動にもならん』
言いたい放題だな。
デコトラカイザーはしゃがみ込み、身体を丸めてジッと耐えている。
散弾銃のような牙が何百発も突き刺さり、ボディがボロボロになっていく。
すると飽きてきたのか、豹がデコトラカイザーの目の前に来た。
『つまらん。おい人間、少しは真面目に戦ったらどうだ? それにヴァルナガンドも居るのだろう?』
この距離ならドライビングバスターは当たる、だけどこの豹は当たらない自信があるのだろう。
ちくしょう、完全に嘗められてやがる。
これも全て俺のせいだ、つーか人間の反射神経で捕らえられる敵じゃない。
「………ヴァルナガンドって何だ? 俺はそんなやつ知らんぞ」
『ふん、惚けても無駄だ』
『なうなうなうっ!!』
「お、おいしろ丸っ!!」
しろ丸が俺の股で大暴れ、太ももに挟んで動きを封じてるが徐々に抜け出して来た。
やがて俺の太ももから逃れると、コックピットのフロントガラスに体当たりを始めた。
「こら、やめろ!!」
『うなーっ!!』
その叫び声は、外の豹も聞いていた。
そして面白そうに顔を歪める。
『ハハハハハッ!! なんと情けない声と姿だヴァルナガンド。生きていたのにも驚いたが……なるほど、使えぬ部分を捨てて肉体を作り替えたのか。そうまでして生に執着するとは、よほどオレが憎いようだな』
『なうーっ!!』
「へ?」
豹は楽しそうに続ける。
『何だ人間、まだ気が付かぬのか? そいつは『臥狼ヴァルナガンド』……オレの弟だ』
「え、は? しろ丸が……弟?」
フロントガラスに体当たりするしろ丸は、いつもと変わらずモコモコしていた。