122・勇者のお話⑤/作戦会議・作戦開始
*****《勇者タイヨウ視点》*****
オレたち勇者パーティーは一つの決断を迫られてる。
ホーリーシット城の会議室で、ブルクマンとかいう不潔な研究者が頭をボリボリ掻きながら言う。おいおい、フケを飛ばすんじゃねぇよ。
「つまりぃ、どちらの集落を行くかという事ですねぇ。場所も距離もかなり離れてる……アテが外れれば、どちらかの集落は滅びますぅぅ」
そう、災害級危険種の豹は小さな集落から狙う。
めぼしい集落は殆ど壊滅し、残った集落は二つ。距離もかなり離れてるし、先に向かった方に豹が現れればいいが、もし外れたら残ったもう一つの集落は滅びてしまう。
確率は半々……分の悪い賭けだな。
「……あの、他に何か法則性はないのでしょうか?」
「う~ん、残念ながら……報告では知性の高いモンスターと聞いてますので、もしかしたらこの状況は意図的に起こしたと言う事も考えられますねぇぇ」
「んだそりゃ、じゃあ何か? 災害級危険種はオレらをおちょくってんのか?」
「タイヨウ殿、落ち着いて……」
「……悪いウィンク」
くそ、なんかイライラする。
オレら勇者パーティーの事は『六王獣』達にバレてるらしいし、この状況を作り出したのが豹の仕業なら大したモンだ。作戦は成功してるぜ。
「………どうする、太陽」
「…………」
この決断は、重い。
この選択次第で、多くの命が失われる。
「あの、集落の方々の避難は……」
「えぇと、その……通告はしたのですが、先祖代々の地を離れる事は出来ないとぉぉ……ははは、申し訳ありません」
「流石は宗教国家ですね。騎士として尊敬しますし、古きを重んじるのは素晴らしいですが、状況が状況ですし……」
「我々も何度か通告したのですがねぇぇ……」
つまり、やっぱりオレたちが選択しなくちゃいけない。
ホーリーシットから集落に向かうとなると数日、そこから更にもう片方の集落に向かうのにも数日。いつ来るかわからない相手だ、やはり待つしかない。
「くそ、パーティーを分けるのは……」
「ダメよ。災害級危険種相手にはリスクが高い。それに相手の狙いがまさにそれかも知れないし」
「でもよ、オレらには新兵器があるぜ」
「バカ、ぶっつけ本番の新兵器なんて使えるワケないでしょ。アクセルトリガーは時間に余裕が出来たときに練習するために持ってきたのよ」
「へ、オレなら」
「ダメ、そもそも『鎧身』すら使いこなせないのに、アクセルトリガーの解放形態なんて使えるワケないでしょうが」
「…………」
グゥの音が出ないとはこのことだろうか。
ヒーローに新形態はお約束なのに。
「えぇ~、それでどうします? ミギの集落とヒダリの集落、どちらへ?」
「…………」
変な名前の集落だがわかりやすい。
ミギかヒダリか……オレは月詠・煌星・ウィンクを見る。
「オレが決める。行くのは……ミギだ」
「ちょ、太陽!?」
「太陽くん!?」
「タイヨウ殿!?」
悪いが異論は認めない。
ブルクマンは大きく頷くとニッコリ笑った。なんかキモい。
「わかりましたぁ、では馬車を用意させますんで、本日はゆっくりお休み下さいぃぃ」
そう言って、ブルクマンは部屋を出た。
入れ替わりにメイドが数人部屋に入ってきて、オレたちはそれぞれの部屋に案内される。
出発は明日。今日はゆっくり休むとしよう。
その日の夜。
てっきり王様とか一緒の会食かと思ったが、そんなことは無かった。やっぱ忙しいのかね。
オレは与えられた自室でまったりしていると、ドアがノックされる。
「はいはーい、タイヨウでございますよー」
「何言ってんのよあんた……」
月詠がジト目でドアの前にいた。
まぁ、誰か来そうな気はしてた。それが月詠だって事も納得だ。
「何か用か?」
「いいから、入るわよ」
月詠は流れるように部屋の中へ入り、備え付けの椅子に座る。
シャツに短パンという色気もへったくれもない格好だ、だがそれがいい。
「あんた、なんでミギの集落を選んだの?」
「………」
唐突に本題か。明日も早いしさっさと聞きたいんだろうな。
「別に、勘だよ勘。右か左って言ったらオレは右なんだ。右利きだからな」
「そう……なら、どうしてあんたが決めたの?」
「あん? そりゃオレが勇者パーティーのリーダーだからな。決めるのはオレだろ」
「それだけ?」
月詠は厳しい表情でオレを睨む。
くそ、やっぱりこいつは気が付いていたか。
「あんた………あたし達に、責任を負わせたくなかったんでしょ?」
「………」
「もし片方の集落が全滅でもしたら、あたしやウィンクはともかく、決断に荷担した煌星は立ち直れないかもしれない。あの子は誰よりも優しいからね」
おいおい、オレは煌星だけじゃなくて月詠やウィンクも気を遣ったんだが。
まぁそうだよな、わかっていたがメンタルは強い。
「ま、オレも男だ。カッコくらい付けさせてくれ」
「バカね……」
月詠は額に手を当ててヤレヤレと首を振る。
「ウィンクはともかく、煌星は気が付いてるかもね」
「そうか?」
「ええ。あの子は鋭いから、きっとここに来るわ。だからあたしが先に来たのよ」
「なんで?」
「………それはその、二人きりなんてしたら……その」
「………」
なるほど、言いたいことはわかった。
確かに、いい雰囲気になったら煌星を押し倒すかもしれない。
でも、ちゃんと言っておくぜ。
「心配すんな、そういうのはクリスが戻ってからだ。ちゃんと順番を決めないとクリスが怒るからな」
「…………あっそ」
呆れたような月詠の視線。
すると、部屋のドアが控えめにノックされた。
翌日。オレらは城の前に集合した。
「さぁ皆さん!! 張り切って行きましょう!!」
「お、おう。どうしたんだよウィンク」
「いえ、勇者パーティーの初任務ですので気合いを入れようと思いまして」
ウィンクはお団子に纏められた蒼い髪と瞳を煌めかせる。
「私はずっと考えて……決めたのです。この勇者パーティーの一員として任務に尽くそうと、そして皆さんと共に最後まで戦い抜くと」
「ウィンク……」
「だからタイヨウ殿、改めましてこれからもよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
ウィンクは騎士っぽい礼をして馬車の近くで話し込んでる月詠と煌星の元へ。
どうやら朝の挨拶と決意表明をしてるらしい。
「ま、決めたのはオレも同じだ」
どんな結果になろうともオレは命を背負う。
確率は半々、ミギの集落に災害級危険種が現れてくれるといいけど。
「太陽、出発よ」
「ああ」
オレは三人の美少女の元へ。
馬車に乗り込みミギの集落へ向かう。
「さぁ、出発だ!!」
馬車はゆっくりと走り出した。