表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第10章・トラック野郎と様々な事情』
119/273

119・ハートオブビースト④/歓迎と肉の丸焼き

 ヴァルナガンドは血のニオイの場所に到着した。

『やはりモンスターか』

 そこに居たのは負傷してる数人の人間と、全身が鎧のような筋肉に覆われたゴリラのようなモンスターだった。

「な、なんだ!?」

「くそ、新手か!!」

 人間はヴァルナガンドを見て絶望する。

 目の前のゴリラのようなモンスターでさえ太刀打ち出来ない相手なのに、さらにモンスターが現れたのだ。ここで諦めても可笑しくない状況だったが、ヴァルナガンドの取った行動はシンプルだった。

『慌てるな人間、貴様等を助けてやる』

「しゃ、喋った!?」

「おいおい、喋るモンスターなんて初めて見たぞ!!」

 この瞬間、ヴァルナガンドは殺意をゴリラに向ける。

 ゴリラは隙だらけの人間を襲うことなく、注意をヴァルナガンドに向ける。

 そして悟る。

『ゴ、ゴ、ゴァァァ……』

『ふん、力の差くらいは計れるか』

 ゴリラは、勝ち目がないことを既に悟っていた。

 ガタガタ震え、ヴァルナガンドに向けて頭を下げる。

『我に服従を選ぶか……ならば、この山から去れ』

『ガ、ガァァァァッ!!』

 そう命じると、ゴリラは一目散に走って逃げた。

 人間達は、その光景をポカンと見つめていた。

「あ、あの……」

『拾った命、ムダにするな』

 それだけを言い、ヴァルナガンドは去ろうとした。

 だが、人間の一人が勇敢にもヴァルナガンドを引き留める。

「あの!! ありがとうございました!!」

『気にするな、ただの気まぐれだ……』

「それでも、命を救って頂きました!! その、何かお礼を……」

「お、おい」

 人間の一人が人間を引き留める。

 流石に心を許しすぎと警戒してるのだろうか、だがヴァルナガンドは聞いてみた。

『…………ちと、腹が減ったな』

「え?」

『お前ら、肉を焼いて調理する事は出来るか?』

 ヴァルナガンドは、エゾと食べた肉の味を思い出していた。




 人間に簡単な手当をして、彼らが住む集落に案内して貰った。

 その道中、何匹かのモンスターを狩り食材にする。

「オレたち、この近くの村に住んでるんですけど、この山にはよく狩りに来るんです」

「今日は獲物がなかなか捕れなくて……それで、普段は行かない場所に踏み込んだらこのザマです」

「でも、貴方が来てくれたおかげで助かりました」

 人間の数は三人。

 それぞれアイド、ガム、ドドルという名前があるらしい。

 ヴァルナガンドは名乗らず、彼らの歩調に合わせながら歩いていた。当然だが人間に背中を赦すという事はしなかった。

 その代わり、ヴァルナガンドの背には先ほど仕留めた野生のビッグオークが乗っている。

『我が村へ入ると騒がしくなるぞ』

「いえ、構いません。命の恩人ですから、精一杯もてなしをさせて下さい」

「当然ですよ。騒ぐ奴等がいたらオレがぶっ飛ばします!!」

「おいドドル、悪いがオレも加勢するぜ」

 この三人は村でも最高の腕を持つ猟師らしい。

 聞いてもいない事をペラペラ喋るのは鬱陶しかったが、ヴァルナガンドに対して全く恐怖は感じていない。むしろ長年の友に対するような距離で接してきた。

『人間とは不思議なものだ……』

「え? どうしたんですか?」

『ふん』

 ヴァルナガンドは苦笑した。

 オセロトルとの合流まで時間はある。久し振りの調理された肉に少しウキウキしている自分がいると、ヴァルナガンドは理解していた。

「あ、あそこがオレ達の集落です」

 アイドが指さした先には、小さい村があった。

 木々に囲まれた小規模の村だ、村民は一〇〇人も居ないだろう。

「帰ったぞー」

 ガムが声を上げると、家から何人もの子供や大人が現れ……。

「う、うわぁぁぁぁっ!?」

「ば、バケモノだぁぁぁっ!!」

「ももも、モンスターッ!!」

「わぁぁ、かっこいいオオカミだぁぁぁっ!!」

 大人は逃げ惑い、子供達は目を輝かせた。

 巨大なオオカミに近づこうとする子供を親が引き留め、必死になって逃げようとしてる。

「おい、この御方はオレたちの命の恩人だ!! 失礼なこと言うなっ!!」

「そうだそうだ、見ろこのオーク肉を」

「さ、村長を呼んでくれ」

『おい、肉を』

「はい、それでは村の中央までご案内します。しばしお待ち下さい」

 ヴァルナガンドは三人に案内され、村の中心広場に来た。

 村人は家に引きこもり誰も居ない。ヴァルナガンドはオーク肉を広場に降ろした。

「では、村長の所へ行ってきます。その後すぐに肉を調理しますので」

『ああ、手早く頼むぞ』

 三人が居なくなり、ヴァルナガンドはその場に横になる。

 人付き合い、という物だろうか。

 人間とは面倒だなと再確認し、ヴァルナガンドは大きな欠伸をした。

『………ぬ?』

「…………」

 すると、目の前に小さな人間のメスがいた。

 ヴァルナガンドを見上げ、ジッと見てる。

『…………』

「…………」

『何だ、娘』

「ねぇ、触っていい?」

 全く遠慮も恐怖もなかった。

 この瞬間にでもこの小さな娘を丸呑み出来る距離だ。

 だがヴァルナガンドは、スンと鼻を鳴らし無視をした。

「わぁ、ふかふか」

『ぬ?』

「あったかーい……」

 鼻を鳴らしたのを許可と取ったのか、娘がヴァルナガンドのお腹部分に顔を埋めていた。

 フカフカと気持ちいいのか、娘はすぐに寝てしまった。

『………ふん』

 それを咎めることなく、ヴァルナガンドは大あくびをして目を閉じる。

 敵意や殺意を感じたらすぐに目が覚めるし、あの三人が戻ってくるまで一眠りする。

 睡魔は、すぐにやって来た。




 ふと気が付いた、身体が重い。

『…………な、これは』

 目が覚めたヴァルナガンドが見たのは、自分の身体にもたれ掛かる何人もの子供達だった。

 もたれ掛かるだけではなく、身体をよじ登り眠ってる子供も居る。

 敵意や悪意、殺意などは全く感じなかった。だからこそ気が付かなかった。

『おいお前ら!! 我の身体を寝床にするな!!』

 身体を揺すると子供達が一斉に起き、ワーワーキャーキャー騒ぎ出す。

 その叫びは恐怖ではない、イタズラがバレた時の子供の声だった。

 そして、フワリと漂う肉の焼ける香り。

『ぬ、これは……』

「あ、おはようございます。もうすぐ焼けますので」

 広場の中央には大きな特注かまどが作られ、オーク肉は豪快に丸焼きとなっていた。

 ポタポタと肉汁が垂れ、村全体を香ばしい香りが包み込む。

 それだけではない。何故か周囲には大樽や机が準備され、何人もの人間が忙しそうに動いていた。

 ヴァルナガンドは訝しみ、肉を焼くドドルに聞く。

『おい、何が始まるんだ』

「ああ、宴ですよ。あなた様に感謝の気持ちを込めた宴です。所でお酒は飲めますかな?」

『う、宴だと? それと酒?』

「はい、オーク肉はもちろん、料理もたくさん作りますので期待して下さい」

『ぬ、だが、人間は我を歓迎していないようだったが……』

「ああ、子供達が貴方様に懐くのを見てすぐにわかりましたよ。なので問題ありません」

『…………』

 こうして、宴が始まった。

 村の住人はヴァルナガンドに感謝し、歓迎した。

 三人の猟師を救った救世主であり、神の使いとまで言われた。

 オーク肉の丸焼きを豪快に皿に出され、ヴァルナガンドはその肉を貪る。

『……………美味い』

 塩こしょうを効かせた絶品のオーク肉。

 調理が加わると、肉はこうも美味くなる。

 この味をオセロトルに伝えたいと思いつつ、オーク肉をガツガツ食べる。

「救世主さま、よかったらこちらをどうぞ!!」

『なんだこれは……ぬぅぅっ!? く、なんだこれはっ!?』

「何って、お酒ですよお酒。い~い気持ちになれますぜ?」

『くはっ、これは……ムリだ!!』

 酒のきついニオイに当てられ、ヴァルナガンドは顔をしかめる。

 救世主は酒が苦手、それを見た村人達は大笑いする。

 村の広場は、いつしか祭り会場のように騒がしくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ