118・トラック野郎、コハクVSバイオプラント
デコトラカイザーに変形する事なくグリーン平原を抜けることが出来た。
後は『ムーワ密林』を抜ければ聖王国ホーリーシットだ。長いようで短い旅だ。
見慣れない街道を進み、助手席でしろ丸をモフるシャイニーに聞く。
「なぁ、ムーワ密林ってヤバいのか?」
「う~んフカフカぁ~……え、何か言った?」
『うなぁ……』
聞けよおい。
しろ丸に頬擦りするのはいいけど、何かイヤそうに見えるのは気のせいじゃないだろうか。
「ムーワ密林だよ、ヤバいのか?」
「ああ、あそこは超危険種だけじゃなく、超々危険種もいる危険区よ。ヤバさで言ったらコロンゾン大陸並かもね」
「え」
危険とは聞いていたが、そこまでとは知らなかった。
超危険種は何度も会ってるが、超々危険種は玄武王しか会ってない。それ以上にヤバい災害級危険種は瞬殺だったから基準がわからん。
「ま、今までが今までだからねぇ……ぶっちゃけアタシは心配してないわ。このトラックなら超々危険種どころか災害級危険種が群れで来ようと蹴散らせそうだしね」
「そりゃ言い過ぎだっつーの。操縦すんのかなり怖いんだからな」
「それはあんたがビビりなだけよ。ねーしろ丸」
『うなーお』
「ぐ……」
反論できん。
認めたくないがビビってるのは事実だからな。
「ちなみに、ムーワ密林は聖王国ホーリーシットの領内でもあるわ。密林を向けた先に小さな村があったはずよ」
「お、じゃあ買い出しが出来るな」
「ええ」
【ドライブイン】があれば食料に困ることはないが、この世界で生きていく以上、あまり楽をしすぎるのも良くないと思う。郷に入っては郷に従え、異世界で生活する以上はこっちの生活に合わせないと。
とはいえ、楽したいときもあるから、その辺は臨機応変でな。
『なうなう』
「ん、どうした?」
『なうー』
しろ丸がシャイニーの手から離れ、俺の膝にコロリと転がる。
甘えてるのか、俺は優しくフワフワと撫でる。
『うなー……』
「よしよし、お前はホントに可愛いなぁ」
「もう、しろ丸ってばアンタに一番懐いてる気がするわ」
相変わらずよくわからん生き物だが、可愛いのでよしとする。
それから暫くトラックを走らせると、前方に巨大なジャングルが見えてきた。
『前方三キロ先に《ムーワ密林》を確認』
「よし、今日は入口で休むとするか」
「そうね。さーてご飯ご飯、今日のご飯はなにかしら~」
トラックを密林入口に停車させ、俺とシャイニーは居住ルームへ向かう。
すると、いつの間にかしろ丸が起きていた。
「……しろ丸?」
『………』
しろ丸は、密林をジッと見たまま動かなかった。
翌日。予定通りムーワ密林を進む。
「森……っていうか、ジャングル?」
「なんだか不思議な場所ですね」
今日の相方はミレイナ。もちろんしろ丸も一緒だ。
ミレイナに抱っこされたしろ丸は今日も大人しい。
道は草木が踏みつぶされたような獣道、木々は大小様々な形をしてる。
樹木のツタや大きな葉っぱが無数に絡みつき、そこを気味の悪い昆虫が闊歩してる。
毒々しい花や食虫植物、木の上を移動する一般種モンスターのサルやリスが、トラックに怯える事なく移動してる。
トラックは草木を踏みつぶしながら進む。
この程度なら問題ない。今のトラックならどんな地形でも進む自信はあるぜ。
『外気温三四度。湿度八五パーセントです』
「うげ、マジかよ」
とんでもない場所だ、外に出たらムシムシして気持ち悪くなる。
冷房の効いたトラックはマジ天国。ありがとう文明の利器。
とはいえ、少し気になる。
「ちょーっとだけ窓を……うぅわっ……」
窓を開けた瞬間、気味の悪い熱気と動植物の香りが車内を満たす。
『………っなうなうなうっ!!』
「わわ、しろ丸?」
「悪い悪い、すぐ閉めるよ」
『なうなうなうっ、なうなうなうっ!!』
しろ丸が大騒ぎだ。
俺は手を伸ばし、しろ丸を撫でて大人しくさせる。
『警告。モンスター反応あり。超危険種モンスター《バイオプラント》確認』
「え、どこだ!?」
次の瞬間、トラック全体に何本ものツタが巻き付いた。
ツタはトラック全体に巻き付き、ギシギシと車体を締め上げてる。
しろ丸は吠え続け、タマは感心したように言った。
『なうなうなうっ、なうなうなうっ!!』
『社長。しろ丸様はこのバイオプラントの存在を嗅ぎ付け警告を発していたようです。生体反応が希薄すぎてここまで接近されるまでトラックのセンサーに反応しませんでした。しろ丸様の嗅覚は限定条件下ではトラックを上回ります』
「言ってる場合か!! ええと、高周波ブレード展開!!」
『畏まりました。高周波ブレード展開』
【サイドバンパー】が展開し、黄金の刺身包丁がツタの一部を斬り飛ばす。
だが、高周波ブレードは左右に広がって展開するだけでトラック全体のツタを斬り飛ばす事は出来ない。しかもツタはすぐに復活して更に巻き付いた。
「くそ、モンスターはどこだ?」
「ここからじゃよく見えません、本体の位置がわかりません!!」
視界が悪い。
俺とミレイナが見えるのはフロントガラスとパワーウインドウだけだ。
『位置特定。バイオプラントは真上に居ます』
「真上ぇ!? おいおい、なんか武装で吹っ飛ばせないのか!?」
『武装展開不可能。ツタが絡みつき武装が起動しません』
「マジで!? おいおいどーしよう!!」
話をしてる間にもツタは増え、トラックは軋む。
『バイオプラントは樹木に擬態し、通り掛かった獲物を無数のツタで捕獲し締め上げて殺害。そのまま養分にするモンスターです』
「落ち着きすぎだっ!! なんか作戦は!? デコトラカイザーか!?」
『はい。デコトラカイザーの変形か『エブリストライカー』の使用をお勧めします』
「え、エブリストライカー? ああ、デコトラウェポンか!!」
『はい。正式ドライバーのコハク様に運転してもらい、このツタを斬り飛ばすのです』
「え?」
意味がわからん、どういうこった?
『コハク様に救助を要請しますか?』
「え、ああ……頼む」
『畏まりました』
すると、フロントガラスにダイニングルームの様子が写された。
クリスはソファで寝転がりキリエは読書、シャイニーはジュースを飲みコハクは椅子に座ってボーッとしていた。めっちゃ暇そうだな。
「コハク、聞こえるか!!」
『………あれ、ご主人様? なにこの窓?』
「悪い、助けてくれ!! モンスターに襲われてるんだ!!」
すると、コハクの表情が一瞬で引き締まる。
『今行く』
「ちょっと待った、タマ、どうするんだ?」
『エブリストライカーに転送します』
『え、わわわっ!!』
次の瞬間、コハクの姿が消えた。
「こ、コウタさん、あそこ!!」
「え」
同時に、トラックの目の前にエブリーが現れた。
トラックのフロントガラスには運転席に座るコハクの顔が見える。
『なにこれ……あれ、エブリー?』
『コハク様。エブリストライカーの装備を使いトラックの救助をお願いします』
『………………わかった』
コハクは考えるのを止めたのか、ハンドルを握る。
目の前にはツタでグルグル巻きのトラックだ。
『これが敵だね』
コハクの視線は上空に。どうやらバイオプラントの姿が見えてるらしい。
『ジャアァァァァァッ!!』
すると、唸り声が聞こえてきた。
どうやらバイオプラントがエブリーを認識したらしい。
『ジャアァァァァァッ!!』
『行くよ、エブリー』
コハクはエブリーを走らせ、襲い来るツタを華麗に躱す。
すげぇ、映画のカーアクションみたいな動きだ。
『エブリストライカーの属性は『雷』です。電撃を車体に纏い体当たりで攻撃できます』
『わかった』
すると、エブリーがバチバチと紫電に包まれた。
そういえばデコトラカイザーと合体したときも電気を出してたっけ。
『さぁ、遊ぼうかエブリー』
コハクは襲い来るツタを紫電で弾く。
するとバイオプラントのツタが弾かれて電熱で燃える。
「おお、こりゃいけるぞ!!」
「コハク、頑張って!!」
『なうなうなうっ!!』
俺たちはすっかり傍観者だ。
コハクのカーアクションにすっかり見とれてる。
『ご主人様ご主人様、エブリーって壊れない?』
「へ? ええと、どういう?」
『ジャンプしても平気かな?』
『問題ありません。破壊されてもポイントで修理可能です』
『わかった』
ええと、何が?
その意味を理解したのは直後だった。
『エブリー、パワー全開』
紫電が爆発的に弾け、コハクが目一杯アクセルを踏んで突っ込んできた。
バイオプラントのツタがエブリーに一斉集中し、流石のエブリーも全てを弾くことが出来ずに押し返される。
だが、コハクの狙いはそこにあった。
『とどめ、行く』
「え」
コハクはドアを開け、エブリーを乗り捨てた。
そして、一斉集中したツタを伝ってバイオプラントの本体へ。
両手両足に装備された『破龍拳グラムガイン』から三本爪が伸び、コハクに襲い来るツタを意図も容易く切り払う。
『やぁぁぁぁっ!!』
「コハクッ!!」
「コハク、ムチャすんなっ!!」
ツタを切り払い、コハクはバイオプラントの本体に爪を立てた。
『ジャアァァァァァッ!?』
苦しんでるのか、トラックを拘束してるツタがビチビチ動く。
コハクの爪はバイオプラントの頭部分に深々と刺さり、かき回すように手を捻る。
『ご主人様から……離れろっ!!』
『ジャガァァッ!?』
右手の爪を引き抜き、再び突き刺す。
それがトドメになったのか、トラックを拘束していたツタが緩み朽ちていった。
『生命反応消失。お疲れさまでした』
こうして、バイオプラントはコハクにより討伐された。
コハクを回収して助手席にミレイナと座らせる。
「ありがとうコハク、助かったよ」
「えへへ、ご主人様を守れた」
「凄くかっこよかったです、コハク」
『なうなうー』
俺は手を伸ばしてコハクの頭を撫でると、コハクはくすぐったそうに微笑む。
やっぱ可愛いな。小動物みたいな愛らしさがコハクにはある。
すると、後部の確認用窓からシャイニーとキリエが覗いていた。
シャイニーは窓をガンガン叩き言う。
「ちょっと、モンスターはどこ?」
「終わったよ、コハクがやっつけた」
「はぁ!?」
「いきなりコハクが消えたので驚きましたが、何があったのですか?」
どうやら心配を掛けたようだ。
ちゃんと説明をするためにみんなで居住ルームへ向かおうとした時だった。
『警告。超々危険種モンスター反応あり。《ビリジアンゴッドコング》確認』
「は?」
このタイミングで超々危険種モンスターかよ。
俺とミレイナとコハクはフロントガラスを見た。
『前方二三メートル、一五、一〇……』
「は、早いな……………え」
現れたのは、ボロッボロのゴリラだった。
全身血塗れで片腕が消失している。
『ヒッ、ヒッ、ヒッ……』
なんだろう、まるで怯えてるような……何かから逃げてるような。
トラックの正面にボロボロのゴリラが現れた。
顔は恐怖に歪み、今にも泣き出しそうに見えた……そして。
『ヒィィィィィッ!!』
俺たちの目の前で、ゴリラの首は両断された。
あまりの光景に俺たちは声を失う。そして、ゴリラの身体がゆっくり倒れ、その背後にいた何かの存在が視界に入った。
『ふん、硬くて不味そうな肉め。オレにケンカを売ったのが運の尽きだ』
真っ赤で巨大な何かがいた。
大きさはトラックと同程度だろうか、まるで返り血を浴びたような真紅の豹がそこに居た。
『ん?……なんだこれは?………む、このニオイ?』
赤い豹はクンクンとニオイを嗅ぎ、ジロリとトラックを見る。
ヤバい、ヤバい、こいつはヤバい。
『なうぅぅぅぅぅっ!!』
「し、しろ丸?」
しろ丸が、全身の毛を逆立てて威嚇する。
真っ赤な豹は俺を……俺が抱えるしろ丸を見て言った。
『ほう…………生きていたのか、ヴァルナガンド』