117・トラック野郎、武装無双
グリーン平原の手前で、今日は休むことにした。
木陰にトラックを止めて室内へ。
「あ、コウタさん、キリエ、もうすぐ夕飯ですよ」
「えへへ、今日は私もお手伝いしたんだよっ」
「わたしも」
ミレイナの隣には、色違いのエプロンを着けたクリスとコハク。
シャイニーは………ソファで昼寝していた。
「しろ丸、シャイニーを起こして下さい」
『なうっ』
キリエに抱きかかえられたしろ丸は、キリエの胸から華麗にジャンプして着地。そのままチョコチョコ歩きでシャイニーの元へ。
『なう、なうなう』
「ん……あれ、しろ丸? ふふふ……ふかふか」
『うなー』
横になったままのシャイニーは、しろ丸を抱きしめてフカフカしてる。
あれ気持ちいいんだよな、抱きしめたくなる気持ちはよくわかる。
「シャイニー、ご飯」
「んん~……ふかふか」
「シャイニー、起きないとぶっ飛ばすよ?」
「あぁん!?」
あ、飛び起きた。
売られたケンカは買う主義のおかげか、コハクのおかげか、どうでもいい。
腹も減ったしメシだ。その後は……。
「あの、コウタさん。あそこの扉なんですけど……」
「ああ、あれね」
ミレイナが指さしたのは、居住ルームの奥に出来た通路。
その先にあるのは、見た目は研究所にでもありそうな最新式の自動ドア。そして透明なガラス製の自動ドアがある。
「あれは【武器庫】と【遊戯ルーム】に続く通路だ」
夕食が終わったら、確認してみるとしよう。
食事が終わり、全員で武器庫へ入る事にした。
「この扉、開けようとしても開かないのよ」
「わたしも本気で開けようとしたけどダメだった」
シャイニーとコハクが言う。
「自動ドアみたいだけど………」
試しにドアに触れる。
『指紋認証確認。ドア開きます』
「あ、指紋認証なのか」
すると、シュインと音を立ててドアが開き、室内のライトが自動で点灯した。
「お、ひろ……い」
「わぁ、なんか凄いですね」
「これが武器ぃ~?」
「黒い金属が壁に掛けられてますね……?」
「なんか硬そう」
「あ、剣もあるよ」
俺は驚いて動けなかった。
部屋は学校の教室くらいだろうか、壁一面にライフルやマシンガン、バズーカなどが掛けられてる。しかも壁際にはガラスケースがあり中には様々な拳銃が納められ、手榴弾や地雷などの武器や、よくわからない物がたくさんある。
しかも武器だけじゃなく防具もある。
鎖帷子やボディアーマー、軍服やらジャケット、鉄板が仕込まれたブーツや防弾チョッキ、警官隊が使うようなシールドまであった。
これはあれだ、アメリカとかにありそうなガンショップだ。
「は、ははは……最前線に行けそうだ」
ミレイナ達は興味深そうに物色をしてる。
俺は壁に掛けてある、どことなく見覚えのあるライフルを手に取った。
『M4カービン銃。ポイントを消費することでカスタマイズパーツを購入可能です』
「ハイダーはCQC対応か……」
ちょっと言ってみたかった。
ちなみに俺は格闘技の経験なんてない。
『奥のドアは射撃場となっています。訓練に限り弾数は無限となります』
「ご親切に」
ここで眼帯でも付けようか悩んでいると、コハクが俺を呼んだ。
「ご主人様ご主人様、かっこいいナイフがある!!」
「ナイフ? どれどれ」
ガラスケースを覗いてるコハクの元へ。
中には様々な形状のナイフがある。ケースを開けて一本取り出す。
「変な形だな」
「おぉー」
柄は円形で鐔の部分がレバーみたいになってる。
「なんだこれ?」
俺はレバー部分を引いてみた。
すると凄い速度で刀身が発射され、目の前にいたコハクをかすめて壁に突き刺さった。
「わぉ、びっくりした」
「すすす、すまん!! 大丈夫か!?」
「うん。避けようかと思ったけど当たらないから避けなかった」
「マジ!?」
すると、タマの声がイヤホンから聞こえる。
『スペツナズナイフ。ロック解除ボタンを引くことで刀身を発射させる事が出来ます。最高速度六〇キロ』
「言うのが遅いわ!! というか武器ってこんなにあったのかよ!!」
『レベルアップ時に入手していましたが、社長が説明を拒否したので』
「そうでした!! すんません!!」
これからはマジで説明を聞こう。
とにかく、俺の武装に関しては問題が無くなった。
完全装備すれば戦争にだって行けそうだ。絶対に行かないけどな。
もう一つの遊戯ルームには何もなかった。ただの広い空間があるだけで、ゲーム機やらを置くにはポイントが必要だ。だけどこれから先に戦闘の可能性がある以上、不必要にポイントは使えない。
パチンコ筐体やスロットを入れるなら、ゼニモウケに帰ってからだな。
翌日。俺たちはグリーン平原へ進み出す。
今日の助手席はクリスだ。勇者パーティーを乗せるのは太陽以来だな。
「お兄さん、グリーン平原はモンスターがいっぱい居るから気を付けて。動きが遅いモンスターなら逃げるのもアリだよ」
「そうだな。でもポイントが欲しいからなるべく倒すよ」
「ポイント?」
あ、そういえばクリスはトラックの仕組みを知らないんだっけ。
まぁ説明も面倒だしいいや。
「それにしても、凄い平原だな……」
「ここは人間世界で三番目に広いエリアだからね」
グリーン平原は、見渡す限り広大な平原だった。
障害物が殆ど無い。ウルフ系モンスターがシカみたいなモンスターを追いかけ回したり、巨大なゴリラやサイのモンスターが幅を利かせて歩いていたり、上空にはプテラノドンみたいなモンスターが飛んでいる。
こんな弱肉強食の平原をトラックで走るのか。
「よーし。タマ、機銃を用意しておいてくれ」
『畏まりました。[機銃]展開』
ハンドルの真ん中がパコッと割れ、中からガンコンが現れる。
それと同時に、サイドミラーが変形して砲身が現れた。
「わわ、何これ?」
「ま、見てろ」
さぁて、この弱肉強食の平原を駆け抜けますかね。
現れたのは、狼の群れだった。
トラックの背後から統率のとれた動きで追いかけてくる。
「お兄さん、ウェアウルフの群れだよ!!」
「ウェアウルフ……」
懐かしいな、この世界に来て最初に出会ったモンスターだ。
『社長。背後からでは[機銃]の射程外です。【リアバンパー】武装の[マキビシ]がよろしいかと』
「いいね、じゃあそれで」
『畏まりました。[マキビシ]起動』
すると、トラックのリアバンパーが開き、金属片がばら撒かれる。
『ギャウッ!!』
『キャインッ!?』
『ギャゥゥッ!!』
お、狼の群れがゴロゴロ転がるのが見えた。
マキビシ作戦は大成功。右手に握った意味の無いガンコンが泣けるぜ。
『左後方よりベヒーモス接近。迎撃を』
「べ、ベヒーモスっ!? お兄さん、危険種のベヒーモスが来たよっ!!」
「マジか!?」
助手席側のサイドミラーを見ると、灰色の身体をした巨大なウシの化物が追ってきた。しかもツノが凶悪な形に反り返ってる。あんなので突かれたらトラックなんて横転しちまうぞ。
『右後方よりビッグリザード接近。推測ですがベヒーモスとビッグリザードは競争をしていると思われます』
「じゃあ何だ、俺たちは二匹の景品ってか!?」
『はい。左右後方から攻めてくると思われます』
「えーと、じゃあ追尾ミサイルで!!」
『不可。追尾ミサイルはロックオンの必要があります。正面から対象を捉えないと発射出来ません』
「ウソだろオイ!!」
『社長。提案があります』
ここで俺はタマの作戦を聞いた。
相変わらずぶっ飛んだ作戦だが、たまには俺だってやるところを見せてやる。隣はクリスだし、かっこいい所を見せてやりたいしね。
「よ、よーし、やってやる」
「お兄さん、私は何をすれば!!」
「しっかり掴まってろ!!」
俺はアクセルを踏み加速する。
するとトラックはぐんぐんと速度を上げ、二匹から五〇メートルは離れる。
「まだ来てるか!?」
『はい。視認が可能な内は諦めることはないかと』
二匹はお互い数メートルの距離を保ち、競争するかのように迫って来た。
「ここでブレーキッ!! アンド、急カーブッ!!」
「きゃぁぁっ!?」
二匹から離れた所でブレーキを掛け、ハンドルを一気に切る。
車体の向きが半回転し、ベヒーモスとビッグリザードを正面から見据える。
「行くぞぉぉぉぉぉぉーーーッ!!」
「お、お兄さんっ!? なんでっ!?」
ギアを入れ再び加速。
今度はこっちから二匹のモンスターに向かって突っ込んでいく。
距離はあっという間に詰まり、二匹の雄叫びが聞こえた。
『ブシャァァァァァッ!!』
『シャガァァァァァッ!!』
怖い、メッチャ怖い。
巨大なウシの化物とトカゲの化物が大口開けて威嚇する。
俺は恐怖を叫ぶことで誤魔化した。
「タマーーッ!! 高周波ブレーーーードッ!!」
『高周波ブレード展開』
【サイドバンパー】が展開、金色の刺身包丁みたいな刃が飛び出し振動する。
俺は二匹のモンスターを間を通り抜け………終わった。
「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ジュパン!! といい音が響き、二匹の身体を両断した。
俺は速度を落としターン、モンスターの状態を確認する。
「わぁ……真っ二つだね」
「ありゃ完全に死んでるな……」
二枚に下ろされたモンスターはドバドバと血が流れ、グロい内臓が丸見えになっていた。
『社長。血液臭を嗅ぎ付けモンスターが集まる可能性があります。ここは待ち伏せし大量にポイントを』
「アホかふざけんな!? さっさと逃げるわ!!」
俺は慌ててその場から離れた。
とにかく、モンスターに会わないように平原から出よう。