11・トラック野郎、買い物する
ブルーパンツの少女は置いといて、まずは売却のために店主に挨拶をしよう。ミレイナが店主に挨拶し、俺も続く。
「こんにちは、先日はお世話になりました」
「おぉ嬢ちゃんか。二月ぶりだな、剣の調子はどうだい?」
なんとこの店主、2ヶ月前に来たミレイナのことを覚えてた。いるよなこういう人、一度喋ったり自分の店で買い物した客を忘れない人。
「そっちの人は······彼氏かい?」
「ちちち、違いますっ‼ コウタさんは命の恩人ですっ‼」
「そーかそーか、そんなに照れるこたぁない。嬢ちゃんは若いし締まりも良さそうだし、兄ちゃんも夜が楽しくて仕方ないだろう?」
「もーっ‼ そんなんじゃないんですってばぁーっ‼」
すげぇな。フツーにセクハラだぞ。
現代日本だったら逮捕レベル。それこそ通報したらそのまま御用だ。ミレイナが証言すれば実刑間違いなし。
この武器屋の店主、年齢は50代ほどだろうか。毛糸の帽子をかぶって丸眼鏡をかけたおじさんにしか見えん。武器屋ってより競馬場に居そうな感じ。
「それで、今日はどうした? 剣が折れでもしたか?」
「いえ、買い取りをお願いしたくて。それと······私、冒険者を引退したので、私の剣も下取りをお願いします」
「······そうかい。まぁ嬢ちゃんは冒険者に向いてないと思ってたし、いつかこんな日が来るとは思っとったが······」
「すみません······」
「謝るこたぁない。むしろ、わしは嬉しいんじゃ。嬢ちゃんのようなべっぴんさんが傷付くところなんぞ見たかないしの。さぁて、武具を持ってきな、査定してやろう」
「······はい」
なんか俺って空気だな。この武器屋のおじさんメッチャいい人だし。とにかくトラックから武具を持ってこよう。
俺とミレイナはトラックの荷台に積んだ武具を、何回も往復して運ぶ。今更だが結構な量だ。
「ふぅむ、大した量じゃな。それに破損もある······ほう、これはミスリルナイフじゃな。ミスリル製品は一流の冒険者の証。大したもんじゃの」
おじさんはブツブツ言いながら査定してる。
俺とミレイナは特に聞いてない。それどころか俺は店内の武具に夢中だった。キラキラの剣に槍、棍棒もあるし弓と矢もある。壁にはデカい大剣や斧が掛けられてるし、改めてここが異世界なんだと実感した。
「あの、コウタさん、先程の方なんですが······」
「ん? あぁ、さっきの青パンツか。そいつがどうかしたか?」
「あ、青パンツ······い、いえ。あの方なんですが、もしかしたらとんでもない人かも知れません」
「へ?」
確かに、とんでもないパンツだった。薄い青にプリッとしたお尻を包むパンツ。しかも少し食い込んだからか、破壊力がスゴいことに······って違うよね。
「蒼い髪、青いハイミスリルの鎧、そして背中に背負った2本の双剣『シュテルン&エトワール』······彼女はこの世界最強の7人の冒険者の1人、『蒼き双月シャイニーブルー』かも······」
「へ、へぇ〜······」
キッツいわぁ〜······何その厨二病みたいな名前。さすがにこの歳でそんな名前を聞いて目を輝かせるワケがない。むしろ痛々しくて目を背けるわ。
「確か年齢は19歳だったかな······私と2つしか違わないのに、あんなに凄い人が居るなんて······はふぅ」
「み、ミレイナ?」
恍惚の表情のミレイナ。もしかしてファンなのかな。
「お〜い、査定が終わったぞい」
「はーい。行くぞミレイナ」
「はっ⁉ は、はいぃっ」
トリップしてたミレイナは戻ってきた。よかった、このままだったら肩を揺さぶるかほっぺを張るかして意識を取り戻させないといけない所だった。
店主のおじさんの元へ戻り、査定の結果を聞く。
「汚れや破損が多かったが、値打ち物もそこそこあるな。むしろ武具よりアクセサリーの方が価値がある。コイツは魔力を込めた一品で、属性防御に秀でた一品じゃ。この手のアクセサリーは数が少なくての、武具と違って磨けばすぐに店に並べられるし、冒険者たちからの評価も高い」
「つまり、おいくらでしょう······?」
「うむ。装備品とアクセサリー、全て合わせて890万コインといったところかの」
「おぉっ‼」
「た、大金ですっ‼」
こりゃ驚き、かなりの高額だ。
おじさんはそれぞれの装備品を説明し、値段も説明してくれた。大金だがお金はあったらしく、金庫から札束を出してわざわざカバンに入れてくれた。
「ほれ、ありがとさん」
「ありがとうございますっ‼」
「店主さん、ありがとうございます」
「いやいや、嬢ちゃん、頑張れよ」
カバンを受け取り、おじさんに一礼して店を出た。
停車してたトラックに乗り込む。これで軍資金が出来た。後は必要な買い物して、いよいよ商人ギルドに物件を探しに行く。
「さーて、必要な物は······服と食材かな」
「はい。せっかくですし、町で食事しませんか? いいお店を知ってるんです」
「お、いいね。異世界の飲食店か」
大金が入ったからワクワクしてんのかな。ミレイナも少し興奮してるようだ。こんな時こそ落ち着かねば、俺の方が年上なんだし、キチンとしなくては。
そう思いつつ、ミレイナの指示でまずは服屋へ。
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「ここは冒険者御用達の服屋ですっ、デザインも然ることながら、機能性や丈夫さも兼ね備えたお店なんですよ‼」
「は、はい」
ミレイナの案内で着いたのは服屋だった。なんかすっごい興奮してるよこの子。
「それで、コウタさんはどんな服がお好みですか?」
「そ、そうだな······こだわりはないから、普通の動きやすい服で」
「わかりました、私にお任せ下さいっ‼」
「お、おお」
今着てるのは、会社支給の制服。
上下薄緑のツナギで、背中には会社名と会社のロゴがプリントされている。もし会社を興すなら、専用の制服とロゴが必要になるかもな。まだそこまではいいかな。
「コウタさんに似合うのは······今着てるジャケット風の上着は必要ですね。それにベルトとその「けんじゅう」を収める入れ物も欲しいですね〜」
「あ、あの、ミレイナさん?」
「あ、コウタさん‼ お好きな色はありますか?」
「と、特には······」
「そうですか。じゃあコウタさんに似合うのは······うん、やっぱり薄緑ですかね。それじゃコレなんてどうです?」
お昼を過ぎても服屋は終わらず、終わったのはお昼をだいぶ過ぎた頃だった。
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「申し訳ありません………」
「いや、いいって。それと服、ありがとな」
服屋から出たのはお昼が終わった頃、そして今はミレイナオススメのカフェで遅めのランチ。ミレイナはサンドイッチ、俺はパスタを頼んで食べていた。
俺の服は会社の制服みたいな、ツナギみたいな上下。ただし細部は少し変わり、上着がジャケットみたいになっている。そして腰にはベルトが巻かれ、デザートイーグルはホルスターに納めた。なんか警官みたいだな。
「そう言えばさ、ミレイナってどこに住んでんだ?」
「私ですか? 私は宿を借りて住んでたんですけど、依頼を終えたら冒険者を辞めるつもりだったので部屋は引き払いました。トラックに積んであるのが私の荷物の全てです」
「そっか……じゃあいい物件を見つけるまでトラック暮らしだな」
「はい……お世話になります。その代わり、料理と洗濯と掃除はお任せ下さい!!」
「ああ、頼りにしてる」
俺も1人暮らしだったから最低限は出来るけど、どれもミレイナには適わない。キッチンの使い方も一瞬でマスターしたし、料理なんて俺は足下にも及ばない。
「う~ん、今日は遅いし、商人ギルドは明日からにするか」
「はい。では町で食材を買いましょう。時間も時間ですし、夕飯は少し遅めにして、内容は軽くしますね」
「ああ、頼んだぜ」
会計を済ませて店を出る。そして町の八百屋や肉屋で買い物をして冷蔵庫を充実させる。トラックは馬車を停めるスペースに停車させ、今日は休むことにした。
ミレイナが料理してる最中、俺は運転席でタマと話していた。
「なぁタマ、これからどうなると思う?」
『………回答不能。マスターは運送会社を作るのでは?』
「そうだけどさ。よく考えたら800万ぽっちで物件なんて買えるのかな? やっぱ事務所は賃貸で借りるしかないのかな……」
『検索開始………800万コインの物件………検索完了。マスター、800万コインの物件の検索数は3件ヒットしました」
「マジっ!?」
『はい。しかしどれも物件の品質は最低です。倒壊寸前の小屋、家畜小屋、物置など、どれも事務所には不向きな建物ばかりです」
「なーんだ……」
大金が入って浮かれていたが、よく考えたらここは商業王国だ。建物がそんなに安いはずがない。それこそ新築一戸建てなんていくらするかわからん。考えただけでもゾッとする。
「じゃあ賃貸かぁ……」
『それも選択肢の1つですが、提案があります』
「ん?」
『建物を購入するのではなく、土地を購入するのは如何でしょう。国の中心からやや外れますが、800万コインで買える土地物件が存在します。その土地を購入し、建物は別に建てるのです。それなら低コストで安く仕上がります。それに建築過程でこちらの希望も出せますので』
「土地ぃ~~? でもよ、土地を買っても家を建てる金がないぞ? それこそトラックの駐車場にしかならんぞ?」
『はい。その通りです。なので、モンスター退治をして素材を手に入れ売却します。そうすれば《デコトラ》の経験値も増えますし、素材を売却して資金も入手出来ます。先ほど冒険者ギルドの依頼掲示板をスキャンしたところ、現在地から北東52キロの森林に、S級モンスター『ヴェノムドラゴン』が出現したとの情報がありました。討伐し素材を売れば、5000万コインの報酬が期待できると思われます』
「…………ほう」
確かに。いいアイデアかも。でもドラゴンかぁ………怖い。
「ちなみに、このトラックの装備で討伐は……?」
『可能です。機銃ではドラゴンの外皮を傷つけられません。ミサイルでは木っ端微塵に吹き飛んでしまうので、[レーザーカッター]か[高周波ブレード]の使用をおすすめします』
「うぅむ………」
ミレイナに相談して決めるか。さすがにドラゴン相手となると、怖すぎる。
「コウタさーん、ごはんですよ-」
「わかったー」
食事がてら、確認してみるか。