108・トラック野郎、ああ忙しい
*****《コウタ視点》*****
えー、現在の状況を説明します。
俺はギルドの依頼でミスリル鉱石を採取し、そこに超危険種アダマンロックトータスが現れた。そこで俺は華麗にモンスターを粉砕し、コハクの力を借りて巨大鉱石を荷台に積んで帰る最中だ。
ここまでは問題なかったんだが……その帰り道に問題があった。
「な、なんでクリスが……」
「ご主人様、知り合い?」
「あ、ああ。この子はクリス、キリエの妹だ」
「キリエの?」
俺は気を失ってるクリスを抱き上げ、呼吸を確認する。
胸は規則正しく上下してるが、顔色は悪い。
「取りあえず、会社に連れて帰るしか無いな」
俺だって男だ、クリスくらいの子供なら抱っこできる。
クリスを居住ルームのソファに寝かせ、急いでゼニモウケに帰ることにする。
一人じゃ淋しいだろうし、しろ丸を傍に添える。
「クリスだけってのが気になるな」
「そうなの?」
「ああ。仲間がいるはずだけど……」
着てる物は普通の服だが、かなりボロボロになっていた。
外套も汚れが目立つし、身体もかなり汚れている。
太陽達が一緒ならこんな格好では無いはず。何かあったと考えるのが普通だ。
「とにかく、ゼニモウケに帰ろう」
「うん。しろ丸、よろしくね」
『なうなうー』
しろ丸にこの場を任せ、急いでゼニモウケに帰ることにした。
帰り道、俺はすれ違う冒険者や馬車を注意深く観察しながらトラックを走らせた。もしかしたら太陽たちがクリスを探してるかもしれないと考えたからだが、その宛は外れた。
「ギルドへの報告は後にして、まずはオフィスへ向かおう」
「うん」
帰る頃には会社も閉まってるだろう。
クリスをゆっくり休ませてやらないとな。
こんな状態のクリスを見たら、キリエの奴はどんな反応をするだろうか。
そんな事を考えながらゼニモウケに到着。
寄り道をせず真っ直ぐ帰宅。ガレージにトラックを入れて気が付いたが、エブリーがちゃんと停車してあった。
「コハク、キリエを呼んでくれ。あとミレイナに客室の準備を頼んでくれ」
「うん。行ってくる」
コハクは二階へ向かい、俺は居住ルームへ。
クリスはまだ寝てる。少し熱があるようだ。
「ありがとな、しろ丸」
『うなーお』
俺はしろ丸をフカフカ撫で、クリスをお姫様抱っこする。
太陽じゃなくて申し訳ないが、ここは許して貰おう。
歩くとしろ丸はチョコチョコついてくる。こんな状況だが、しろ丸は可愛いね。
「クリスっ‼」
「しーっ、静かに」
「あっ······も、申し訳ありません」
キリエが感情を剥き出しにして詰め寄って来た。キリエは妹の事になると我を忘れるな。
「あぁクリス、何があったの······?」
「少し熱があるみたいだ。とにかく休ませよう」
「······はい。申し訳ありません、社長」
『なうー』
キリエはしろ丸を持ち上げ、胸に抱きしめる。
クリスを二階に運び空き部屋に向かうと、ミレイナがベッドメイキングをしていた。
「お疲れ様ですコウタさん。ベッドと着替えの支度は出来てます」
確かに、ベッドの上には着替えがあった。多分ミレイナの服だろうな。
「はーい、お湯が沸いたわよーっ」
「お、シャイニーか」
シャイニーが洗面器にお湯を入れて持ってきた。そっか、さすがに汚いままベッドに入れるのは気持ち悪いな。クリスを清潔にしてから休ませたほうが気持ちいいだろう。
「ほら、コウタは出ていきなさいよ」
「そうだな。後は任せる」
『うなー』
しろ丸がクリスの傍で尻尾を振っていたので、ソファの上にクリスを置く。するとしろ丸はジッとクリスを見ていた。
「しろ丸、クリスが気になるみたいだな」
「ま、邪魔にならないし別にいいわね」
後は女性陣に任せ、俺は退室した。
キリエ以外は居間で食事をし、キリエはクリスの傍で食事を取った。
熱もあるし、今夜は付きっきりで看病するらしい。
俺はキリエを呼び出して言う。
「キリエ、明日は仕事を休んでいいぞ。こっちは俺たちで何とかするから」
「ですが······」
「大丈夫です。キリエはお姉さんなんですから、クリスさんの傍に居てあげて下さい」
「ミレイナ······」
「そういうこと。配達はアタシとコハクで回ればいいし、コウタはミレイナと事務仕事をすればいいわ」
「わたし、がんばる」
「シャイニー、コハク······」
あらら、俺の考えてた人事を先に言われた。
「そういう事だ。キリエは明日は休み、これは社長命令な」
「社長、皆さん······ありがとうございます」
キリエは頭を下げると、クリスの部屋に戻って行く。
「さて、私は消化のいい栄養のあるお粥を作りますね。キリエの夜食にしてもいいし、目が覚めたクリスさんのご飯にもなりますから」
ミレイナちゃん、ホントにお母さんみたいだな。
食器棚から土鍋を出して何かを作り始めた。
「よし、俺たちは休むか。明日も仕事だしな」
「そうだけど······あのさ、何があったのかしらね」
「うーん、勇者パーティーのクリスが一人でボロボロの状態で倒れていた。仲間はどこにもいないし武器も持ってない」
「おまけに荷物らしい荷物はないし、お金も持ってない。可能性としては·········」
「可能性としては?」
「うぅん、あり得ないわね。あのお調子者勇者がクリスを追放するなんてあり得ないわ」
追放。
経験者の知恵なのか、シャイニーは首を振る。
悪いが俺も同感だ。ハーレムを目指すあの太陽が、クリスみたいな可愛い女の子を追放するはずがない。
「後は·········脱走とか」
「脱走? クリスが?」
「可能性の話よ。何にしても、本人から話を聞く必要がありそうね」
「うーん······まぁ、力にはなってやりたいけど」
この時点で、俺の中の厄介事メーターはビンビン反応していた。
翌日。
俺は着替えて食卓に付くと、キリエ以外のみんなは席に座っていた。
「おはよう。キリエは?」
「クリスさんに付いてます。まだ目覚めないようで」
「ご飯も後でいいって言うし、アタシたちは食べちゃいましょ」
「ごはんごはん」
キリエは休みだが、俺たちは仕事だ。
シャイニーの言う通り、クリスはキリエに任せて仕事をしよう。
昨夜ミレイナが作ったお粥は、キリエの夜食になったらしい。
同じ物をミレイナは作り、俺たちは仕事に向かう。
「今日は俺と二人だ。頼むぞミレイナ」
「はい、よろしくお願いします。社長」
「アタシとコハクはゼニモウケ内外ね」
「がんばる」
タマにエブリーのサポートを任せ、俺たちは仕事を始める。
事務所と来客スペースの掃除を済ませ、花瓶の水を入れ替える。そして会社のオープンと同時にお客様が来た。
「社長は右カウンターをお願いします」
「はいよ」
受付には様々な人が来る。
紙袋や小さな木箱を抱えた人や、手紙を持つ人や手ぶらの人も居る。
なぜ手ぶらなのかと言うと、荷物が大きくて持ち出せなかったり、荷物が多すぎて運べないため集荷に来て欲しいという相談をしに来てるからだ。
俺は荷物を預かり伝票を貼り付けシャイニーに渡す。今日はトラックではなく全てエブリーに積み込む。
手ぶらでやって来たのは、近くに商店を構えるおじさんだった。
「社長、相談なんだが······実は、大口の注文が入ってな、シモの村に大量の革を届けなくちゃならんのだ。そこでアガツマ運送がワシの店まで取りに来て、そのままシモの村に卸すのは大丈夫かの?」
「革ですか?」
「ああ、どうやら祭りがあるらしくてな。シモの村は狩人が多い狩猟村だし、伝統的な衣装を作るためだと聞いた」
「なるほど。では期日と荷物の量はどのくらいで?」
カウンターで受付をしながら書類に書き込む。
事務所に置いてある予定表ボードを確認すると、配達は十分に可能だった。
「わかりました。では二日後の朝に集荷に伺い運びますので」
「おお、ありがたい」
「ではこれを」
俺は記入した複写の書類を一枚剥がし、道具屋のおじさんに渡す。これには依頼料と運搬料と人件費が明記され、依頼を受けたという証明書だ。
集荷の場合、料金は後払いになる。
依頼料・運搬料・人件費と書いてあるが、かなり格安に設定してある。それもそのはず、そもそも車体関係に費用が全く掛からないのが大きい。本来ならガソリン代や整備費用などバカにならないが、トラックやエブリーに整備は必要ないし、精々が洗車くらいで済む。
「ありがとうな社長。こんな格安で安全に運んで貰えるとは、実にありがたいよ」
「いやいや、こちらこそご利用ありがとうございます」
会社付き合いや近所付き合いも大事だしね。
俺は予定表ボードに複写の依頼書を貼り付け、もう一枚をファイルに保存する。
すると、今度は別のお客様がやって来た。
「いらっしゃいませーっ‼」
ああ、今日も忙しくなりそうだ。