表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第9章・トラック野郎と新しい生活』
106/273

106・神に愛されし人

*****《聖王国ホーリーシット》*****




 聖王国ホーリーシットの歴史は、オーマイゴットと同じ位古い。

 全ての始まりは、母なる神パナギアが一人の人間に偉大なる神の力を授けたことにより始まった。

 パナギアが何故、人間に力を与えたのかは分かっていない。

 一説では全人類を統治させるために一人だけ大きな力を与えた。人類という母の息子に祝福を授けたなど、説は様々ある。

 ある日、何の前触れもなく、一人の青年が全知全能の力を授かった。

 その青年は信仰心などまるでない、普通の農民の青年であったという。

 青年の名はヨシュア。後の聖王国ホーリーシット初代聖王である。

 彼は力を授かり、自分が何をすべきかを唐突に理解した。

 まずは自分が生まれ住んでいた村人に、奇跡の力を見せつけこう言った。

「私はヨシュア。母なる神パナギアに愛された人間だ」

 ヨシュアは持てる力を使い、様々な奇跡を起こした。

 枯れ果てた大地を蘇らせ、地下に流れる水脈を掘り当て、強大なモンスターを一撃で屠った。

 彼は世界中を回り、自身の力を見せつけ、母なる神パナギアに愛された息子として人々から信仰されていった。

 ヨシュアを崇拝する人々が自然と集まり、その場所は村となり町となり、徐々に大きくなっていった。

 そして数十年。かつて村だった場所には王国が生まれ、ヨシュアはその王国を『聖王国ホーリーシット』と命名、初代国王として政治を行った。

 そして、ヨシュアと結婚した妻に子供が生まれた。

 それと同時に、ヨシュアは全ての力を失った。

 ヨシュアは嘆き悲しんだ。ヨシュアは母なる神パナギアに捨てられたと思い苦しんだ。

 だが、それは違った。

 ヨシュアは見た。ヨシュアの子供が、飾り付けてあった花瓶の花に手を向けた瞬間、その花が瞬く間に咲き誇るのを。

 ヨシュアは理解した。母なる神パナギアはヨシュアを見捨てたのでは無い、力は受け継がれていく物だと。

 子供はいつまでも子供ではない。いつか親となり巣立つ物だと、ヨシュアは母なる神パナギアに教わった。

 それから数十年。ヨシュアは母なる神パナギアの元へ旅だった。

 ヨシュアの息子も、孫も、ひ孫も親となり、その奇跡の力は継承されていく。

 聖王国ホーリーシットでは、『聖なる王族』が奇跡の力を使い国を統治していった。

 今も、そしてこれからも。




 聖王国ホーリーシット。

 規模も国の面積もオーマイゴッドに引けを取らない大国。この国を収める初老の国王グレゴリオは、執務室の豪華な椅子にもたれ掛かりながら、目の前の男の話を聞いていた。

「えー、聖女クリスティアヌスの行方は不明。現在オレサンジョウ王国が総力を上げて捜索中。災害級危険種『豹帝オセロトル』は近隣の山林に潜伏し、近くの集落や村を襲っています。こちらに関してはオレサンジョウ王国の勇者が対応するとの事です」

「·········」

 グレゴリオの表情は変わらない。

 伝令の男をジロリと見て言う。

「それで?」

「は?」

「続きだよ。肝心な事を忘れてる」

「か、肝心な事?」

 グレゴリオは椅子から立ち上がり、窓の外を眺める。

「戦争の準備だよ」

「······っ」

 伝令の男が息を呑んだ。

 すると、執務室のドアがノックされる。

「入れ」

「失礼します。聖王様」

 入って来たのは三〇代半ばの男性。メガネを掛けており体格はかなり痩せていた。

「ブルクマンか」

「はいぃ。いろいろと報告がありましてぇ」

「うむ、聞こうか」

 伝令の男をチラリと見ると、男は姿勢を正して退室した。

 グレゴリオは椅子に座り直すと、ブルクマンに向き直る。

「えぇー、報告ですがぁ、スゲーダロから搬入された新型装甲車『龍甲丸』の調整が終わりましたぁ」

「そうか。それでは······」

「はいぃ、戦争の準備はほぼ完了でぇす」

「そうか。では後はオーマイゴッドの反応次第か」

「はいぃ、準備は進めておきますのでぇ」

「うむ」

 ブルクマンは舌足らずな喋りだが、グレゴリオは気にしていない。仕事さえこなせば人格や容姿には拘らない性格だった。

「聖王様ぁ、クリスティアヌス様の事なんですがぁ」

「どうした?」

「えぇとぉ、クリスティアヌス様は聖王様のご息女ですよねぇ? 確か十六年前に誘拐されたぁ?」

「恐らくな。娘息子が多くて私も全員を把握していないから確証がない。だが、オーマイゴッドの十二使徒の血族でない事は確かであり、クリスティアヌスは孤児だという事は、私の血族である事は間違っていない」

「なるほどぉ······」

 聖王は正妻が一人、愛人は数え切れないほど存在する。  

 だがそこに愛はない。聖王は女性の容姿など拘らなかった。

 有名な女性文学者、高名な女性剣士、高名な女性技術者、頭脳や技術に秀でた女性を次々に娶り子を作った。

 彼にとって女性とは後継者を作るための道具であり、そこに愛はない。

「まずは勇者達に災害級を始末して貰わないとな。それが終わり次第、オーマイゴッドの答えを聞く」

 まずは、聖王国を騒がせてる災害級危険種から始末する。

 勇者パーティーにクリスの話を聞き居場所を掴む。

 グレゴリオにとって、クリスはただの口実。聖王の後継者はいくらでも仕立て上げる事が出来る。

 最大の目的は、オーマイゴッドの沈黙。

 スゲーダロで新型の戦闘用馬車を作ってる話は聞いていた。そこに目をつけて秘密裏に支援をして来た。ホーリーシットの新たな戦力とするために。

 実物を見てグレゴリオは歓喜した。これならば勝てると。

「母なる神パナギアよ······我らに勝利を」

 グレゴリオは、静かに祈りを捧げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ