104・トラック野郎、拾う
「ご主人様ご主人様!! すっごくかっこよかった!!」
「お、おお」
『なうなうなうーっ』
デコトラカイザーからトラックに戻ると、助手席のコハクが興奮した様子で戻っていた。
コハクだけじゃない。しろ丸も尻尾をブンブン振って興奮してる。どうやら居住ルームのモニターで見てたらしい。
「ありがとな。それじゃ鉱石を探すか」
『ミスリル鉱石は現在地より北西三〇〇メートル先。マップにポイントをマークします』
「よし、じゃあ行くか」
アダマンロックトータスの残骸は置いておく。
甲羅は砕け身体はグチャグチャの肉片だしな。放っておけばこの辺りのモンスターが餌代わりに食べてくれるだろう。
『なう、なうなう』
「おっと······ははは、どうしたんだよ、しろ丸」
甘えてるのか、しろ丸がコハクの手から離れて俺の膝の上でコロコロ転がる。可愛い。
「ご主人様、すごいって」
「わかるのか?」
「なんとなく」
ま、俺もそんな気がする。
そして、ミスリル鉱石がある場所に到着した。
「ひと目でわかった。これだな?」
目の前にあるのは、青白く輝く巨大な岩だった。どうやら発掘はすでに終わり、ユニック車に搭載して運ぶだけみたいだな。
かなりの大きさでユニック車でもギリギリだ。形は楕円形で表面はゴツゴツしてる。こりゃワイヤーで括るのが大変だ。
トラックをユニック車に変形させて車から降りる。
「はぁ······どうするか」
どこから手を付けようか悩んでいると、コハクが降りて俺の隣に並ぶ。
「ご主人様、これを乗せるの?」
「ああ。どうやってワイヤーで括ろうか悩んで······」
「よい、しょっと······けっこう重い」
コハクは、一トンはありそうな岩の塊を、簡単に持ち上げた。
唖然としてその光景を見ていると、いつもと変わらない表情のコハクが言う。
「ご主人様、これどうするの?」
「あ、ええと、ユニック車の荷台に置いてくれ」
「うん······えいっ」
コハクはゆっくり静かにミスリル鉱石を荷台に乗せる。
見た目は普通の少女で腕も太いわけじゃない。それなのにこの馬鹿げた筋力は何だ?
「ご主人様、役に立った?」
「は、はい」
思わず敬語で返してしまった。
ミスリル鉱石の積載は一瞬で終わったが、ワイヤーでの固定に時間が掛かった。コハクと二人掛かりで何とか終えると、コハクのお腹が大きな音を立てた。
「ご主人様、お腹減った」
「そろそろお昼だしな。ミレイナの弁当を食べよう」
天気もいいし、居住ルームではなく外で食べる事にした。
ユニック車の近くにシートを敷き、重箱としろ丸の餌入れを設置。ポイントで飲み物を買って準備完了だ。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
『うなーお』
しろ丸もちゃんと会釈した。
五段重ねの重箱には、おにぎりと唐揚げ、サラダや卵焼き等がいっぱい入ってる。まるで運動会の弁当だ。
しろ丸にはドッグフードを与えたが、餌入れにいくつか唐揚げを入れてやる。すると嬉しそうにモグモグ食べていた。
「ご主人様、おいしいね」
「そうだな。今度はみんな連れてピクニックにでも行くか?」
「行きたい」
おにぎりと唐揚げの組み合わせは最高だ。
コハクのペースが早く、あっという間に完食した。
「ふー、腹いっぱいだ」
「おいしかった」
『うなー』
重箱を片付けて少し休憩。
コハクはしろ丸を抱きしめて昼寝を始めた。
「ふぅ······」
俺はコハクの頭を撫でながら、ミスリル鉱石を見上げる。
確か、シャイニーの鎧や剣もミスリル製なんだよな。
『シャイニーブルー様の剣と鎧はハイミスリル製です。ミスリルを体内に取り込んだ危険種の《ミスリルリザード》の骨を加工した装備で、上級冒険者の間では高級品となっています』
「何も言ってないけど説明ありがとう······」
タマのやつ、何で俺の考えが読めるんだろう。
それから三〇分ほど休憩し、コハクを起こす。
「そろそろ帰るか」
「·····ん」
目を擦りながらコハクが立ち上がり、小脇にしろ丸を抱える。
いい感じに休めたし、さっさと帰ってギルドに報告するか。
それは、帰り道での事だった。
「ご主人様、誰か倒れてるよ」
「え?」
コハクが指さした場所には誰も居ない。
道は整備された街道で、ゼニモウケまでは数時間の距離だ。途中で分かれなどがあり、近隣の集落や他国・他都市へ向かう道もいくつかある。帰り道はほぼ一本道なので迷うことは無い。
「どこだ?」
「あそこ」
あそこと言われても、コハクは真っ直ぐ指さしてるだけ。
するとタマのフォローが入った。
『前方四五〇メートル先に人体反応アリ。スキャンの結果から疲労困憊による気絶です』
「マジか」
というか、コハクには四五〇メートル先が見えていたのか。
そう言えばミレイナが言ってたっけ、魔族はモンスターの血が混ざった種族で、驚異的な身体能力や魔力を持つ者は珍しくないって。コハクの怪力と視力の良さはそこから来てるのか。
「ご主人様、拾う?」
「ああ、見て見ぬふりは出来ないだろ」
アクセルを踏んで速度を上げると、街道のど真ん中に人が倒れていた。
全身を外套で覆った旅人スタイルで、うつぶせになって倒れている。
俺はトラックから降りるとコハクも降りる。何故かコハクの手には武器が装備されていた。
「念のため」
それだけ言うと、コハクは倒れた人に注意を払う。
俺もゆっくり近付き、恐る恐る肩に触れた。
「も、もしもし……もしもーし」
反応なし。
少し強めに肩を揺さぶっても反応が無い。
「ご主人様、これ、女のニオイする」
「女?……どれ、ちょいと失礼」
俺は顔を覆っていた布を外し確認した。
「…………え」
「女、若いね………ご主人様?」
「いや、え?……なんで?」
俺は薄汚れた顔を何度も見て確認した。
だって、俺の知ってる顔だったから。
「この子………クリスだよな?」
そう、行き倒れの少女は、キリエの妹のクリスだった。