103・トラック野郎、新ウェポン
冒険者ギルドの依頼で、ガチガチ岩石地帯に鉱石採取に出かける事になった。
「じゃ、行ってくる」
「いってくる」
『なうなーう』
って、しろ丸も行くのか。
コハクが脇に抱えるようにして抱っこしてる。抱っこというかボールを小脇に抱えてるみたいだ。
「コウタさん、これお弁当です」
「お、やったぜ」
「ミレイナ、ありがとう」
しろ丸のドッグフードはコハクのカバンの中に入ってる。弁当も重箱みたいな特別製の弁当箱だ。きっとコハクが食べる量を計算してるんだろう。
俺とコハクはトラックに乗り込み、コハクはしろ丸を膝に乗せる。
「いってらっしゃい、コウタさん、コハク」
「こっちは心配しなくていいわよ」
「道中、お気をつけて」
ミレイナ達に見送られ、俺とコハクは出発した。
「ご主人様、おやつ食べたい」
「はいはい。何が食べたい?」
「甘いの」
甘いのか······かなりあるぞ。
どれ、久しぶりにじっくり見てみるか。
俺はトラックを街道の路肩に停め、タマに言う。
「タマ、ドライブインを表示」
『畏まりました。項目の増大に伴い画面を整理しました。対象の項目をタッチして下さい』
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【ドライブイン】〜いらっしゃいませ〜
[ドリンク類][フルーツ類][駄菓子類][デザート類]
[パン類][お弁当類][サラダ類][ラーメン類]
[お土産類][ペット類][文具類][日用品類]
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すごいな、ドライブインってかコンビニみたいだ。
「甘いの······とりあえずデザートかな」
俺は[デザート類]をタッチする。
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【デザート】
[ショートケーキ][チョコケーキ][モンブラン]
[シュークリーム][プリン][バームクーヘン]
[フルーツゼリー][クリーム大福][アイスクリーム]
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「おお、こりゃすごいな」
「甘いの、いっぱい?」
「ああ。そうだな······シュークリームなんてどうだ?」
「うん」
トラック内でケーキは食べにくいしな。こかは無難にシュークリームでいいだろう。
俺はシュークリームを三つ購入する。するとダッシュボードからいつものビニール袋が現れた。
ビニールに包まれたシュークリームを一つコハクに渡し、もう一つの袋を破いてしろ丸の口元へ。
『なうなうー』
「ほら、美味いぞ」
『うなー』
コハクの膝上から俺の膝上に移動させ、頭をフカフカ撫でながらシュークリームを食べさせる。すると美味しそうにモグモグ食べ始めた。かわいいな。
「ご主人様、これおいしい‼」
「そうか。じゃあ俺の分もやるよ」
「え、でも」
「いいから。遠慮するなって」
「······ありがと、ご主人様」
コハクはにっこり笑うとシュークリームをモグモグ食べる。
しろ丸もシュークリームを完食し、俺の膝上でスヤスヤ眠り始めた。
「ご主人様、だいすき」
「お、おお」
頬にクリームを付けたコハクは、可愛らしく微笑んだ。
のんびり進みながらガチガチ岩石地帯へ向かう。
街道も緑が少なくなり、岩場や砂っぽい風景に切り替わっていく。
「………ご主人様、いやな気を感じる」
「え?」
『なうなうなう!!』
「しろ丸も感じてる……何か、いるよ」
しろ丸が起きて尻尾を振りまくり鳴く。
どうやら威嚇みたいだが、なんとも可愛らしい。
「おいおい、まさか……モンスターか?」
「たぶん。でも大丈夫、ご主人様はわたしが守る」
『なうーっ』
「しろ丸もご主人様を守るって」
俺は未だに膝の上にいるしろ丸をフカフカ撫でる。
こういう場合のイヤな予感は間違いなく的中する。
『社長。前方二五〇メートル先ガチガチ岩石地帯入口です。更にその先一八〇メートル北東に超危険種『アダマンロックトータス』を感知しました。デコトラカイザーの変形を推奨します』
「ほらな、やっぱ来たよ……」
「ご主人様?」
トータスって事は亀の化物だろうか。
そういえば最近全くトラックを弄っていない。武装の設定もおざなりだし、ロボットに変形してばかりで機銃も殆ど使ってないな。
そういえば……レベル六〇に到達したのに、新しい変形を獲得してないな。
ああ、考えれば考えるほど戦闘に関して俺は消極的だ。だってそうだろ、俺がやりたいのは戦闘じゃなくて配達だ。ハラハラドキドキの要素は全く必要ない。
でも、身を守る武装が必要なのは理解してる。
帰ったらトラックの武装を弄るか……はぁ、やれやれ。
「コハク、ここは俺に任せてくれ」
「え、でも」
「大丈夫。こう見えて俺は強いからな」
「そうなの?」
「まぁ、俺ってかトラックだけどな」
トラックはガチガチ岩石地帯へ到着した。
岩石地帯というだけあって、大きな岩石がたくさんある。
岩の隙間を縫うようにトラックを走らせる。
鉱石を採掘するには、超危険種モンスターを排除しなくてはならない。つまり、強制バトルが発生って事だ。
「ご主人様、近い」
『なうー………』
コハクとしろ丸が警戒してる。
『社長。左前方二〇メートル。超危険種モンスターの存在を感知しました』
「え」
次の瞬間、轟音が響いた。
轟音の正体は、左前方にあった巨大な岩が動いた音だった。
「な、まさか……擬態か!?」
『シャガァァァァァッ!!』
巨大な岩から手足を頭が生え、トラック睨み付けた。
大きさは二〇メートル以上ある。見た目は岩の甲羅を持つカメだが、甲羅の盛り上がりがハンパじゃない。
甲羅の高さだけで一〇メートルはありそうな、パースの狂った化物亀だ。
『社長。現在設定されてる武装ではアダマンロックトータスの装甲にダメージを与えることは出来ません。デコトラカイザーへの変形を』
「わかってるよ!! デコトラ・フュージョン!!」
「おお?」
『なう?』
俺の叫びと同時に、助手席のコハクと抱っこされたしろ丸は居住ルームに消えていった。
運転席が上昇し視界が広がり、ガチャガチャと音を立ててトラックが人型へ変形する。
「デコトラカイザー、配送開始!!」
カッコいいポーズを取り変形が終了した。
さて、さっさとやっつけるか。
「来い、ドライビングバスター!!」
『ドライビングバスター転送』
デコトラカイザーの必殺武器、大剣と大砲モードの切り替えが可能な特殊武器を握り構える。
「よーし、行くぞ!!」
俺はコントローラーのアナログスティックを前に倒し、デコトラカイザーを走らせる。
アクションボタンである『赤』ボタンを押し、ドライビングバスターを振りかぶった。
「ドライビングスラーッシュッ!!」
『警告。そのような技はありません』
やかましい、気分だ気分。
ガキィッ!!っと派手な音が響き、ドライビングバスターの刀身はカメの甲羅を両断……しなかった。
「あれ?」
『警告。アダマンロックトータスの甲羅の強度は、トラックの車体強度レベルに換算するとレベル八五。ドライビングバスターでの攻撃は無効化されます』
「いや早く言えよ……お、おぉぉぉっ!?」
『シャガァァァァァッ!!』
カメの怒りを買ったのか、口からブレスを吐いた。
車体に振動が走り、ブレスの勢いでデコトラカイザーが吹き飛ばされる。
『車体ダメージ小。行動に支障はありません』
「いてて……椅子に後頭部をぶつけた」
『シャガァァァァァッ!!』
「うわわわっ!?」
倒れたデコトラカイザーのマウントを取ろうとしたのか、カメとは思えないスピードで迫って来た。
「やべぇやべぇっ!!」
『黄』ボタンを連打して立ち上がり、アナログスティックと合わせてバックステップで距離を取る。
「だったら、こいつでどうだ」
エルボタンを押してドライビングバスターをキャノンモードへ変形させ、アールボタンを押して標準を合わせる。
『社長。ドライビングバスターでの攻撃は無効化されると言いましたが』
「え、キャノンもダメなの?」
『はい』
『シャガァァァァァッ!!』
再びのブレス攻撃をサイドステップで躱す。
ふふふ、避ける事に関しては得意になってきたぜ。情けないとか言うなよ。
「えーと、じゃあ……ブルデコトラカイザーに変形だ!!」
『それも一つの案ですが、提案をします』
「え?」
『トラックフォーム専用デコトラウェポンの召喚を推奨します。現在選択可能なのは軽ワゴン・エブリーです」
そう言えば、従車はデコトラカイザーの武器に変形するんだっけ。
ピンチの状況でぶっつけ本番はイヤだけど、ここで使って確認しておくのも悪くない。
「……わかった。じゃあエブリーを使うぞ」
『畏まりました。それでは認証コードをお願いします』
「また叫ぶのか……」
この仕様はなんとかしたい。
ぶっちゃけ恥ずかしい。誰も聞いてないのが救いだぜ。
「カモンオーライ!! エブリストライカー!!」
くっそ恥ずかしい。何がカモンオーライだよ。
すると上空に幾何学模様の魔方陣が現れ、白いボディのエブリーが現れた。
誰も乗ってないのにデコトラカイザーの周りをグルグル走ってる。
「ウェポンシフト!!」
『了解。デコトラウェポンドッキング』
エブリーが変形を始める。
縦に真っ二つに割れ、バラバラのパーツがデコトラカイザーの左腕に合体していく。
「デコトラカイザー・エブリストライク!!………って、なんじゃこりゃ」
『社長、ノリノリでしたね』
「やかましい」
変わったのは左腕。
分解したエブリーが左腕にくっつき、まるでハンマーのような姿になった。
『左腕部攻撃力大上昇。アダマンロックトータスの甲羅を破壊出来るレベルに達しました』
「よ、よーし。親切に待っててくれた所で悪いが、ここで決めさせて貰うぜ」
まぁ変形から合体まで一〇秒も掛かっていない。
俺はコントローラーを握りしめ、改めてカメの化物を見据える。
『シャガァァァァァッ!!』
「甘いっ!!」
ブレスはもう喰らわない。ってかこいつブレスしか吐かないな。
『アダマンロックトータスの最大の特徴は防御力にあります』
「なるほど」
デコトラカイザーを接近させ、ハンマーで甲羅をぶん殴ってみた。
「だっしゃァァァっ!!」
すると、岩が砕けるような音が響き渡る。
『ギャシャァァァッ!?』
「おぉっ、砕けた」
甲羅は砕け緑色の血が流れる。こうかはばつぐんだ!!
『社長。必殺技のコマンド入力をお願いします』
「あいよ」
画面に表示されるコマンドを入力する。
落ち着いてやればこんなの簡単だ。
『入力確認。《エブリトールハンマー》発動します』
「よーし、お前の命、あの世に配達してやる」
左手のハンマーが紫電を帯び、デコトラカイザーが構えを取る。
『ギシャァァァァッ!!』
「やかましいっ!!」
イタチの最後っ屁のブレスをジャンプで躱し、そのままの勢いで雷ハンマーを叩き付けた。
『グッギャァァァァッ!!』
甲羅が砕け散り、生身の部分も叩き潰した。
緑色の血がドバッと溢れ、カメの身体は完全に動きを止めた。
『生命反応消失。お疲れ様でした』
「ふー……」
やべ、なんかバトルが楽しくなってきたかも。