102・トラック野郎、来客を迎える
コハクを雇用した翌日。今日も変わらぬ日常が始まる。
朝起きて、ミレイナの作った朝食を食べて出勤。朝礼を行い業務準備、そして開店。今日も元気に配達に行きますかね。
俺は鼻歌を口ずさみながら荷物を搬入していると、怪訝な顔をしたシャイニーが話しかけて来た。
「何よアンタ······イヤにご機嫌ね」
「そりゃそうだろ。コハクが入ったおかけで仕事がだいぶ楽になったし、会社の利益も上々だしな」
「ご主人様、わたし、役立つ?」
「ああ。とても役立ってるぞ」
「えへへ」
俺はすり寄ってきたコハクの頭を撫でてやる。
するとコハクは気持ち良さそうに目を細めた。
「むむ······」
何故かシャイニーがむくれているが放っておく。
実際、会社は定時で上がれるし残業もない。午前の配達が終われば後は事務仕事を片付け、それが終われば清掃をしておしまいだ。
売上も上々なのは、やはりトラックやエブリーのおかげだろう。
整備は必要ないし燃料代も掛からない。やる事は洗車くらいだし、大した手間も掛からない。
「さて、今日も頑張りますかね」
「そうね」
「うん」
これこそ俺の理想の生活だ。
適度に仕事をしつつ金を稼ぐ。会社は美少女の従業員で、仕事から帰るとおかえりなさいを言ってくれる。
ロボットや魔王なんて入る余地のない、究極のスローライフだ。ああ素晴らしき異世界生活。
「シャイニー、ご主人様はどうしたの?」
「放っておきなさい、行くわよ」
シャイニーとコハクは俺を無視して行ってしまった。
うーん、ちょっとトリップしてた。反省反省すんません。
「よし、俺も行くか」
トラックに乗り込み、発進した。
配達が終わり事務所に戻ると、ニナがシャイニーの事務机でお茶を飲んでいた。
「やぁ社長。邪魔してる」
「ようニナ、ゆっくりしてくれ。でもそこ、シャイニーの席だから、見つかると騒がれるぞ」
「あーーーっ‼」
時既に遅し。
コハクを連れたシャイニーが俺の後ろから現れた。しかもニナを指指して怒り顔だ。
「ちょっとニーラマーナ‼ 勝手にアタシの席に座るなっ‼」
「あぁ、すまんすまん」
「っていうか、なんで部外者が事務所に入ってんのよ‼」
「あ、あの、私が招いてお茶を出したんです。ニナさんは悪くありません······」
「待てミレイナ、悪いのは私だ。シャイニーブルーの言うことは間違っていない」
ニナはミレイナの肩を叩いて言う。
その様子を見たキリエが、俺の傍に来て言った。
「不思議ですね。シャイニーが正しい筈なのに、どう見てもシャイニーが悪人にしか見えません」
「だよな······」
「むぐぐぐぐ······っ‼」
とりあえず、ミレイナにはみんなにお茶を淹れてもらった。
ちなみに今日のお昼はカップラーメン。
週に一度、カップラーメンの日を設けて事務所で食べる事になっていた。どうやらよほどカップラーメンが衝撃的だったらしく、シャイニーは当然としてキリエやミレイナも欲しがったのだ。
「ニナ、良かったらお前も食べていけよ」
「む、いいのか?」
「ああ。お湯を注ぐだけだし」
「よくわからんが、迷惑でないのなら頂こう」
ニナの視線は俺からコハクへ。
自分の席でしろ丸をモフモフしてるコハクに、ニナは話しかけた。
「君は初めましてかな。私はニーラマーナだ、ニナと呼んでくれ」
「わたしコハク、この子はしろ丸。よろしくね」
「ああ。よろしく·········しろ丸?」
『なうー』
しろ丸を机の上に置くと短い手足でトコトコ歩きだし、ニナの元で停止した。
毛の生えたバレーボールみたいなしろ丸は、尻尾をフリフリしながらニナを見上げる。
「む······」
『なーお』
「ニナ、撫でてやれよ」
「あ、ああ」
『うなー』
ニナはしろ丸の頭部分をモフモフと撫でる。
しろ丸は気持ちいいのか、尻尾を左右にフリフリした。
「みなさーん、ご飯ですよー」
ミレイナがお盆にカップラーメンを載せて現れた。
普通に見たら超手抜き料理に見えるが、ミレイナがやると不思議と様になってる。
「······なんだこれは?」
「カップラーメンです。美味しいですよ」
ミレイナはチリトマト味をニナに渡す。
俺はシーフード、ミレイナはしょうゆ、シャイニーはカレー、キリエは激辛、コハクはチキン味を選んで食べる。
ちなみにしろ丸はポイントで買ったドッグフード。ドライブインの項目に新商品が入荷して、そこで見つけた物だ。
しろ丸は美味しそうにボリボリ食べてるし、しろ丸の主食にしようと思う。
ニナは麺を啜ると、目を見開いた。
「ほう······これは美味いな」
「ふん、驚いた?」
「なんでシャイニーが得意気なんだよ」
俺たちもラーメンを啜り、暫し無言で食べる。
カップラーメンを食う時って、何故か無言になるよな。
最初に食べ終わったコハクはカップを捨てると、そのまま机に突っ伏して昼寝を始めた。
みんなが食べ終わると、ミレイナが冷たいアイスティーを淹れてくれる。ホントに良くできた子だと思うよ。
「ご馳走さま。美味かったよ」
「お粗末様」
アイスティーを飲みながら一息入れる。
するとニナが切り出した。
「さて、早速だが仕事を依頼したい」
俺たちは暫し無言になった。
「お前たちに頼みたい仕事がある。正式なギルドからの依頼だ」
「え、ええと······いきなり過ぎてビックリしたぞ」
「すまんな。今日は様子見を兼ねた正式な依頼で来たんだ」
依頼なら話を聞かないと。
でもギルドの依頼かぁ······あんまりいい思い出ないんだよなぁ。
「では説明をさせて貰う。実はゼニモウケから北東のガチガチ岩石地帯に、高純度のミスリル鉱石が発見された。そこでアガツマ運送会社に採取を依頼したい」
つまり、鉱石採取。
なんか運送会社っぽくない依頼だ。
「ガチガチ岩石地帯······あそこは確か危険地帯ですね。ミスリルリザードやロックドラゴンの住処があったはずです」
キリエの意見にニナは頷く。
「そうだ。ミスリル鉱石は巨大でな、採取から運搬までを人力で行えば手間も時間も掛かる。なのでヴェノムドラゴンやメタルゴリラを運搬したアガツマ運送会社に依頼をする事になった」
「なるほど」
つまり、ユニック車の出番か。
時間的余裕も出てきたし不可能ではない。それにギルドの依頼は金になるし、稼いでおいて損はない。
「よし、ミレイナ、スケジュールは空いてるか?」
「はい。ええと······明日は配達がありますが明後日でしたら大丈夫です」
「じゃあ明後日なら行けるか。それでいいか、ニナ?」
「構わん。あれだけの大きさなら誰も手は出せないだろうし、危険地帯のガチガチ岩石地帯に向かうやつもそうはいない」
「じゃあ明後日に出発する」
ガチガチ岩石地帯はここから車で数時間の距離だ。一日あれば行って帰って来れる。
「ご主人様、わたしも行きたい」
「え、うーん······」
「連れて行けば? 会社にはアタシが残るから」
ま、別にいいか。
コハクもこの辺りの地理に慣れるのにいいだろう。
「わかった。じゃあ明後日は俺とコハクで行く。こっちはミレイナとキリエに任せるから」
「わかりました、コウタさん」
「お任せ下さい、社長」
「ちょ、アタシは⁉」
というわけで、明後日は石取りに行くことになった。