10・トラック野郎、ギルドを尋ねる
注目されながら走ること30分。俺たちはようやく冒険者ギルドに到着した。
「ここが噂の冒険者ギルドか······」
「噂ですか?」
「ああ、異世界の定番とも言える場所だからな」
「はぁ······?」
ミレイナはよくわかってないみたいだけど、それが普通。むしろこの世界では俺が普通じゃない。
建物は大きい石造りで風格と歴史を感じさせる。ドアは観音開きの立派なドアで、何人もの冒険者らしき人たちが出入りしていた。
馬車を止めるスペースにトラックを停め、ミレイナが言う。
「あの、コウタさんも来ませんか?」
「え、俺も?」
「はい······私の最後の依頼ですし、見届けて欲しいです」
そんな顔で言われちゃ行かないワケにイカンでしょ。するとタマが言う。
『マスター、ここは人通りが多いので、セキュリティモードを起動して待機しています。それと、ダッシュボードの中を確認して下さい』
「ダッシュボード?······良かった、今度は普通だ」
中に入っていたのは黒光りする拳銃ではなく、ハンズフリーのイヤホンだった。
『それを装着すれば、私に指示を出してトラックを遠隔操作する事が可能です。現状、トラックはマスターしか起動出来ませんが、トラックの不意の事態にはお知らせします』
「わかった。ホント準備がいいなぁ」
俺はイヤホンを装着し、デザートイーグルをズボンに挟む。
そういえば着替えもないな。換えのパンツはあるけど服は仕事用の制服のままだ。金が手に入ったら服を買わないとな。
「では行きましょう。私が案内しますね」
「ああ。よろしくな」
ミレイナと一緒に、ギルドへ向かって歩き出した。
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ギルドの中は広く、冒険者たちで溢れていた。
若い少年たちから老いた老人まで年代は様々で、ギルド内に併設されてる飲食スペースで飲み食いしてる集団もいる。人が集まってる壁際を見ると、A4サイズほどの紙がいくつも貼られていた。
「あれが依頼です。依頼掲示板は3枚ありまして、それぞれの冒険者ランクで受けられる依頼が変わります」
「へぇ〜」
「まず、私の依頼報告をしちゃいますね」
ミレイナはそう言うと、小さな植木鉢を持って受付カウンターへ向かう。俺もなんとなく後ろに付いていた。
「依頼品の『シンフォニアの花』です」
「はい。依頼書を確認します······はい。ではこちらは預からせて頂きます」
ミレイナは自分のドッグタグと依頼書、そして植木鉢を受付に出した。そして受付嬢がそれらを掴んで裏に引っ込み、再び戻ってくる。するとお盆の上に硬貨を一枚乗せて戻って来た。
「こちらが報酬の500コインです。ありがとうございました」
す、少ねぇ。あんだけ苦労して花を取ったのに。
ミレイナはドッグタグとコインを受け取ると、次はゴブリンの洞窟で見つけたドッグタグを受付に出した。
「あの、これは森のゴブリンの洞窟で見つけたドッグタグです。全員の死亡を確認して、埋葬しておきました······」
「······ありがとうございます。預からせて頂きます」
受付嬢さんは少しだけ表情を曇らせた。
ミレイナは装備のことは何も言わなかった。俺も余計なことは言わず、ひたすら黙って様子を見ていた。
そして最後。ミレイナは自分のドッグタグを受付に出す。
「それと······私、冒険者を引退します」
「······はい、畏まりました。失礼ですが何故でしょう?」
「はい。私には向いてない事がわかりましたので。それに、新しい仕事を見つけましたから」
「そうですか。では、今までお疲れ様でした。これからも頑張って下さいね」
「はい、ありがとうございました」
ミレイナは一礼して俺の元へ。
この瞬間から冒険者ミレイナではなく、ただのミレイナとなった。
「お疲れさん、ミレイナ」
「······はい」
俺はミレイナを労った。肩の荷が降りたような、爽やかな笑みを浮かべてる。だけどこれからは俺の会社の従業員ミレイナだ。ぐへへ、こき使ってやるぜ。なーんてな。
さて、次は武具屋に武器防具を売りに行こう。
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「武器防具屋か······」
「私も、この剣を売っちゃいますね。もう必要ないですし」
武器防具屋なんて、ファンタジー世界にしか存在しない。剣や鎧は男のロマン。いくつになっても興味はある。
向かってるのはミレイナが剣を買った武器屋。なんでも、冒険者になりたてだった頃に装備関係でお世話になった場所らしい。
「すみません、他に知ってる店がなくて······」
「いやいや、知ってるだけでもすごいって。金が手に入ったらいろいろ買い物しようぜ。それと、何着か服を買ってくれ」
「お洋服ですか、任せて下さい‼」
「お、おお」
沈みかけたミレイナを慰めようと話題を変えたら、なんかスゴい食いついた。もしかして服が好きなのかな。
『間もなく到着します』
ルート案内通りに進み、町から少し離れた場所に武器屋はあった。言い忘れたが右左折する時はちゃーんとウィンカーを出してるぜ。
「ここです」
「おぉ〜、なんか趣きがあるね」
煉瓦造りの立派な武器屋だ。入口はウェスタン風の扉で、バーやサルーンを彷彿とさせる。漫画なんかで見る武器屋そのままだぜ。
「では、挨拶に伺いましょう」
「おし。でもさ、いきなり買い取ってくれるかね?」
『基本的に、武器防具の売買に予約を入れることはありません。武器防具の作製に当たり期日の指定はありますが』
「そんなもんか?」
腰にデザートイーグルを差してトラックから出る。
ミレイナと一緒に武器屋の店主に挨拶して、それから武器防具を持ち込もうとした。
「こんにちは〜」
「お疲れ〜っす」
やべ、会社みたいなノリになってしまった。ミレイナは可愛らしい挨拶だし、これじゃ俺が礼儀知らずのマヌケに見える。
そんなことを思ったが、カウンターには既に先客がいた。
「わぁ······」
「おぉ、すっげぇ······」
思わずそんな声が出た。
それくらい、その先客は強烈だった。
「······それじゃ、ありがとう」
「ああ。また来い」
一言で表すなら『蒼』
ブルーのロングヘアをポニーテールにし、羽を模したヘアバンドを付けている。瞳の色もキレイなアイスブルーで、顔立ちは可愛いというより綺麗な少女。たぶんミレイナより少し年上。
装備は青い鎧で統一され、肌の露出はほとんどない。強いて言うならニーソックスとスカートから覗く絶対領域だ。
武器は背中を交差するように剣を挿しているが、剣の柄が肩からではなく両脇の下から出てる。つまり逆手で剣を構えるスタイルなのかもしれない。
その少女は、ゆっくりと俺たちの方向······出口へ向かって歩いてきた。
うぉぉ、すっげぇ美少女。歩き方も優雅だし、触れたらそれだけで犯罪になりそうな気品も感じる。
俺とミレイナはドアから離れ、少女を見送る。
「······ありがとう」
か、可愛い〜なにこれ〜。
ニコリと笑いドアから外へ······そして。
「ふにゃっ⁉」
俺たちの前で、盛大にズッコケた。
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コケた拍子にスカートがめくれ上がり、パンツ丸見えになっていた。色は薄いブルーで少し食い込んでる。
「〜〜〜っ‼」
あ、ガバッと起き上がってスカートを抑えた。そんで俺を睨みつける。だけどなんか可愛い。涙目で睨んでも可愛さアップにしかならない。
「し、失礼っ‼」
すると少女はダッシュで去って行った。俺としては良い物が見れたけど、ミレイナ的には違う感想だったようだ。
「あの蒼······まさか」
「ミレイナ、さっさと済ませようぜ」
「は、はいっ‼」
武具を売って金にしたら、次はお買い物でもしますかね。