1・トラック野郎、異世界にようこそ
新連載です。連載中の物語が一段落したので投稿します。
こちらもゆっくり投稿しますので、気長にお付き合い下さい。
「………くぁ、ん」
現在26歳、ブラックぎりぎりの運送会社で働く俺、吾妻幸太は、眠気を堪えながら運転をしていた。
大型免許を取って4年。運転もそこそこ慣れ、いつもと同じ配達ルートを走っているが、連日の疲れがたたり、非常に眠かった。
「あ~……あーいーうーえーおー!!」
マジで眠い。
こうやって声を出したり、窓を開けて換気したりして眠気を覚ます。
コーヒーは飲み過ぎて胃が荒れてるから飲まない。ミント味のガムを噛んだり眠気覚ましのドリンクを飲んだりして紛らわせる。
幸いなことに、明日は休みだ。配達が終わったら真っ直ぐ家に帰って爆睡してやる。
俺こと吾妻幸太は1人暮らしの独身だ。
顔は平凡で、どこにでもいるモブキャラ、中肉中背の体格に、酒は飲むけどタバコは吸わない。趣味は昼寝とパチンコ、両親は実家で社畜生活と、何の特徴も無い一般人だ。
大型免許を取った理由は特にない。
ただ、宝くじで50万当たり、使い道のない金だし資格でも取ろうと考えたのが運転免許だった。普通免許は持ってたから小難しい試験もない。あるのは運転技術のみということで、どうせだし大型特殊免許と合わせて取ったワケだ。
それで22歳までフリーターだったが、こうして運送会社に正社員として入る事が出来た。
まぁ、ブラックぎりぎりの運送会社だが贅沢は言えない。このご時世、正社員はありがたいと考えないとね。
「………………はぁっ!?」
アブねぇ、寝るとこだった。
マジでヤバいな。どこかで止めて30分だけでも仮眠を取った方がいいかもしれん。こんなところで事故ったら会社に迷惑だしクビに………あ。
「あ」
目の前には、トンネル。
車線からトラックは外れ、コンクリートの壁が目の前に。
「やっちまっ……」
俺の視界は、衝撃と共に真っ暗になった。
**********************
俺は死んだのか?
ぼんやりとした視界、まるでぬるま湯に浸かっているような感覚。そして何より身体が全く動かない。あぁ、これが死か。
『おめでとうございます‼ 貴方は通算7万7777人目のトラック事故死亡者です‼ 特典として異世界への転生と特殊能力を与えまーす‼』
なんだろう、何か聞こえる。
特典だの異世界だの、それにトラック事故だの·········あぁそうか。俺はトラック事故でトンネルの入口に衝突したんだっけ。
『貴方に与えられる能力はなーんと《デコトラ》‼ 貴方の大好きなトラックをカスタマイズする能力でーすっ‼』
おい待て、俺は別にそこまでトラックを愛してない。って、まぁいいや、どうせ夢だし。気がついたら病院ってオチなのか?
『さーらーにっ‼ 旅のお供に貴方のトラックと相棒の人工ならぬ神工知能をプレゼントっ‼ わからないことは相棒に聞いてねっ‼』
いい加減にうるさく感じてきた。
何だよ人工ならぬ神工知能って。人じゃなくて神ってことか? とにかくもう眠らせてくれ。
『貴方が転送される世界は、剣と魔法のファンタジーっ‼ さぁ、異世界のトラック野郎‼ 相棒と共に世界を駆け巡れ‼』
なんか頭悪そうなヤツだな。
剣と魔法の世界って、そんなのお伽話やラノベの世界だろうが。
『では、いってらっしゃ〜いっ‼』
あぁ、なんか暗くなって来た。
もしかしてようやく眠れるのかな······これが死か?
親父、母さん······もし起きて病院なら、死ぬほど謝るよ。これで死ぬなら······ごめんなさい。
俺の意識は、再び闇に飲まれた。
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「···············んぁ?」
目覚めると、トラックの運転席の中だった。
少し痛む頭を抑え、ドリンクホルダーにあった飲みかけの栄養ドリンクに手を伸ばし、そのまま残りを飲み干す。
「いてて······ったく、ヘンな夢だった」
事故にあったような気がしたが、夢だったのか?
もしかして、無意識の内に仮眠でも取っていたのかな。眠気も飛んでるし、さっさと帰ってもう一眠り。
「···············へ?」
俺は、手に持ってた栄養ドリンクの瓶を取り零す。
中身はカラだったから溢れることはなかったが、そんな状況ではなかった。
「······こ、ここ·········どこだ?」
確か、配達の帰りで会社に戻る途中だった。俺は眠くなって仮眠を取っていたんじゃなかったのか?
俺の目の前には、得体の知れない木々が茂っていた。そして、唐突に女性らしき声が聞こえてきた。
『おはようございますマスター。お目覚めですね』
「は?」
トラックのスピーカーから聞こえてきた。
俺はオーディオを確認するが、スイッチは入っていない。それどころかエンジンすらかけてない。
『はじめまして。私は能力に付随する神工知能『カスタマイズサポート』と申します。以後、マスターのサポートと、このトラックのカスタマイズを担当させて頂きます。よろしくお願い致します』
俺は空いた口を塞がず、スピーカーの声を聞いていた。
********************
「あ、え〜っと、なんだって?」
『はい。私は『カスタマイズサポート』です。それではコウタ様の能力である《デコトラ》の説明をさせて頂きます』
「ちょ、待った‼ 待った待った‼ 落ち着いて深呼吸しろ‼ すーはーすーはー······ふぅ。それで、ここはどこだ? 高速道路を走ってたんだが、トンネル前からの記憶がない」
『はい。コウタ様は居眠り運転によりトンネルに衝突。そのまま死亡されました』
あっけらかんと言いやがった。
『コウタ様は7万7777人目のトラック事故の死亡者ということで、神様が特典としてこの世界に転移させたのです』
「·········」
『では、能力の説明をさせて頂きます』
スピーカーからは、変わらず女性の声が聞こえてくる。
オーケー、まずは説明を聞こうか。
『コウタ様の能力である《デコトラ》は、このトラックをカスタマイズする能力です。まずはこちらをどうぞ』
「お、おお⁉」
なんと、フロントガラスに細かいデータが表示された。
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[機体名] 未定 レベル1
[運転手] 吾妻幸太
[機体スペック]
○最大速度 140km/h
○最大積載量 3.5t
[武装]
○なし
○以下項目未開放
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まぁ普通だな。細かい数字は端折ってる。
「······おい、この武装ってなんだよ」
『その名の通り武装です。レベルが上がれば使えるようになります。現在の武装はありませんので、戦闘の際は体当たりで戦うのがベストですね』
「おいふざけんな⁉ 俺に轢き殺せってのか⁉ それに戦闘ってなんだよおい‼」
『このあたりはモンスターが生息しています。なので、森を抜けて近くの街道へ出ることをおすすめします』
「も、モンスター?」
『はい。この世界に多く生息する、人に危害を加える魔獣です』
いよいよファンタジーじみて来た。
とにかく、この状況を受け入れるしかない。間違いなく俺は高速道路を走ってたし、居眠り運転をした記憶もある。異世界へ来たのは間違いなく本当だ。
「あーもうわかったよ。お前の言うことを信じるから、ここから安全な場所に案内してくれ」
『畏まりました。それではエンジンをかけて出発しましょう』
こうして俺は、異世界の森をトラックで走ることになった。
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