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Snow8 雨
あれは、雨の日のことだったかな。
私はあの日もビルの屋上にいたの。いつものように、氷で少し屋根を作ってね。雪女の氷だから、簡単には溶けたりしないのよ。
「……雨だし、悠太は来ないかなぁ」
そう呟いてから、気づいたの。
私はいつの間にか、悠太がやってくるのを楽しみにしていたことに。
「今日は雨だし、来ないか。寂しいけど……仕方ないかな」
そう呟いた時だった。
「ゆかさ、僕だよ」
って声が聞こえたのは。
振り返ると、そこには傘をさした悠太がいた。私は氷の屋根を広げて、悠太を手招きしたの。
「今日は雨なのに……来てくれたんだね。ここに入って。そう簡単に雪女の氷は溶けないから大丈夫」
悠太が屋根の中に入ったのを見て、私は言った。
「悠太、今日も来てくれたんだね。嬉しい。
……ありがとう」
悠太はゆるりと首を振って、言った。
「……あのね、ゆかさ」
その時、やっと気付いたの。
悠太の表情が、明らかにいつもと違うことに。
「……どうしたの、悠太?」
そう聞いた途端、悠太は大粒の涙をこぼした。
「ゆかさ、聞いてくれる?」




