Snow4 約束
私は、夜の空を見上げていた。
「ゆかさ、僕だよ」
「あ、悠太……今日も来たのね」
「うん」
「……嬉しい」
口から出た言葉に、自分が驚いたんだっけ。
嬉しいなんて、死ぬ前も、死んだ後も……長いこと、そんな感情は抱いていなかったのに。
でも……たしかに、嬉しかったの。
悠太がそこに、私の目の前にいることが。
「ふと思ったんだけどさ……ゆかさは、ここから動かないの?」
悠太にそう聞かれて、私は思わず答えていた。
「動かないんじゃないの」
悠太がはっとした表情でこちらを見たのと、足元が意に反して凍りついていくのを見ながら。
「私は……ここから動けないの」
私の足には、普段は実体がないくせして、私がそこから出ようとすると実体化して、私の動きを封じる鎖が付いていたの。
だから、私が雪女になりたての頃からずっと、私は屋上から出られず、縛り付けられてばかりだった。
何度壊そうかと思ったか!
無理やり壊そうともしたし、凍りつかせてみたりもしたのよ。
でも、どうやっても、鎖は壊せなかった。
「……そんなぁ。ここよりも空が綺麗なところがあったから、連れて行きたかったのに」
胸の奥が、じんじんして、暖かい。
「ありがとう、悠太」
私には、それしか言えなかった。
「いつか、ここから動ける日が来たら、一緒に行こうよ」
「分かったわ」
そう、悠太と約束した。
そしてその日は別れたんだっけ。
悠太は知らないでしょうけど……
私は悠太と別れた後、何年振りか分からない涙を流したの。涙が出るなんて、思ってなかったわ。
だから私、あの日のことは決して忘れない。
——ううん、違う。
私は……忘れられないの、あの日のことを。




