Snow25 雪女の思い出
「——昔のことですけどね、私、雪女に会ったことがあるんですよ」
佐倉さんの言葉に、僕らは顔を見合わせた。
「私がまだ幼い子供だった時でした。幼い頃の私にとってはこの百貨店は遊び場のような場所でした。そして、幼い頃から私はここが好きだったんですよ。なので私はいつもここに来ていたんですけどね、その人はここの噴水を氷のオブジェに変えてしまったんですよ。流れている噴水も素敵ですけどね、氷のオブジェも綺麗でした」
佐倉さんはその時のことを思い出したのだろうか、うっとりとしたように微笑んだ。
ゆかさはいたずらっ子ぽく笑った。
「佐倉さん、もう一度それを見たいですか?」
「そうですね……見ることが叶うなら、いつか」
「ふふ……叶いますよ、その願いごと」
「……お客様?」
佐倉さんが不思議そうにゆかさのことを見つめた。ゆかさは、笑っている。
ちょうどその時、広場には僕たち以外、誰もいなかった。
「だって私も……雪女ですから」
その言葉と同時に、ゆかさは見事に噴水を氷のオブジェに変えてみせたんだ。
「……!」
佐倉さんは、言葉をなくしてしまったようだった。
「……あの時も……こんな氷のオブジェが、私の目の前にありました……夢では、ありませんよね?」
ゆかさはゆっくりとうなづいて、さらに、その場に雪を優しく降らせて見せていたっけ。
佐倉さんは、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます、お客様」
ゆかさは首を振った。
「いいえ、私はお礼をしたかっただけです」
「お礼?」
「あの参加券ですよ。見ず知らずの私たちに参加券をくださって、ありがとうございます。おかげで今日は、忘れられない一日になりそうです」
佐倉さんはにこりと笑った。目には嬉し涙が溜まっていた。
「私も今日のことは忘れないでしょう。本当に、ありがとうございます」
——ねえ。
さっきも言ったけど、広場には、なぜかその時だけは人がいなかったんだ。
少し前までは人がいて——お年寄りから小さな子、男の人も女の人も、沢山いたのに。しかもね、後々知ったけど、あの広場は最寄駅の地下道に繋がっていたんだ。だから、人が来やすい場所だったのに……なのに、誰もいなかったんだ。
なんだか少し、不思議じゃない?
その後、僕たちと佐倉さんは1階へと向かったんだ。勿論、噴水を元に戻して雪が降るのをとめてからね。
佐倉さんはコンシェルジュデスクに戻って、僕たちは百貨店スリジェを後にした。
「ありがとうございました。また、百貨店スリジェにお越しくださいませ」
佐倉さんの声を背に、店を出る。入った時に扉を開けてくださったドアマンも「ありがとうございました」と言ってくださった。




