Snow22 お出かけ
あれは、3月28日のことだった。
あの日、僕とゆかさは約束通り、2人で出かけたんだ。僕は自分にしては割とおしゃれして、ゆかさはいつもの白いワンピースで。靴下と靴は、黒靴下とローファーを貸した。流石に裸足で出かけるわけにはいかないだろ?
久々に靴下とローファーを履いたゆかさは、その場でくるりと一回転してみせた。そして最寄り駅まで歩いていたら、途中でゆかさが「悠太、靴擦れしたー!」と騒いだから絆創膏をあげたんだっけ。
月原駅に着いてから、僕たちは第一目的地の『ベーカリー モナット』に向かって歩き出した。
「モナットに行くの、久しぶりだなあ」
「私も!すごく楽しみ」
ゆかさはいつもよりもはしゃいでいた。僕も多少テンションが上がってただろうね。
そのうちモナットに着いて、そこでパンを買った。僕が買ったのは焼きそばパンとラスク、そしてメロンパン。ゆかさが選んだのはラスクとかぼちゃあんぱんだった。ゆかさの分のお金は僕が負担した。ゆかさがお金を持っているわけがないのは分かるだろう?
「モナットってパンが美味しいだけじゃなくて、安いからね」
「うんうん。なんていうんだっけ……良心的な価格?」
「うーん、どうだっけ?……まあいいか。行こう!」
そして僕たちは、星原駅に戻り、夜見月駅へと向かった。
「悠太、あの服、すごく可愛くない?」
ゆかさが指差したのは、夜見月駅を出てすぐのところにある、百貨店のショーウィンドウに飾られた、この時期にぴったりな、桜色のワンピースだった。
「ゆかさにすごく似合いそうだね」
「本当?嬉しいな」
ゆかさは嬉しそうに笑った。
「ちょっと中を見て回ってみよっか」
「うん」
「いらっしゃいませ」
ドアマンの男の人が笑顔で言った。
僕たちが店内に入ると、女の人の声がした。
「いらっしゃいませ。百貨店スリジェへようこそ。ごゆっくりと店内をご覧くださいませ」
鈴のような、綺麗な声だ。
辺りを見回してみると、コンシェルジュデスク、なんてものがあった。そこにはコンシェルジュと思われる女の人がいた。
「あら、お2人は恋仲ですか?」
その人が、さっきの声で声をかけてきた。
百貨店にコンシェルジュがいるなんて知らなかったから、びっくりしたのと、「恋仲ですか?」って聞かれてどぎまぎしたのとで、何も答えられずにいると、その人が不意にコンシェルジュデスクを離れてやってきたんだ。
「私は百貨店スリジェのコンシェルジュ、佐倉春花と申します。分からないことなどがございましたら、私にお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます、佐倉さん」
ゆかさがさらりとそう答えていた。慌てて僕もぺこりと頭を下げたっけ。
そして、店内を見て回ろうと思った時、鈴のような声が僕らを呼び止めたんだ。
「あ、もしよければこれ、受け取っていただけませんか?」
渡されたそれは、百貨店でちょうど行われていた福引きの参加券だった。しかも、2枚。
「仲の良い方に頂いたのですが、コンシェルジュである私が使う訳にもいきませんので。もしよければ、使っていただけませんか?」
成る程、社員である以上、福引きに参加することは出来ないのだろう。
僕が礼を言って受け取ると、その人はにっこりと笑ってこう言ったんだ。
「お2人に今日、素敵なことがありますように」




