表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

Snow21 ホワイトデーの夜

 その日、僕はチョコ菓子を買ってゆかさに会いに行った。理由は単純。ホワイトデーだったからね。

 ゆかさは僕のことを助けてくれた。だからそのお礼に、と思ったんだ。

「ゆかさ、僕だよ」

「悠太!きてくれて嬉しい」

 ゆかさはそう言うなり、僕の手を取った。

 ——どきっとした。

「悠太、見せたいものがあるんだ」

 ゆかさはそう言うと、ついてきて、とだけ言って、僕の手を引いて走り出した。

 あまりにも急で、転びそうになったっけな。

「わっ!待ってよ、転んじゃう!」

「ごめんごめん」

 ゆかさは一度立ち止まった。

 そこで僕は体勢を整えた。

「大丈夫?」

「うん、なんとか」

「じゃあ、行くよ!」

「うん!」

 ゆかさが言って、僕はまたゆかさに手を引かれて走った。いろんな意味で、どきどきしていたよ。


 着いたのは、夜の海だった。

 三日月が海か空か、区別がつかないところに浮かんでいる。ぽっかりと。船のように。

「三日月、綺麗だね」

「——三日月じゃないよ」

「えっ?」

 ゆかさが呟くように言った。

「ずっと数えていたから。今日は新月の4日前」

 それは三日月の逆の月だった。しかも、1日分太い。

 ずっとあの屋上に閉じ込められていた雪女(ゆかさ)は、そのぐらいしか出来ることがなかったのかもしれない。あと出来ることは、それこそ氷で何かを作ることぐらいかな?


 月の光が海に写って、月への道を作っていた。星は空と言う名の海に浮かぶ。綺麗な光だった。

「あ、これ」

 僕はゆかさにチョコ菓子を渡そうとした。

「これ、あげる」

 ゆかさは嬉しそうに笑った。

「ありがとう。でも私、チョコ苦手なんだ」

「あ、そうだったの?ごめんね」

 僕は渡しかけたそれをしまう。


「——ありがとう」

「えっ?」

「僕のこと、助けてくれて」

「……そんなことないよ。私も悠太に助けられた。——ありがとう」


 ただひたすら静かで、心地よい時間が過ぎていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ