Snow21 ホワイトデーの夜
その日、僕はチョコ菓子を買ってゆかさに会いに行った。理由は単純。ホワイトデーだったからね。
ゆかさは僕のことを助けてくれた。だからそのお礼に、と思ったんだ。
「ゆかさ、僕だよ」
「悠太!きてくれて嬉しい」
ゆかさはそう言うなり、僕の手を取った。
——どきっとした。
「悠太、見せたいものがあるんだ」
ゆかさはそう言うと、ついてきて、とだけ言って、僕の手を引いて走り出した。
あまりにも急で、転びそうになったっけな。
「わっ!待ってよ、転んじゃう!」
「ごめんごめん」
ゆかさは一度立ち止まった。
そこで僕は体勢を整えた。
「大丈夫?」
「うん、なんとか」
「じゃあ、行くよ!」
「うん!」
ゆかさが言って、僕はまたゆかさに手を引かれて走った。いろんな意味で、どきどきしていたよ。
着いたのは、夜の海だった。
三日月が海か空か、区別がつかないところに浮かんでいる。ぽっかりと。船のように。
「三日月、綺麗だね」
「——三日月じゃないよ」
「えっ?」
ゆかさが呟くように言った。
「ずっと数えていたから。今日は新月の4日前」
それは三日月の逆の月だった。しかも、1日分太い。
ずっとあの屋上に閉じ込められていた雪女は、そのぐらいしか出来ることがなかったのかもしれない。あと出来ることは、それこそ氷で何かを作ることぐらいかな?
月の光が海に写って、月への道を作っていた。星は空と言う名の海に浮かぶ。綺麗な光だった。
「あ、これ」
僕はゆかさにチョコ菓子を渡そうとした。
「これ、あげる」
ゆかさは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。でも私、チョコ苦手なんだ」
「あ、そうだったの?ごめんね」
僕は渡しかけたそれをしまう。
「——ありがとう」
「えっ?」
「僕のこと、助けてくれて」
「……そんなことないよ。私も悠太に助けられた。——ありがとう」
ただひたすら静かで、心地よい時間が過ぎていった。




